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「ロビーのトイレ、清掃中だったから上の階行ってたんだよ。

降りてきたら誰もいないじゃん!」

悠馬が背中を丸めポケットに両手を突っ込んで

口を尖らせる。

悠馬の目がジッと春を見てる。

春も悠馬を見つめる。

春は嘘つくと語尾がのびる。

悠馬は言い訳する。

お互いのクセを知ってるので、お互い探り合いになっている。

その間にフロントと話し込んでた竜星が戻って来た。

「貸し切り露天風呂が部屋についてるスイート取れたよ!」竜星はニコニコして言う。

嫌な予感がする。

「ちょっと待って下さい。ちゃんと3部屋取りました?」春が聞く。

「うん、スイートルームにちゃんと3部屋あるから

大丈夫だよ♪ 」なんか話が噛み合ってない。

「つまり、部屋は一部屋って事だな。」悠馬が噛み合ってない会話をまとめた。

「!!!」春が声も出せずに口をパクパクさせた。


さきほどの庭園の奥に離れ屋があり、そこへポーターが3人の荷物を運び入れてくれた。

なぜか帰りに春の顔を見て笑って戻っていった。

ひどい誤解を受けてる気がする。

どう見ても親戚ではあり得ない3人だ。

色白のいかにも育ちが良さそうな優男にスラッとした

中東のハーフのような筋肉質の男に、小柄だがインナーマッスルが強そうなゴリラ風味の年長の女…

「待って!私、何か誤解されてる気がする!」

春は焦る。

確かに年は春が1番上だ!

だが、年下のこいつらにセクハラされてるから!

私はそんな遊んでないから〜!

と世界へ叫びたい気持ちになる。

「まあまあ、春が乙女なのは僕らが知ってるから!

ねっ、悠馬くん?」竜星が悠馬に聞く。

「ほんと、おぼこいにも程があるだろ!

俺、心配だよ、お前の人生。」悠馬が不憫そうに春を見る。

『莉夏、やっぱりこの人、セクハラ野郎だよ!』

春はボロボロの自尊心をかろうじて自分でなぐさめる。

『お互いに殺されない為には、こうするしかない!

仕方ないんだ!

私も悠馬も容疑者なんだ!』と自分に言い聞かせた。


今日は露天風呂に1人づつ入れる。

なんせガラス窓だから…

竜星が入ってるの見ながら悠馬と部屋のお茶を飲む。

「良かったな。綺麗な男の裸見れて。

アイツはなかなか綺麗だぞ、男としては。」悠馬がワザと煽る。

「ありがとう。ラッキーだわ。」抑揚のない声で春が返事する。

「後で俺のも見てくれよな!結構歌舞伎町のキャバ嬢に人気なんだぜ。」悠馬がニタニタしてる。

よくキャバ嬢が悠馬目当てにタレコミに警察に来る。

彼氏より◯◯が良いとかで裏切り、ヤクの情報提供をしてくれる。

「お前もホストに客の情報売らせるくらいテクニックを磨けよ!

組対の女なら!」

春の堪忍袋の緒が静かに切れる。

竜星が上がってきたら、悠馬に馬乗りになって首を絞めてる春を目撃した。

春がお風呂を使う時も窓のブラインド下ろさず開けとけ!と男2人にセクハラ三昧されたが、

本当に顔をボコ殴りにして2人を黙らせた。


『莉夏はまるで竜星さんが私の代わりに標的に変わってくれたみたいに言ったけど、

絶対そんなの考えてないから!』

春はやはりいまいちピンと来ない。

そして悠馬も。

なんだか殺気が薄い。

『こんなで人が殺せるの?』

身体能力は高いけど、精神的には人に依存するタイプだ。

それが橋立教官だと春は昔から感じてる。

でも現実には2人も手練れが殺されてる。

「ハア〜ッ、訳分かんないよ。」思わずため息をつきながら露天風呂から夜空を仰いだ。

最後に春がお風呂に入る頃には、すっかり日が落ちていた。

後に気配を感じて振り向くと、ブラインドの隙間から男2人が覗いてた。

「サイテーッ!」思わずお湯を掛けた。

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