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「お待たせ〜悠馬!さあ、始めようか?」竜星が
新幹線の個室に戻って来た。
携帯で連絡が終わったのだろう。
「東京まで1時間だぞ!急げ!」悠馬がオンラインゲームにパソコンを繋いだ。
春はそんな2人を呆れながら見てる。
とにかく夕方の品川行きの新幹線に乗れてホッとする。
二宮夫妻の車は発見されたが、橋立教官も夫妻もすでに東京に戻っていると連絡したのだろうか?
ゲームをしながら橋立教官ファンになったらしい竜星は悠馬と盛り上がっている。
ゲームのように橋立さんのトラップを見つけたから面白くなってきたのだろうか?
竜星がニヤニヤしてるのが、春的に気持ち悪い。
アナウンスがもうすぐ品川に到着するのを告げた。
と竜星の携帯が鳴った。
部屋を出るのか?と思ったが、竜星は2人の前で電話を取った。
「そうですか!本当にギリギリでしたね!
では、取り調べに参ります。」そう返事して電話を切った。
「誰が捕まったんですか?」春が聞く。
「悠馬のアドバイスのおかげだよ。羽田と成田に捜査員を張らせたら偽造パスポート持った岩永と木崎が捕まったんですよ。」ニコッと悠馬に微笑む。
「このっ!」悠馬が竜星の襟首を掴んで殴ろうとしたが寸出で春が止める。
「ハイヤーの中で教えてくれたじゃないですか?
橋立さんなら既に二宮夫妻は高飛びさせてるって。
仕事が終わった仲間はすぐ警察の手が及ばない所へ逃がすのが『橋立流』なんでしょう?」竜星が苦しそうに話す。
「いつも自分がやってる事じゃん!
何ペラペラしゃべってんのよ!バカ!」春に言われて悠馬は手を離して座り込んだ。
「クソ〜ッ!」一声叫ぶ。
竜星は襟が乱れたまま特に直さないで悠馬の肩に手を置く。
「君は橋立さんを売ったんだよ。あの人は許さないと思うよ。
君はもう僕の駒なんだよ。
覚えておいて。」悠馬の耳元でソッと囁いた。
そして、なぜか春の方を向いてウインクをした。
春は意味が分からず首を傾げた。
本庁留置に竜星と春と悠馬も入る。
悠馬は、心なしか顔が真っ白だ。
だが2人とは面識ないので分からないだろう。
だいたい取調室に3人は入らない。
他の捜査員が調べているのをパネル越しに見るだけだ。
あちらからはただの鏡にしか見えない。
まあ、元警官なので知っているだろうが。
「仲間の誰かがもらしたのか?
一体どいつだよ!マヌケだなあ〜イヤだイヤだ。」
岩永は完全黙秘を貫いたが若い木崎は吠えている。
悠馬はイライラするのか自分の髪をかきむしっている。
「橋立さん、学校時代は嫌いだったけど、この頃は面白い事してるみたいで参加させて貰ったんだよ。
わざわざ俺らをちゃんと覚えてくれてて連絡貰ったんだ。」
木崎は親切みたいで良く話してくれる。
「転職したけど、なかなか実践させてくれなくてさ〜
そしたら、橋立さんが本当の原子炉で作業してみないかって。
もう、即乗ったよ!5年掛けた成果をこの目で見たかったし!」
「4体試作品持ち込んで最初の2体は中で動かなくなったけど、3体目で成功して…あっ、やめとこ。
中国政府に話しちゃダメって契約書書かされたわ〜」
親切に話してくれてたがロボットの事と原子炉での作業の事は黙秘権を発動させてしまった。
すぐに中国大使館から不当逮捕だと苦情が来た。
彼らは正式なロボット技術者として中国政府から招待を受けていた。
橋立教官が原子炉での作業を録画して中国政府に売り込んだらしい。
原子炉内で作業できるロボットは、どの国でも大きな課題なのだ。
デブリや不純物を除去したり故障部分を直したり、
人間に代わって作業できるロボットの開発者は、ノドから手が出るほど欲しいのだ。
調べが終わった捜査員が竜星達の部屋に入ってきた。
「内々にですが、◯◯物産の社員がスパイ容疑で中国に捕まってるのですが、
彼と2人を交換しないかと話が来てます。」悔しそうに話す。
「やっぱりまた、橋立さんに出し抜かれましたか…さすがですね!
本当に警察の敵は警察ですね〜」と残念そうに発言するが、竜星の顔はニコニコしていた。
悠馬は苦笑いしながら天を仰いだ。
2日後、TVで去年中国で逮捕された物産会社の社員が
釈放帰国するニュースが流れた。