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二宮夫妻の住んでいた移住推進の借り上げ住宅近くのホテルに入る。
「原発ができた頃は補助金や働く人が越してきて賑やかだったんですけどね〜
原発反対運動や東北地震の影響で止まってしまって…
ココらへんは廃れるばっかりです。」
ホテルのフロントマンがため息をついていた。
二人の家への足がなくバスもないので、ホテルでハイヤーを頼む。
周りは廃屋ばかりの中で緑が豊かな農家があった。
「ここかあ〜話しは聞いてたが、本当に田舎だなあ〜」新幹線個室もタクシーも身体が大きな悠馬には狭かったらしく
やっとだだっ広い平野で車から降りて身体を伸ばして深呼吸をする。
遠くに御前崎の原発が見える。
一応銃の準備をして玄関チャイムを鳴らす。
が、すでに中はもぬけの殻だった。
「やっぱりなあ〜
しかし、慌てて出た感じはないね。」竜星は見回す。
春と悠馬は、キッチンや寝室を探り回っている。
「そうですね。連絡が入ってから出るまでにかなり時間の余裕があった感じがしますね。」
見回りながら2人も同じ結論になる。
「まだまだ都内に、警察内に仲間がいると言う事か…」竜星が眉間にシワを寄せる。
春と悠馬は、複雑な気持ちだ。
「車生活だったはずですが、2台とも車が無いので一緒に行動してるか?分散してるか?
分かりませんね。」春が外の車の轍を追う。
「あの2人だから絶対重要な物は残してないと思うが…探すかあ〜」悠馬は引き出し類を探る為中に戻る。
ホテルに戻ると春と悠馬はすぐに撮った現場写真や
証拠になりそうなものを撮影、署に送った。
原発の契約社員の書類や原発の全体の図面やらが結構無造作に出てきた。
「原発側もまさかそんな物騒な奴らが働きに来たと思わないから、洗いざらい資料を最初から渡してるなあ〜」悠馬が撮影し、春がデーター化して署へ送った。
「あれ?係長は?」悠馬が竜星がいない事に気付く。
「先に部屋に行ったんじゃない?」春がパソコンを見ながら返事する。
ホテルの宴会場の座敷を借りて撮影しているのだ。
「でも荷物もコートも靴もここにあるけど。」鴨居を握って悠馬が縁側の奥まで竜星を探す。
分からないが、やはり竜星は悠馬も多分春も信用してないのだろう。
盗聴器を仕掛けられそうな物や靴も履かず、携帯だけ持って電話しに行ったのだ。
「まあ、私らも容疑者なんだよ。諦めよう。」
春が悠馬に苦笑しながら話す。
悠馬が竜星のカバンを上から少し押す。
「あ〜っ、本当だ!パソコンも持って行ってないわ!
用心深いなあ〜アイツ。
見掛けによらず。」悠馬も苦笑いする。
しばらくするとホテルのスリッパを履いたネクタイもシャツもはだけた竜星が鼻歌を歌いながら戻って来た。
「ココ、貸し切りの露天風呂が絶景らしいよ!後で行こう!」なんか明るい。
「竜星さん、キャラ変してませんか?」春が訝しそうに見る。
「やっぱり東京出ると開放感あるね。
貸し切り風呂予約してきたから。
春も入ろうよ♪」
竜星がとんでもないセクハラをかましてくる。
「絶対イヤですよ!それ、セクハラですよ!
訴えますよ!」思わず証拠品を竜星に投げつける。
「エーッ、それ良いな!
春も入れよ!どうせ隠すほどのもん付いてないじゃん!」悠馬も悪乗りする。
大事な証拠品を悠馬の顔面に向かって投げた。