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「あっ、助かります…」シンプルなハーフトップとショーツとカッターシャツをお風呂上がりに渡された。
「前に教えて貰った店で買っときました。どうぞ。」
泊まると一言も言ってないが…
女子寮のシャワーは何かと物騒になって故障してたり
上から掃除用具が投げ込まれたり落ち着いて入れないので
竜星の部屋のシャワーを貸して貰った。
さすがにズボンを脱いでまで打撲傷の跡を舐めろと言われず助かった。
またキレて暴れてしまうとこだった。
竜星はすこぶる機嫌が良い。
舐めて治った訳ではないが、痛がらなくなった。
傷つけた本人としては精神的に助かる。
酸素スプレーもタワマン下のドラッグストアで買ってきて必死で吸ってた。
「明日は総動員で横浜の地下要塞の探索しましょう。もう逃げられてるとは思いますが。追える痕跡があれば良いんですが。」竜星の話に春は首をひねる。
どうしてもあのヨボヨボの今にも臨終しそうなお爺さんが
あの激シブ橋立教官とは思えないからだ。
「輪島父娘の死因がハッキリしたそうですね。」春が聞く。
中華街に行ってたので聞けなかった話だ。
山本から断片的に聞いた。
「誰かと激しく戦った打撲痕が多くて見過されてましたが、
両者とも決定打になったのは頭への一撃です。」
竜星がニヤけ顔を正して話す。
「あっ…」春が声を漏らした。
「お察しの通り側頭部への強烈な蹴りです。
それも首の骨まで折れてるので即死だったようです。」
「ああ〜っ、そうですか」何となく予想していた。
輪島貴美子も輪島教官もジークンドーや柔道の使い手で接近戦のプロだ。
距離を保ってダメージを与えるには足技になる。
ただし、腕の良い2人では足を掴まれたり軸足への攻撃を受けることになる。
一撃だ。一撃で仕留めないとダメだ。
「殺す以外に手が無かった…と言う事ですね。」春がため息をつく。
悠馬は前もって催涙スプレーや袋を用意したり、橋立さんは輪島さんの弱点を熟知していたろう。
「かなりの使い手なのは確かです。キックボクシングか空手、ムエタイ…警察内で捜すのは簡単でした。」
「でした?」春は聞き返す。
「…また、時が来たらお話します。」竜星はそう言い春の唇をキスで塞いでしまった。




