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「あっ、会社の子とお台場で飲む約束してるんだ!
すっかり忘れてた!」春が携帯を見て焦る。
「何してんの!日をずらしなさいよ〜」莉夏が呆れる。
「いや、ダメだと断ったんだけど、どうしても次の休みに話したい事があると言われてさあ〜
警察学校時代の同期なんだけど、この頃は全く連絡取ってなかったのにさあ〜」春が首をかしげる。
「わざわざ所轄まで来てくれると言うし…」
同期で同じ教場だったが、彼女は教官と相性が悪かったのか?
ことごとく反発してた。
警察は縦社会で、それを叩き込まれるのが警察学校なのだが…
橋立教官は、他の教官に比べればリベラルで『なぜ
それが必要なのか?』説明してくれる親切で愛情深い人だった。
春は人間味がある橋立教官が好きだったが、彼女は
父親も警官なので
体育会系じゃない橋立さんが甘いと感じていたようだ。
多少ナメていたのかもしれない。
春とは付かず離れずの距離だったはずなのに…
久々のLINEはえらく馴れ馴れしかった。
ほぼ春の都合を無視して日取りを決められたのだ。
「りんかい線なら隣駅だし10分あれば余裕だよ。
また、今度ゆっくり遊びに来てよ!」莉夏も仕方ないって感じで送り出してくれた。
所轄だし春は港湾署の建物の上の独身寮に住んでる。
これから莉夏とはご近所さんだ。
「ごめんね〜今度埋め合わせするよ!」エレベーターホールまで見送って貰ってタワマンを出た。
携帯を見たがまだ貴美子もお台場に着いてないみたいだ。
輪島貴美子は、父親も警官でSPも務めたような人なので
とにかく厳格で女子でも容赦なく張り手で育てられたらしい。
ある意味、警官のサラブレットだ。
だからこそ、橋立教官のやり方は生温くて小馬鹿にしていたのかもしれない。
去年、教官の退官祝いで皆で集まった時も彼女は
来なかった。
だから、本当に会うのは久々なのだ。
『貴美子は今 表参道署かな?そんなに近くないのに…
何なんだろう?』
春は東京テレポート駅で降りて待ち合わせのビーナスフォートの泉の広場に向かった。
携帯には原宿から山手線乗った連絡があったが
それ以降は無い。
「おかしいなあ〜もう居ると思ったのに。」
円形の泉の広場を見回したがそれらしい人物はいない。
恵比寿からりんかい線に乗り換えたなら、もう到着してる時間だ。
ラインで何度か聞いたが既読は付かない。
「どういうこと?人呼びだしといて!」
春は少し苛立ちながら来ない貴美子にキレる。
普通、警察学校の同期は良く交流がある。
同じ釜の飯で朝から晩まで過密なスケジュールをこなす。
1年が過ぎる頃には、一生の絆が生まれてしまう事も。
特に橋立教官は学生に人気のある人格者だったから
年に1回は慕うように皆で会ってた。
が貴美子は4.5年に1回来るか来ないか…の頻度だった。
昨夜のラインも同期の悪口から始まり最後は教官の悪口を一方的に書き連ねていた。
そしてまるで、春が同じだと言わんばかりな書きよう。
言っちゃなんだが、毎年ちゃんと同期会は出てるし
結婚式も5回は出てる。
貴美子と同レベに扱われる筋合いはないのだが…
1時間待ったが貴美子は来なかった。
「帰るよ」と送ったが、既読も返信も無かった。