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世間的には解決した輪島父娘の事件も強行班から対策室の預かりとなり
事件の全貌を追う形に変えられていった。
完全な報道規制の案件なので港湾署の奥深くで秘密裏に捜査しなければいけない。
「都庁も1番怒らせちゃいけない人の逆鱗やったなあ〜」
「俺だって娘がそんな目にあったら、絶対東京潰すわ!」
捜査員達は会議が終わっても口々に話し合っている。
チームは細分化され5人チームで10の項目分けがされた。
ロボットを追うチーム、トラックを追うチーム、犯人グループを絞り込み追うチーム…
それらが全て竜星への携帯に集約される事に。
「24時間体制で身体持ちますか?」春と悠馬は、竜星署長(仮)の警備に付いた。
春は竜星の身体を心配する。
「一旦マンション帰って荷持まとめてきますよ。
対策室の上の男子寮に1部屋貰ったので、そちらに引っ越します。
これで無駄な時間をカットできます。」
なぜか竜星が春の顔をチラッと見た。
仕事とは違う圧を感じる。
諦めるかと思ったが、竜星はまだ粘るようだ。
悠馬は競うのは避けて得意のNTRにシフト変更したらしい。
学生時代『アイアン・メイデン』と揶揄され、会社の婦人科健診でやらかし
病院から出禁を食らった春に東京滅亡までに春は来るのか?
春は他人事みたいに「おかしいよなぁ〜人生って」と呟く。
ゆりかもめで3駅ぐらいの距離だが、そんな悠長は言ってられなくなるだろう。
確かに警視総監は狙っていたが、やはり春の悠馬を銃で撃ちたくないと言う気持ちに動かされた部分が大きい。
「意外に情熱的だったんだな、僕も。」冷静だと思ってた自分だけに驚く。
母親にも冷たいとか兄弟にも薄情とか言われ慣れてたが。
「まあ、乗りかかった船だ。
それに橋立さんにも是非会いたいしな。」
そう、この案件に向き合ってから人生が面白いと思い出した。
いつもどこか冷めていたのに、命の危険や動物みたいな反射神経で生きる人間やら
今まで見たことない人物や世界が目まぐるしく展開する。
コンサル会社や外資に行ったどの同級生より面白い体験をしてる自信がある。
オートロックのガラス扉に映る自分が笑ってるのに気付いて驚く。
『僕は冷たいんじゃなくて、刺激が弱すぎる人生に退屈してただけなのかも…』
タワマンを出ると黒スーツを着た春と悠馬が車で待っていた。
「あの2人何か神話に出てくる生き物みたいだと思ったら、あれだ!アポロンの馬車だ!」納得する。
乗りこなすのが非常に難しい太陽の燃え盛る馬車。
アポロンの息子は、太陽の軌道にこの馬車をコントロールできず死んでしまう。
この2人も一筋縄では動かせない。
「人生って面白いんだな。知らなかった。」
また春が怪訝な顔で竜星を見てる。
きっと自分がニヤニヤしてるのだろうなと竜星は思った。