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結局3日目も何ら進展はなく退勤時間となり残業もなく

山本は嬉々として帰って行った。

「僕らも上がりますか?」警察庁への報告書を送信した竜星も深くため息を付きながらコートを羽織る。

「コートをダウンに変えてきます。

竜星さんもダウンに変えた方が良くないですか?」春が言う。

今夜は雪マークがTVの天気予報で東京に付いていた。

「室内に居ると分かりませんね。

でも、僕ダウン持ってないんですよ。コレだけでどこでも済むし。」

質の良いイタリア製のロングコートだが、さすがに

ウールのコートだけでは…と春は思ったが、

竜星の公務員生活はずっと内勤だし、外は車だし、東京のビルの中だけの人生だったのだろう。

『まあ、外歩きなんて長く出来ない方が、私的には良いか?お節介はヤメてくれと言われたし』とそのままスルーした。

沖縄料理屋のテイクアウトが気に入ったらしい竜星と店の方へ行った。

豚足にチャレンジして美味しかったらしく、上機嫌だった。

が、スイス製の腕時計で時間を気にしてる。

「どうしたんですか?」春がシークワーサーハイを飲みながら聞く。

「お台場に船の発着所ありますよね?」

竜星が携帯で船の時間を確認してるようだ。

「1番遅く着くのは浅草からの水上バスなんだあ〜

この時期の6時だともう暗いね。」

竜星が調べながら言う。

「もう乗れるのは無いですね。浅草の最終が7時過ぎにお台場に着く予定ですね。」春も携帯で調べる。

「それ、見たいな…行かない?」竜星が春を誘う。

「良いですが…今夜寒いですよ。大丈夫ですか?」

お節介だとは思うが、どうも霞が関育ちの官僚の体感が、湾岸地帯の初春の夜を理解してない気がする。

外気温は既に1℃だ。


「わあっ!」出た瞬間、風の強さに驚いて竜星が声を上げる。

「ここら辺は内陸では信じられないような風が常時吹くんですよ。本当に大丈夫ですか?」春が心配する。

「船の発着場、そんな遠くないし。大丈夫だよ!」

ちょっとムッとしながら携帯を見ながら竜星が前を歩く。

気温はギリギリ1℃だが風が強いので体感的には-3℃くらいの感じだ。

砂浜のデッキを歩いて水上バス乗り場に着く。

ちょうど浅草から乗ってきた客がワラワラと降りてくる。

「特にチケット確認しないんだね。」竜星がポケットに手を入れガタガタ震えながら様子を見てる。

「そうですね。乗船時にチェックしてるでしょうから。」春は竜星の様子の方が気になる。

「防犯カメラも無いか?」上を見ながら竜星が呟く。

「そうですね。船着き場ですし、公共機関でもないのでカメラの設置は船舶会社の任意でしょう。」

と話しつつも竜星の顔が粉を吹いたように真っ白で

そっちの方が気になる。

「お店でも入りませんか?」もう竜星の顔色は限界だと感じて春が誘う。

「イヤです!ハグの約束です!」プイッと向きを海浜公園の方へ変えてデッキを小走りに暗がりの方へ歩いていく。

この寒さだと春が抱き締めたくらいでは、竜星の体温を上げれそうにないのだが…

春はロングダウンをキッチリ下まで締めているので

まだまだ平気だ。

大体、寒空で5.6時間組事務所の前で張ってたりする事もある。

スーツの下は、上下ヒートテックで完全防備してる。

何となくだが、竜星はズボン下とか履いてない気がする。

仕方なく後を付いていく。

水上バス乗り場の明りが届かなくなった浜辺で竜星が春の方を向き両手を広げる。

「約束ですよ。」竜星が言う。

約束した覚えはないが、「いいですよ。」と言いながら

ウールのロングコートしか着てない竜星をダウンのもこもこで挟む。

「えっ、なんかもっとゴネると思いました…大丈夫ですか?」竜星が意外そうにおずおずともこもこダウンの春の背中に手を回す。

「今、多分それどころじゃない気がするんで。

どうぞ、しっかり抱き着いて下さい。」竜星の首筋に頭を寄せる。

やはり凄く冷えてる。

「ああ〜春の匂いをやっと嗅げました。でも、なんか鼻が詰まっててあまり分かんないや。」竜星が目を閉じて感動してる。

何とか首すじを暖めようと頬を当てるが、どんどん冷たくなってる気がする。

「なんでマフラーと手袋してないんですか?」対策室ではコートと一緒にハンガーに掛かっていたのを思い出した。

「だって春に触れたいから、ハグしてから外したらダサいでしょう?置いてきました。」竜星が少し恥ずかしそうに言う。

『このバカーーッ!』と心の中で叫ぶ。

風はより冷たく刺すように吹きすさぶ。

白い物が舞い出した。

「あっ、雪だ…」竜星が手のひらに乗せて、

「ロマンティックですね。」と微笑む。

が、凍死前の幻覚状態みたいな顔色だ。

「もう、戻りませんか?本当にヤバいと思います。」

春はお姉さん風を吹かせないように気を付けて竜星に促す。

「イヤです。次の約束…キスの約束してくれるまで帰りません。」ダウン越しだがグイグイ締め付けられてるのは分かる。

「分かりました。します!だから早く暖かい室内に入って下さい!」

2人だけで食事に行かなければ良いだけなので、とにかく早く竜星の身体を暖めないとヤバい。

強引にデッキ上にあるトラットリアへ引っ張って行った。



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