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「はあ〜っ、何か急にヒマになったね〜」春と悠馬は、
誰もいない独身寮のラウンジとは名ばかりの学校の部室みたいな3畳ほどのテーブルと椅子が並んでる部屋でため息をつく。
食堂と自販機類の場所は行っていいが、組対の部屋には出入りしては、いけないらしい。
外も禁止だ。
頑張って寝溜めしょうとしたが、それも24時間経つと限界が来た。
同期ラインを開くと他の同期も缶詰めに遭ってるみたいだ。
だが、このラインも監視下に置かれているので皆あまり書き込まない。
「あのさあ〜前から気になってた事聞いていい?」春が全然動きのないラインを見ながら質問する。
「うん?なに?」ダレて机に突っ伏したままの悠馬が返事する。
「埼玉の三井君の新居祝いの話さあ〜?
私、全然知らなかったんだけど。
同期ラインにも書き込み無かったよね?」机にアゴをのせて携帯見ながら春が聞く。
「え~っ、なんで書かないのかは知らない。
俺は直で聞いたんだよ、三井から。」悠馬がかったるそうに答える。
「それより、俺こそ聞きたいよ!
いつのまに係長と仲良くなってんだよ?」明らか不機嫌そうに悠馬が春に聞く。
「私は係長の電話番号も知らないよ。組対の部屋で
普通に飯おごると誘われただけだから。
アンタが見てないだけで!」隠し事はないと春は弁明する。
「だいたい奥さんだって同期なのにさあ?
三井くんはなんで私は誘わないの?
そのBBQ、他は誰が来てたの?」春が聞く。
「え〜っ、誰だっけ?橋立教官と〜酒井夫婦と〜山口夫妻だ!
俺以外結婚してる奴らだけだわ!」悠馬がニャと笑う。
「幸せな奴らばかりだから、行き遅れは呼びづらかったんじゃないの?」悠馬がニヤニヤと春を見る。
「感じ悪!だから同期ラインで誘わなかったのかあ〜
私以外にもまだ独身多いもんね〜」春がふくれっ面をする。
「そっ、アプリで結婚した澤井みたいなのも誘いづらいじゃん!
相手の人、気を使うしお互いさ。」ピコピコと携帯をいじりながら悠馬が返答する。
「だね、警察ってノリが独特だしね〜」春は納得した。
やはり同期歴が長すぎて2人っきりになっても、家族ぽいと言うかあ〜長い中年夫婦みたいな感じにしかならない。
「美味しいもん食わして貰ったのかよ〜良いなあ〜ズルいよなあ〜」悠馬が拗ねる。
「銀座の料亭連れて行って貰ったんじゃないの?署長に。
聞いたよ〜?」今度は春がニヤニヤしながら聞く。
「食えなかったよ…報告書できたの午前様で!」悠馬がしくしく泣いた。
「アンタ、ここ3年くらい1回も書かなかったからだよ!
書き方すら忘れてたでしょ?」春が笑う。
「どこで、誰が、何時に何をしたとか…覚えてる訳無いじゃん!書けるかってんだ!」悠馬が半ばヤケクソで愚痴る。
当直の報告書はAI化されて昔より楽になったのだが、ガサ入れは後々弁護士や検事にも見せないといけないので
手抜きは出来ないのだ。
「俺も美味いもん食いてえよ〜」足をテーブルに乗せて駄々をこねる。
「う〜ん、あの倉庫街の魚河岸食堂がお台場では1番美味いと思うよ〜
テレビ局来る芸能人もベテランは結局あそこ来るじゃん!」春が悠馬に教えて貰った食堂の話をする。
警察とテレビスタジオのちょうど真ん中くらいにある
昔からの食堂だ。
まだ湾岸がトラック野郎しか居なかった頃からの歴史ある食堂なのだ。
「やっぱり?そうだよなあ〜朝から昼までしかやってないから非番の日しか行けないが。
あ〜っ、食いに行きたいよ〜」悠馬が頭を抱える。
「あ〜っ、私もだよ!」春も涙した。