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「なんだよ、ダメだったか!」
独身寮に戻ると階段で悠馬に会った。
「今夜は帰ってこないと思ったのに。」悠馬がヘラッと笑う。
「そんな単純なもんじゃないのよ!」気まずくて目線を外して女子寮の階段を登る。
「あれ?アンタ女子寮から…」春は男子禁制の女子寮から降りてきた悠馬に遭遇したのだ。
「世の女はお前みたいなお子ちゃまじゃないんだよ。」
悠馬が鼻で笑う。
「か、彼女なの?」特に誰かと付き合ってる噂は聞いたことないが…
「ハア?俺が情報屋として女何人囲ってるか知ってるだろう?
たまには中の女も味見するさ。」
さすが男遊びが過ぎてネグレクトだったお母さんの影響か?
本当に女関係は激しいのだ。
「さすがのアイツもお前相手じゃ手こずるとは思ってたが…やっぱり」クスッと下を向いて笑う。
「早くお前も女になりな。寝取ってやるから。」
悠馬がヘラッとまた笑って男子寮へ消えた。
「東京ダメになるかもしれないし、その前に体験しとくかあ〜冥土の土産に。」春はため息をつく。
今夜の自分は我ながらヘタレだったと思う。
死ぬんだと思えば体験しとくのもアリかもしれない…アリかな?
竜星が眠りの森の美女なら、助かるのになあ〜無理かあ〜
踊り場の夜景を見ながらため息をつく。
港湾署の組対の部屋の並びに対策室を設置して、竜星の陣頭指揮で動き出した。
公安などテロの専門家を集めているが、相手が橋立だと聞くと尻込みする者が多かった。
なぜなら、その講師を務めたのが橋立だったからだ。
原子炉の水を抜く作業を早めて貰っているが、その排水処理もまた問題なのだ。
「橋立が現在どこにいるのか?
起爆スイッチを持ってるのか?
それをいつ使う気か?
意見を聞かせて貰いたい。」集められた50人ほどの捜査官に竜星が問う。
「偏西風がちょうど東京上空を通る春を待ってるとする署長の読みは当たってると思います。」
公安から助っ人に来た捜査官が話す。
「シベリア気団が引くのを待ってるんだと思う。
まあ、これは時限爆弾では無いと言う希望的観測だ。
中国に行った技術者の木崎が4機持ち込み2機は原子炉内で動かなくなったと漏らしたので、
それに爆弾を持たせてると考えてる。
他に意見はないだろうか?」竜星が問う。
「はい」春が手を挙げる。
竜星が少し詰まってから「どうぞ」と言う。
「他の2機がどうなったかも気になります。
カモフラのトラックで発電所から二宮夫妻と橋立さんが戻っているなら
その2機も東京に持ち込まれてるのでしょうか?」
春はずっと気になってる部分を聞く。
「二宮夫妻に関しては外事の方からお願いします。」竜星が振る。
外事の捜査官が立ち上がる。
「インターポールの協力により、すでに二宮夫妻はパラオに入っている事が分かっています。
しかし、パラオはインターポールに加盟していないので交渉は不可能かと思われます。
一応親日国ですし協力関係はあるのですが、二宮夫妻はすでにパラオ諸島の連絡船の技術向上やメンテナンスで大変役に立ってるようで帰すつもりは無いようです。」
残念そうに席に座った。
原子力発電所でも重宝されていたが、500以上の小島で成り立つパラオでも重宝されているようだ。
帰国しなくても仲間や親も遊びに行けるし気候も暖かい南の島は、
自然の中でのんびり暮らしたい夫妻にはうってつけなのだろう。