47
対策室は異様な空気に包まれる。
顔も首も変色した竜星の姿に捜査員がどよめく。
もしかしたら暴漢にでも襲われたのかと思われたが、
誰かが、ヒソヒソと春の方を指さした。
アイアン・メイデンの噂はかなり有名らしい。
捜査員となると数も◯千人レベルになるので異動なので
個人情報は結構行き渡る。
まだまだ20代はセクハラの餌食で泥酔するまで飲まされたりイタズラされたり…
表沙汰にならないだけで色々ある。
が、その中で手を出した男をことごとく病院送りや
不能まで追い込んだ拷問器具のような女がいると噂が立っていたのだ。
春は記憶が無いので、どうしてそんな噂が立つのか?
迷惑だったが、おかげで32才まで清らかな生活が維持された。
そして男達は今噂の拷問器具アイアン・メイデンから出てきた男を見ているのだ。
しかし、当の本人は竜星はニコニコと清々しく仕事に励んでいる。
「無線の中継機材と思われる物を教え子達が運んでいるのだが、それが1箇所ではない。
富士山方面、箱根方面、伊豆方面など計5カ所教え子が調達した機材を橋立教官は受け取っている。」竜星は地図上に受け取り位置を示して説明する。
「受け取ると言う事は、設置には関わっていないのてすか?」捜査員が質問する。
「そう、5カ所共別々の教え子に個々に連絡し樹海や
強羅、天城などで、受け取っている。
だから場所もどのように取り付けられてるのか?
本当に5カ所なのかもあやふやなのだ。」
捜査員達が、ザワザワする。
「橋立さんは、登山が趣味で無線も好きでした。
他にヘリの操縦に潜水士、車も大型中型、特殊作業車も持っています。」全部橋立教官に仕込まれた悠馬が説明する。
しかし、登山と無線だけは肌が合わず脱落したらしい。
竜星は深刻そうに話を聞く。
「犯罪者は、そんな完璧な奴はいないから組織化して数を組むが、
警官のそれも、選ばれて教官ともなると1人で何でも出来るから、
情報も漏れず完璧な仕事をしてくる。
我々の敵は、組織ではない。
1人の万能人間だ。
心して挑んで欲しい。」捜査員のため息が漏れる。
「多分、何か所も中継基地を作っているのは、状況によりチャンネルを変えれるようにしているんだと思います。
もしかすると反対の名古屋や岐阜方面にも設置してるかもしれません。」無線に詳しい者が説明する。
「せめて設置した山だけでも特定できれば、そこから
現在の潜伏先もしぼれるんだが…分かってるのは5カ所だけなんだ。」竜星がその5カ所をマウスでなぞる。
「橋立教官と一緒に仕事した者は、この中にいないだろうか?
どんな小さな事でも良い。
彼が好きな物、得意な物など教えて貰いたい。」竜星が皆に声掛けする。
「先輩は博識で歴史書なんかも良く読んでました。
確か会社で本を読んでたの見たことあるんですが。」後輩らしい年配の捜査員が遠い記憶をたどる。
竜星がプロファイルをめくるが、「その話は載って無いなあ〜
大学は法学部だし。」アゴをなでようとして、痛かったのか手を下げた。
春は後ろからハラハラしながら見る。
病院へすぐ連れて行きたかったが、会議を本人が優先したのだ。
「ミッドウェー海戦だ!確か昔本棚にあった!
あれ?いつからか無くなってたな?どうしてだ?」悠馬が呟いた。