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さすが察庁(警察庁)のエリートは飲み込みが早かった。
1日で粗方覚えてしまった。
本庁への報告メールを送ると春を見てニコッと微笑んだ。
「今日はありがとうございました。つきっきりでお仕事を教えていただいて。」端正な顔立ちに細身の品の良い物腰、さすがのエリート感だ。
「いえいえ、覚えが早くてビックリしました。
部長もベテランもなぜか今日は出払ってて…申し訳ありませんでした。」春は詫びた。
組織犯罪対策部は、基本ガサツな人間が多い。
やはりヤ〇ザ相手の仕事が多いせいか…見かけも良く似てる。
だから、察庁のエリートに絶対良い印象を与えない!と自覚してるのだろう。
一応辛うじて女の春で少しでもソフトなイメージを
持って本庁に帰っていただこうと言う作戦だろう。
「良ければお礼に夕飯を奢らせてくれますか?」エリート君は誘い方もスマートだ。
春は考えた。
『ここで断れば、エリートに恥をかかせてしまわないか?
もしかしたら山本や悠馬を出し抜いて、エリート君が
帰った後の係長ポスト!
ここで点数稼げれば、私に回ってくるかも…』
「本当ですか?食堂の定食も飽きてたので嬉しいです!」ニッコリ微笑んだ。
お台場の夜景が美しいレストランにエスコートされた。
自慢じゃないが、港湾署に異動してから1度もこんなとこ来たこと無い!
いっぱい並んだスプーンやフォークを見て、必死で同僚の結婚式のマナーを思い出していた。
「緊張しますか?冬木春さん?」エリート君が心配そうに春を見る。
「いえいえ、場馴れしてなくて…それに『春』で良いですよ。皆呼び捨てなんで、はい」ぎこちなく笑う。
「じゃあ、僕も。『竜星』って呼んでください。」両手の指を綺麗に組んでそこにアゴをのせて品良くウインクされた。
「エエッ、それはちょっと…」春は頭をかく。
秋津莉夏もだが、春は基本男女共に美形に弱い。
莉夏も美しく利発でハキハキとした話し方で…竜星も似てる。
「じゃあ〜竜星さん?」春は鼻の頭をポリポリしながら遠慮がちに呼ぶ。
「ありがとう。春」小首をかしげて竜星が美しく微笑んだ。