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「あの本当に気にしないで下さい。」春は必死で竜星に話す。
竜星に前の沖縄料理のテイクアウトのお返しにとビックサイト前のホテルの食事に連れ出された。
断ったが、部長も署長も行け行けと圧を掛けてきて
断れなかったのだ。
目で悠馬に助けを求めたが、関わりたくないようでスルーされた。
すでに紹興酒を飲んでる竜星は色白なせいで目の周りがほんのり赤い。
酒癖が悪いのはお台場の焼き肉の時に知ってる。
「貴女にお願いされたので頑張って悠馬を橋立さんから切り離しました。
もう僕の兵隊です。無茶はさせませんよ。安心して下さい。」竜星が口の端で笑う。
悠馬と居る時は子供のようにはしゃいでいたのに、今は艶然と娼館の女主人のように見える。
もうエロ魔王か魔女のイメージが春の中に出来上がっているようだ。
顔は凄く好みなのに…
あまりにプロなイメージが出来上がってしまって恐い!
セクハラ三昧が心と身体にダメージを残しているのだ。
何日か経てば、莉夏の言う通り春の身を守り且つ悠馬にこれ以上テロ行為に加担させない為の行動だったと理解できたのだが。
悠馬への心配がかなり減ったのは、本当に感謝してるのだが…
もう中年オヤジの毒牙に掛かる新卒OLみたいな気分が
どうしても抜けないのだ。
実際には春の方が年上だし、もうアラサーの良い年の女なのだが。
「本当に悠馬の事は感謝してます。
輪島父娘の件は分かりませんが、もう無茶はしないと思いま…」言い終わらない内にテーブルの上に置いた手を握られる。
「僕ももしかしたら殺されるかも…と思いながら頑張りました。
ご褒美を頂けないでしょうか?」春の5本の指の間に自分の指を割り込ませ軽く握られる。
分かってる。
貸切風呂も雑魚寝スイートルームも竜星は悠馬にいつ殺されるかもしれない危険を出来るだけ回避するためしていたのだ。
身体を張って危険を冒して春の願いを叶えてくれたのだ。
ずっと悠馬を自分が撃ち殺すイメージに怯えていたが、もう悠馬は犯人グループの裏切り者なのだ。
枕を高くして寝れる。
が、どうにも竜星が生理的に無理になってる自分がいるのだ。
嫌いじゃないが…エロ魔人が舌なめずりして前に居るイメージが…
「すみません!この年で本当に無知と言うかそういの
無視して生きてきたもので!」強引に竜星の指を引っ剥がす。
「…僕のことが嫌いですか?」悲しそうに手を引っ込めて竜星がうつむく。
長いまつ毛が飲んで潤んだ瞳に長い影を落とす。
通った鼻筋と赤い唇が、もうエロい!
莉夏も綺麗でいつ見ても惚れ惚れするが、竜星も負けず劣らず美しいのだ。
そして頭がキレキレなのだ!
好みなのに、恐いのだ!
殴って気絶させるか、眠れる森の美女みたいに絶対目覚めないとかなら良いのに。
「いえ、前に私の友人を見たと思いますが、男女分け隔てなく綺麗な人は大好物です!
でも、できれば男性は透明人間になって柱の陰から眺めていたいんです!」春の言葉に竜星の目が点になる。
「悠馬とジャレられるのは、本当に男だと意識してないからなんですね…良く分かりました。」絶望したように顔を両手で覆う。
「食べて帰りましょうか?一応部屋は取ってたんですが…キャンセルします。」竜星がガッカリしたようにうなだれた。
ゆりかもめの駅まで見送ってくれてお別れした。