26
「調べたら橋立さんはSIT経験者でもあったんですよね。
なんで軍隊経験があり野営や拠点作りも出来る。
つまり、この原子炉付近の地形を頭に入れてから動いてるはず。」竜星はいつのまにか橋立教官のプロファイルもしていた。
そんだけ色々一度に考えられるのに…なんでエロ魔王なんだ?
春はそこだけ疑問だ。
施設に迎えられると今日は昨日の社員ではなく上司達が揃っていた。
再稼働を止めると言われ慌てているのだろう。
「プールを拝見したいんですが。」竜星が噛み付きそうな顔で上司達をにらむ。
「それがモニターカメラが壊れてまして…」と返答する。
「おかしいですね。昨日は炉内のカメラ作動してましたよ。
あれでは小さすぎるので大きなモニターで見たいだけなんてすが。」中央センターの操作盤の斜め上の小さなモニターを竜星は昨日見逃してなかった。
「昨日までのデーターでも良いので拡大接近映像を見せて下さい。」
言い訳は聞かないとばかりに手を差し出す。
「分かりました。こちらのパソコンでご覧になって下さい。」観念して上司達はファイルを開く。
お互いに目配せしている。
また、何か問題があるのだろうか?
映し出された炉内は白く濁ってプール内が全く見えなかった。
「どういうことですか?」竜星が低く唸るような声で聞く。
あの3人の時のエロ魔王ぶりが全く想像できない警視総監候補っぷりだ。
悠馬と春は後ろに控えてるだけだが、特にいなくても
良いくらい迫力がある。
「前に急に停止命令が出たので、そのままなのです。
つまりデブリなど不純物がそのままで長年放置されてまして…」上司達がしどろもどろで返事をする。
「停止してから何年経ってると思うんですか!」思わず竜星がテーブルを叩く。
「完全に冷える前に再稼働するかもしれないと思ったのです。まさかこんなに間が空くとは…
でも、今年の再稼働までにはプール内を清掃する事になってまして…」竜星が手で言葉を遮る。
春などは素人なので、危険な清掃の予算なども再稼働が見えないと組ませて貰えないんだろなあ〜と同情するが、
竜星からは資源エネルギー庁の怠慢にしか見えないのだろう。
「炉内に爆弾が仕掛けられてる可能性もあるんてすよ。
それが分からないじゃないですか?
これでは、コチラは絶対安全だとは保障できません。
責任は全て資源エネルギー庁にある。
内閣府にこの状況を挙げさせて貰います。」
竜星は踵を返して部屋を出る。
廊下の現場のスタッフらしい制服の人に声を掛ける。
「この建物で1番遠くまで見れる場所はどこですか?」
「この螺旋階段を登っていただいた所がギャラリーになっていて一般人が入れるのはそこまでです。」中の声を聞いていたのか用心している。
「分かりました。少し見せて下さい。」そう言うと春と悠馬を連れて階段を登った。
「これも橋立さんの計画通りなのかもしれませんね。
炉内の清掃する頃には、もうこの施設は跡形も無く消し去るつもりだったのかも。」竜星は絶望したように頭をうなだれている。
「でも皆もまさか炉内に爆弾とか信じられないんですよ。」春が怒鳴られている人達が少し気の毒に感じで言う。
竜星が立ち止まって2人を見る。
「私は性善説なんか信じてません。
まして、大切な大事な娘を都民の罵詈雑言やマスコミに踊らされた愚かな風評被害で殺された男の気持ちなど。」竜星が淡々と話す。
「彼にとって東京はもうゴキブリの巣みたいな存在なんですよ。
そこに蠢く都民もね。」そう言いながら階段を登った。