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「でも、意識が飛ばない保証は無いんです。
竜星さんにもしもの事があったら!」春が説得を試みる。
竜星は振り返り春のそばに歩み寄る。
「僕を心配してくれるんですね…」春の頬に手を添えて顔を近付ける。
「だから、お願いです。私を縛って!」竜星の手を振りほどいて持ってきたショルダーバッグから
ビニールテープとガムテープを出す。
それを見た瞬間に竜星が嫌悪感をもろに顔に出して後退った。
「なんで、そんなもの持ってきたんですか?
本当に無理だから!しまってください!」サッと遠退きキッチンへ行ってしまった。
本当に無理みたいだ。
春は念の為に持ってきた引っ越し道具をしまう。
男は、意外にデリケートな生き物なのだ。
警察は、意外に幽霊とか苦手な人が多い。
ムキムキでケンカ上等なクセにお化け屋敷で春の後ろに隠れて悲鳴上げてたり。
言葉はあんなに辛辣でドSなのに、竜星はこういうのが心底嫌いなようだ。
まあ、春だって普通にロマンチックに憧れはあった。
がアラサーだからと病院でほぼ強制で受けさせられた婦人科健診で悲惨な事に…
春だって自分で困っているのだ。
弟達は、姉ちゃんのサイ◯人化と呼んでいた。
「飲みませんか?春はお酒はそんなに強くないし、
もしかしたら、コレで何とかなるかもしれませんよ?」
竜星がウイスキーを持って来た。
「でも、明日は大事な捜索が…」春が心配する。
「目覚まし5個、最大音量でセットしときましょう!
僕も飲みます。
飲んだら人間の深層意識が表面化すると言いますし、
それに掛けてみましょう?」
ウイスキーを氷だけのロックで2人で飲んでみることに。
確かに身体の力が抜ける。
これで過剰な防衛本能が消えてくれれば…
「だいたい、もう悠馬は大人なんだから!
春が構いすぎなんだよ!
僕だけ見てれば良いんです!」竜星の方が先に完成したようだ。
「私だって!私だって!
普通に恋がしたいの!なんで、ゴリラとかバケモノとか言われなきゃいけないの?」春もなんだか切なくなってきた。
2人で抱き合って泣いてキスまではするのだが、身体がもつれてくると…
春の足か手がビュッと宙を切る。
でも酒でキレがないので竜星の身体は打撲傷辺りで済んでいる。
2人でベッドまで行ったが、結局その繰り返しで…
疲れてそのまま寝てしまった。
朝起きると竜星の腹や太ももは打撲傷で紫色に腫れ上がっていた。
記憶はないが、連続キックで空を飛びベッドから何回も落ちたような気がする。
「あ〜っ、これはヤバいかもしれませんね〜」洗面所で顔を洗いながら竜星は自分の顔を見た。
顔にも平手の後がアザになっていた。
首も絞められたような後が…
春は記憶を探る。
両足を押さえ込まれて身動き取れない時に顔面殴って組み敷いて首を絞めたような…
「だから縛ってくれって言ったじゃないですかあ〜
どうすんですか?
その出で立ちで、皆にどう思われるか!」まだ酒が抜けきれない春は泣き崩れた。