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どうも竜星は酒に弱かったようだ。
平気だと言いながら、かなり足に来ているようだ。
春は肩を貸す。
「タクシーをつかまえましょう。ご自宅は近いんですか?」白い肌が桃色に染まってる竜星に聞く。
肩を貸してるので顔が異常に近い。
長いまつ毛が伏し目に陰を作って…エロい。
男なのに良い匂いで組対のメンツとは違う。
くちなしの白い花みたいな匂いだ。
潤んだ瞳で春の方を見る。
「最近越してきたんですよ。実家を出たのは初めてなので大変ですね、一人暮らしって。」
「そうなんですか?
竜星さん、全然そういう話をされないので知りませんでした!」
いつも余裕があって隙がないイメージなので驚く。
「場所は、あそこです。」ゆりかもめの高架の向こう側に立つタワマンを指さす。
オリンピックの競技場跡地にそびえ立つタワマン。
莉夏の住んでるタワマンだ!
「あそこですか!スゴいラウンジがあるマンションですよね?」春が思い出す。
「良くご存知ですね?」竜星が半開きの赤い唇で春の顔をまじまじ見つめる。
「あ〜っ、友人が住んでるんですよ。
最近越してきたみたいで…」春は刺激が強すぎて顔を伏せる。
ちょうどタクシーが来たので止めようとすると、手を下げられた。
「いやです。タクシーに押し込んでバイバイする気でしょ?ラウンジで飲みましょ?
東京タワーもスカイツリーもまとめて見えますよ?」
結構駄々っ子だ。
昼間がスマートなエリートなだけに差がヒドい。
「知ってます。確か夜中は閉鎖されると聞いてます。
人が生活してる住宅ですから。無理!!!」
言い終わらない内に首に抱き着いてきた。
「いやだ〜1人で帰りたくない〜」竜星が泣き落としにかかる。
「ああ〜ハイハイ」背中をポンポンした。
酔っぱらいの相手は会社入ってから何度もあるし、
よく女性には抱きつかれるが男性は珍しい。
虫除け体質で男性にはあまり絡まれない体質なのだ。
サシスセソをことごとく無視するし、ADHD気味なので矛盾とかはすかさずツッコむので煙たがられる。
おかげで男ばかりの職場だがセクハラとは無縁だ。
…絡んでくるのは悠馬くらいなものだ。
「じゃあ〜タワマン下まで送りますよ。下のロビーまで。大きなソファが沢山あったのでそこまでですよ?」
運河に掛かる橋を渡れば10分くらいの道のりだ。
そこから反対周りのゆりかもめに乗れば4.5駅で警察署に戻れる。
「歩けますか?行きますよ!」悠馬ほどではないが
20cm以上は自分より大きな竜星を肩で担いで歩き出した。
ちょうどお台場から隣の埋め立て地へ橋を渡っていると運河の河口沿いに人間らしい人影が見えた。
お台場側は整備され護岸に降りれるようになっているが、対岸は大きな物流倉庫のため雑草が生い茂り人が降りれるようにもなっていないはず。
そこに微動だにしない人らしいシルエット。
酔ってフラフラの竜星を抱えながらも気になり見つめていると
お台場から屋形船がこちら側まで来て、一瞬その人影も照らし出した。
それは橋立教官だった。
だが、いつもの柔和は微笑みはない。
凍りついた冴え冴えとした表情で真っ黒な湾岸の海を見つめていた。
『なんであんなところに橋立教官が?
家は国分寺だ。こんなとこ居るわけない!
どうして?』
屋形船の船首のサーチライトが一瞬照らしただけだ!
見間違いかも?
歩きながらも気になる。
変な胸騒ぎがする。
タワマンの中に入りロビーで竜星をソファに寝かせた。
「大丈夫ですか?」ロビーのフロント横にウォーターサーバーがあったので
水を差し出した。
「ごめんなさい。そこのサーバーのは飲まないようにしてる。」と返されてしまった。
「部屋の自分のサーバーしか飲めないんですよね…神経質かもしれないけど」竜星は申し訳無さそうに言う。
「そうですかあ〜」と生返事しながら、やはり春はさっきの橋立教官に似た人影が気になる。
もう一回ちゃんと確認したい!
ロビーのフロントの呼び鈴を鳴らす。
中から出てきたコンシェルジュにソファの竜星を任せて大急ぎでタワマンを飛び出した。
走って元来た道を引き返す。
運河の荒れた護岸はもう目をこらしても人影は無かった。
ソファで目を閉じていた竜星は、春がマンションを出ると
すぐに起き上がった。
心配するコンシェルジュに「お水をお願いできますか?」と言って飲みため息をついた。
「天然は難しいなあ〜」