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「まさか、同じマンション住むことになるとはね〜」
タワマンの屋上ラウンジで竜星、莉夏と春でピアノの自動演奏を聞きながらワインを飲む。
なぜか、春と竜星はチェイサーの水をしっかり脇に置きながら。
「で、籍はもう入れたとか?本当?」莉夏が驚く。
「会社に書類出すのに色々詮索されたくないですからね。
ウチはいちいち上司の許可が居るんですよ、引っ越しや転居に。」竜星が説明する。
入籍してないで同居するのを上司に報告とか、それは拷問っぽい、確かに。
春が退社後しぶしぶタワマンの竜星の部屋に行くと春の荷物の上に婚姻届が乗っていた。
すでに竜星の署名、保証人の欄には署長が書いてくれていた。
自分の先々を考えてニコニコして書いたんだろなあ〜と想像できる。
春の欄もしっかり鉛筆で下書きされてた。
箱の間から竜星が顔を出す。
「同居に関して詮索されたくないので出しときます。
何回か春の報告書を署長として見させて貰ったけど、
悠馬の事言えた義理じゃないですよ。
誤字脱字が多すぎて決裁印押したくなかったです。
婚姻届はミスしないで下さいね。ちゃんと下書きしたから。」
竜星が見下しながら言う。
勝手に人の荷物運んで、勝手に婚姻届書いて、その上で、その態度は何なんだ?
春の拳がプルプルした。
「立ち入った事を聞くけど、結婚したけど…まだなの?」ワインを飲みながら遠慮ぎみに莉夏が聞く。
「昔はこれが普通でしたから。
オーダーした商品がまだ届かないんですよね。
僕も命は惜しいし。
でも、一緒にお風呂も入るしベッドも一緒に寝てます。
後もう少しでコンプリートできます!」竜星が嬉しそうに言う。
「いちいち報告しなくて良いと思うけど!」春はまた拳を抑える。
「僕は必ず警視総監になります。早く身を固めておきたいんですよ。」少し竜星が目を伏せる。
御前崎の原子力発電所から水を抜いた炉内の報告を受けてから竜星はたまにこんな顔をする。
炉内は空っぽだったそうだ。
あんなに水が汚れていたのに。
爆弾抱えたロボット以外、デブリ1個落ちてなかったそうだ。
炉内のデブリは?
汚染されたロボットやトラックはどこに消えたのか…
どこかの港の丘の上の一軒家。
坂道をフウフウ言いながら小太りの中年男が登っていく。
坂の途中の電信柱には、ボロボロになった小さい子供の顔写真が。
「あら?もうお帰りかい?緋口さん家の八郎君。
この犯人、まだ捕まらないのかね〜まだ貼ってるし。」
近所のおばあちゃんだろうか?
八郎に声を掛ける。
「子供が首絞められて沼に捨てられてた事件ですよね。
もう時効なんですけどね〜貼った人も、もう忘れてるんじゃないですか?」
八郎は休憩も兼ねて立ち止まる。
「そうかい?知らなかったよ。親御さんは悲しいだろうね〜」おばあちゃんが不憫がる。
「20年前くらい?時効が無くなる前だったから。残念だけど。」八郎は世間話をして別れる。
家に戻りスーパーの袋から大量のジュースやお菓子を出す。
「この身体を維持するのも大変だよ。
まあ、おかげでお肌は太って艶々になったが。」シワのないパンパンの頬をなでる。
古い家なのでキッチンの床がきしむ。
八郎は床を叩いて声を掛ける。
「時効はあっても罪が消える訳じゃないからね。
そこで反省しなさい。」そう言うと奥の居間に入る。
そこには歴史、戦争史の書籍がズラッと並んでる。
そして古いゲーム機と遺影と位牌が。
テーブルの新聞には東京の港湾局が晴海埠頭付近の運河を埋めて一大リゾート地にする計画が発表された。
「築地の放射能マグロみたいにうやむやにできるかな?」八郎がクックッと笑う。
携帯が鳴る。
「はい、アメリカの軍艦が入港するんですね。
分かりました。すぐ行きます。
原子力空母ですか!スゴイですね〜
はい、ちゃんと水先案内させていただきます。」
八郎がニヤッと笑った。




