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「なんか楽しそうですね?」明らか不機嫌な顔で竜星が独身寮に顔を出した。
「橋立教官が大変だと言うのにお気楽ですね〜」腕を組んで怒ってる?
「だって、情報統制されて俺等には何の情報も入ってこないんだよ!
一体何がどうなってんだよ?」悠馬が竜星に食ってかかる。
どうしてもケンカ腰だ。
竜星は一息置いて、説明を始めた。
「輪島親子を殺害したのは自分だと。
そして東京都民を全員殺害すると都庁に脅迫状を送ったんですよ。橋立教官が。」信じられないような話を始めた。
「なんですか?それは?
信じられません!橋立教官らしくない!
頭がおかしくなったとか?」春と悠馬が驚く。
「警視庁と察庁は橋立教官語る誰かのイタズラだと考えたのですが、
本当に橋立教官は失踪し自宅はもぬけの殻でした。
そして、都庁の方では思い当たる事故があったようです…」竜星が一気に話す。
「…なんですか?そんなの教官から聞いたことありません。
去年の退官祝いの時もニコニコされてて、そんなの聞いてません!」春が悠馬の顔を見る。
悠馬もその席に居たのだ。
が、悠馬は目を伏せた。
「悠馬君は知ってたんですね。」竜星が鋭くにらむ。
「教官の娘さんが…今日子ちゃんが…」悠馬が言い淀む。
春も名前だけは知ってる。
奥様を病気で亡くしてから、男手一つで娘さんを育ててきたと。
それもあって教官としても子育てのように若い警官達を育ててこれたと言ってた。
「今はやっと開場までこぎつげましたが、豊洲市場の移転問題の時、えらい騒ぎだったの覚えてますか?」
竜星が悠馬を見据えたまま話す。
「橋立教官の娘さんが、あの当時の都の市場の広報だったと。」
「あっ…」春でもそれはヤバイのが分かった。
毎日毎日新聞やテレビで騒がれ都庁には苦情電話やマスコミが押しかけた。
政治家や市場関係者も対立を深め、それは平和ボケ日本で戦争のような騒ぎだった。
そのため都知事も何人も交代したような…
「都もそんな大騒ぎになると最初は思ってなかったのでしょう。
橋立教官の娘さんが1人で都民対応もマスコミ対応も窓口やってたんですよ。」
「ええーっ、そんな信じられない!
あの膨大な数の苦情を1人で!そんな…」春は背筋が寒くなった。
「都も予想してなかったのでしょう。
上司も対応できる人間に入れ替えたりされましたが、
なんせ現場は彼女一人。
新しい上司は、まだ市場に詳しくない。
すぐ根を上げれば良かったのですが、橋立さんのお嬢さんだから責任感が強かったのが災いしたのでしょうね…」春は悠馬の顔を見る。
今にも泣きそうな顔をしている。
「橋立今日子さんは、何も語らず東京湾に身を投げました。」竜星が残念そうに話す。
「そんな…」春は言葉を失う。
「教官には『ごめん!お父さんの娘なのに力不足で』と書き置きがあったらしいよ…おかしいだろ!
何やってんだよ!都庁は!」悠馬がテーブルを殴った。
木のテーブルに亀裂が入る。
「それからやっと対応チームを作り、上司も反撃して
面白おかしくマスコミも報道してたようですが…」竜星が残念そうに話す。
「動画なんか今でもあの当時の様子を笑って流してる奴らいるもんなあ〜」悠馬が歯をギリギリ鳴らしてる。