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「私の組織犯罪対策に携わった経験から推論します。
ごめん、莉夏にはさっぱり分からないと思うけど許してね。」
途中からラウンジの貸切ルームに入ってきた莉夏には
色々話せないが、分からないまま参加してもらった。
「いいよ、気にしないで!
私は、この人が気になっただけだし。
春の上司で、このタワマン越してきた人なんだと分かったから、もうそれだけで良いよ!」竜星を上から下から吟味するように眺めている。
「教官の単独犯はありえません。
お嬢さんが亡くなってすでに数年経ってます。
この期間、人が集まりグループとなり犯行グループへ
成長したと考えられます。」
音漏れしてないのは、莉夏のおかげで良く分かったが
できるだけ小声で春が話す。
「ほぼ10年で400人ほどの警官を育てたとして、その中で加担してるのは多分20〜40人以内でしょう。
50人を越えると情報が漏れやすく足並みが揃えにくいからです。
皆、警官だから経験則として分かっていると思います。
そして、ラインの同期板をコントロールするには最低5人以上の仲間が潜んでる必要がある…」春の話を竜星は警戒しながらも聞いている。
「悲しいですが、貴美子も殺されましたし私の同期の中に
5人以上が犯行グループに入っていると考えるしかありません。
他の板がコントロールされてないのは、潜在的1人か2人くらいしかいないんだと思います。」
竜星は春の推論に頷きながら、
「悠馬くんは?」と聞いた。
少し沈黙してから春は、重い口を開く。
「多分メンバーだと思います。
私に一切話さなかったから。
警察学校入って10年、1番親しい間柄だと思ってたんですが。」
でも、悠馬の気持ちも分かる。
警察学校入ってきた頃の彼はヒドかった。
仙台のネグレクト家庭で母は、男の所へ入り浸り、悠馬は万引きやかっぱらいで食いつなぐ小学生だった。
警官達が心配し食べさせたり風呂に入れたりしてたらしい。
施設へも何度も預けられたが、悪さばかりするので誰もいない家に突き返されてしまうのだ。
交番内で暮らしていたと。
友人から悠馬の話を聞いた橋立教官が仙台まで悠馬に会いに来て引き取り
東京の警察学校に入れたのだ。
そこから橋立教官が子育てさながらに人間社会のルールや善悪を教えて育ててきたのだ。
彼にとって教官はもう父親でその娘さんは姉であったろう。
「私なりに弟みたいに世話を焼いたつもりですが、
教官とは比べ物になりません。
娘さんの話…悲しかっただろうに、私には一切教えてくれなかった…
警察で1番仲が良いと勘違いしてたかも…」春がうなだれる。
「そんな事ないと思うよ!
春が気にかけてたの、きっとその人にも伝わってるよ!ねっ!」莉夏が春の手を握る。
「莉夏さん?は、春の大学の友達なんですよね?」竜星が聞く。
「うん?春?呼び捨て?」莉夏が気色ばむ。
「ああ、警察ではほとんど皆呼び捨てされてるよ、私」春が説明する。
「ふ〜ん、そうなの?
まあ、そうなら仕方ないか。」まだまだ莉夏は竜星を警戒している。
莉夏の鋭い視線に耐えながら、竜星は話しておかなければいけない事だけ春に告げる。
「春は悲観してるけど、本部としては悠馬君はシロなんだよね。
この間もICカードも駅の防犯カメラの記録もちゃんと取れてる。
彼は4時に埼玉の戸田公園駅から乗車し、
夜勤交代10分前にゆりかもめの国際クルーズターミナル駅から警察署に帰ってきてるんだ。
時間きっかりに。安心して。
それに橋立教官が、自分がやったと宣言して逃走してるしね〜」
春を勇気づけるように竜星が微笑えみ肩をポンポンと叩いた。
キッと莉夏が竜星をにらむ。
「おおっ、怖っ。僕は部屋に戻るけどココ今日は貸し切りにしてるから2人でゆっくりして。」とラウンジから出て行った。




