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第33話 交換採点会で驚愕の結果

 模試の後は模範解答がもらえることになっている。

 三教科の試験が終わった後、少し待ってから終礼が始まった。

 その際、模範解答は勿論、ついでに俺達の答案のコピーまで貰うことができた。

 答案自体は採点のために送付しなければならないが、コピーなら自由である。

 要するに学校側は、『これで自己採点しなさい』と言っているわけだ。


 いつもより心なしか濃く大きな文字ではっきり書かれた三枚の答案コピーを貰った俺の元に、終礼後レイサがやってくる。

 

「ドーだった?」

「……よかった気がする」


 若干心もとない返事になったのは、いざ模範解答を目の前にして怖気づいたからだ。

 やっぱり一朝一夕で俺の日和癖は治らなかったらしい。


「せっかくだし、今から自己採点でもするか?」


 特に予定はしていなかったが、答案コピーと模範解答を貰ってしまえば、自己採点をしたくなってしまうものだろう。

 というわけで聞くと、レイサは気まずそうに目を逸らす。

 珍しい反応に、俺は首を傾げた。


「あんまり出来が良くなかったのか?」


 聞くと、彼女は首を振る。


「イヤ、入学後断トツで解けたと思う。ただ、心の準備がァ」

「いつになく弱気だな」

「そりゃ負けたらペナルティがありますし」

「はは、負けてないって絶対」


 正直俺にはかなり自信があった。

 果子の事を知り尽くしているからこそ、アイツが真面目に対策したレイサに勝てるとは思えない。

 ここ最近のレイサを見ていて薄々気づいていたが、やっぱりかなり地頭が良いタイプだった。

 教えたところはすぐに覚えるし、むしろ今まで赤点ばっかりだったのが不思議なレベル。

 

「っていうか、今確認しないともやもやして仕方ないだろ?」

「ソレはそうだケドー。はァ、緊張するなァ」

「ふふ、私もご一緒しても?」


 いつの間にか、放課後になったうちの教室に凪咲もやってきていた。

 俺達の会話を聞いていたらしく、凪咲は弱気なレイサの横に立つ。

 

「いつものファミレスに行きましょう。昼食も済ませられますし」

「逃げらんなくなっちゃったナ。……血糖値スパイクで潰れないようにしよ」


 ぶつぶつ言うレイサの腕をやや強引に掴む凪咲。

 そのまま俺達は学校を後にした。





 ファミレスで昼食を取った後、店員が食器を下げてくれたのを確認してから、本題を始める。

 全員各々答案のコピーと模範解答を取り出したところで、凪咲が手を叩いた。


「あ、こういうのはどうでしょう。今から三人で答案を交換し、それぞれ採点し合うというのは」

「! それは面白そう!」


 飛びついたのは俺だった。

 まるで青春のような提案に心が躍る。

 自分で自分の答案に向き合う心の準備もしなくて済むし、部分点の判断などは他人の方が冷静な基準でできる。

 最高の提案だと思った。

 と、そこでレイサがジト目を向ける。


「アタシ、ナギサに答案見せるのヤダ」

「なんでですかっ!? あんなに一緒に勉強したのに!」

「だからですケド。ってわけで、ツクシお願い」

「あ、あぁ」

「くっ、筑紫君には私が見てもらいたかったのに……!」

「ナギサのはアタシが責任持って採点してあげるー」


 なんだかバチバチ火花を飛ばし合う二人が意外だ。

 こいつら、こんなに仲悪かったっけ。


 なんてことがありつつ、俺の答案は凪咲が採点し、俺はレイサのを採点、そしてレイサは凪咲の採点をすることになった。


「じゃ、ヨロシク……」

「……これは凄いな」


 レイサから手渡されてすぐ、俺はそんな独り言が口を突いて出た。

 正直、模範解答を見なくてもわかる。

 これはかなりの出来だ。

 言っちゃ悪いが、果子となんか比べ物にもならないだろうことが既に予想できる。


 照れ笑いを浮かべるレイサを横に、俺は入念に教えた数学からチェックしていく。

 三人とも静かに口を閉ざし、ボールペンの音だけが響いた。

 みんな、互いの丸の音やチェックをつける音に敏感に反応してしまい、苦笑することもしばしば。

 そんなこんなで、大体十分くらいが経過した。


 全ての答案をチェックし終えた後、俺はレイサを見る。

 二人共、先に採点が終わっていたから既に姿勢を正して座っていた。


「……レイサお前、今までわざと低い点数取ってただろ?」

「開口一番ソレッ!? 酷過ぎるンですケド!」

「いや、じゃないと説明つかないっていうか……」


 冗談ではなかった。

 ぷんすか怒るレイサには申し訳ないが、俺は大真面目である。

 だって、コイツの点数、前回の俺の模試の結果とほとんど変わらなかったんだもの。

 正確な点数として、国数英の順に61点、74点、74点。

 この模試で平均約7割は、全国偏差値で言うと余裕で60中盤くらいはあるかもしれない。

 なんなら、範囲が広くなった事や単純に出題傾向を考慮すると、前回の模試より今回の方が難易度高いし。


 正直、ここまでとは思っていなかった。


 困惑する俺に、不安そうな顔でレイサが聞いてきた。


「デ、ドーなの?」

「前回の俺の模試結果と同じくらい……いや、これじゃ褒めてるかわかんないな」

「ッ!? 本気で言ってる!?」

「ご、ごめん。貶したつもりはなくてだな」

「じゃなくテ! ……アタシ、そんなに良かったの?」

「え、うん。平均7割近いし、学校でも余裕で二桁順位だと思う」

「ッ! ……イヒヒヒヒヒヒヒヒ」


 俺の言葉に、レイサは気絶するように項垂れた。

 そしてそのまま、壊れたように笑い始める。

 急に不具合を起こしたので凪咲の顔を見ると、彼女はまるで母親のような笑みを返してきた。


「レイサさん、凄く頑張ってたんですよ」

「そ、そうだな」


 そりゃそうか。

 仮に俺の予想が正しいなら、校内順位だけでもこの前の実力試験からさらに200位くらい上げた事になる。

 努力が報われる瞬間は、いつだって抱えきれないほどの感情で満たされるからな。

 このくらい喜ぶか。


 と、そんな事を考えていると、凪咲は採点をし終わった俺の答案を見せてくる。


「自分の結果も確認してみては?」

「え、あぁ」


 目を落として、まずは点数から確認していく。

 国語92点、英語96点、数学……100点か。


「ふぅ……。数学だけでも満点取れてよかったぁ」

「ふふ、不思議な反応ですね。私ならもっと喜びますよ」

「いや、正直分不相応なのは承知で全教科満点狙ってたからな。国語と英語に関しては反省点も多い。手放しに喜ぶわけには……なんて、流石にそれは嘘になるか」


 クールぶってみたけど、やっぱり嬉しい。

 俺は志望校のレベルが高すぎるため、満点を落として満足するなと自分に言い聞かせたかっただけだ。

 素直になって良いなら、言いたい。

 勿論超嬉しい。

 だってこれ、パッと計算したが平均96点だろ?

 自分で言うのもなんだが記述でこれは流石に天才過ぎないか?


「素直に喜んでも良いと思いますよ。筑紫君、笑みが口に浮かんじゃってます」

「はは、凪咲ちゃんにはかなわないな」


 まだ慣れない呼び方に若干照れつつそう呼ぶと、凪咲も嬉しそうに微笑む。


 と、そこに復活した帰国子女が介入してきた。


「ナギサ、アンタ自分の結果のコト忘れてない?」

「ちゃんと採点してくれているんでしょうね? ふざけたことしてたら怒りますけど」

「ドーユー意味ですかァ? ア、ココの答え読みにくかったからやっぱバツにしよっかナ。ツクシも見てよ、読める?」

「やぁぁぁぁ! そこはダメ! 時間ギリギリで走り書きしたんです!」


 二人で答案用紙を取り合って揉めているのが、なんだか新鮮だ。

 さっきも思ったが、やっぱり二人の距離感がおかしい。

 俺が知らないところで何かあったのかってレベルで仲が悪くなっている。


 しかし、それはそれとしてだ。


 レイサと果子の勝負だが、もう結果返却を待つこともないだろう。

 記述試験だから採点者によって多少は成績のズレがあるかもしれないが、それを加味してもレイサの圧倒を疑う余地もない。

 逆に果子がこれを上回っているのなら、それはそれでアイツを見直す。

 

 凪咲からの小さなメモ書きが残る答案コピーを見ながら、俺は喜びと悔しさでこぶしを握った。

 全教科満点も本当にあと少しだったため、確かに後悔はある。

 だけど、それは次までに修正すればいいからな。

 欲を言えばきりがないが、俺だってこの模試で十分すぎるほど点を取れていた。

 ここ最近の追い込み学習が報われて、ようやく一息つける。


 そんな俺の目の前で、採点結果に凪咲は肩を落とした。


「あぁ、また筑紫君に負けてしまいました。国語94点、数学92点、英語88点の合計274点です……」

「全国模試で平均9割超えて落ち込むなよ~。アタシへの当てつけ?」

「よし! 凪咲も立派なライバルだから勝てて安心した。でも国語で2点負けたのか……。流石にここは勝てないな」

「ふふ、清々しいほど喜んでくれると、ライバル扱いされているのがわかって私も嬉しいです。でも次は負けません」

「オーイ。アタシをおいて高みのバトルに耽るのやめてネ?」


 言い合う俺と凪咲に苦笑しながらレイサがツッコんできた。

 そして三人で顔を見合わせて、吹き出した。

 これからテスト結果が返ってくるのが、少し楽しみである。

 さらに、やはり10月に入ればもうじきアレもある。


「ツクシ、今度はアレだネ」

「あぁ」


 俺とレイサは目を見合わせた。

 心が通じ合っているのか、同じことを考えているらしく嬉しくなる。


「中間テストだな!」「文化祭だネッ!」


 ハモると思ってタイミングを合わせたのだが、何かおかしな単語が聞こえたような。

 きょとんとしていると、ジト目の二人にピシャリと言われた。


「10月の最初のイベントは文化祭!」

「そうですよ。勉強も良いですが、ちゃんと行事に参加してくださいね?」

「は、はい」


 そうだ。

 思い出した。

 高校生活って勉強だけすればいいわけじゃなかったんだった。


 呆れたような二人に、俺は新たな試練を感じていた。

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