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「警察庁を選んで良かったですよ、本当に。」
竜星は上機嫌のようだ。
今日もお礼にとお台場で食事に誘われた。
ただし今日は高級焼き肉屋だ。
原則カップルシートしかなく、全部夜景向けになった
壇上の作り。
落ち着いたジャズが流れる焼き肉レストランだ。
「どうですか?あれだけ身体を使われたら、やはり肉かな?と思いまして。」
並んだカップル席で真横に座る端正な顔立ちで流し目されると
美形に弱い春はドキドキする。
組対はむさ苦しいから、どれだけ男しか居なくても
男兄弟の中で育った春には、馴染める環境だが。
こういう店とか女より綺麗な男性がお高いスーツをバリッと着た姿とか…免疫が無い。
「ガザ入れで汗臭い身では、かなり厳しいです、はい」顔を見れなくて個別ロースターで顔が焼けそうなくらい下を向くしかない。
「焼き肉だから臭いなんて大丈夫ですよ!
あ〜、やっぱりまたしくじりましたか?」竜星は落胆した。
「いえ、いつも皆でウェーイと打ち上げする感じだったので。
今日は皆は…?」春はキョロキョロする。
「今日は悠馬君のお手柄と言う事で、署長が部長と悠馬君を料亭に連れて行くそうですよ。
ただし、報告書が全然進まないそうで、それを悠馬君が書き上げて部長と署長に見て貰ってからだそうで…
山本さんは保育園のお迎えで若手も不参加だそうです。」竜星がニヤニヤしながら話す。
「あ~~っ、報告書!」春が納得する。
悠馬はとにかく地味な仕事は春に泣きついて任すので
いつも春が書いてるのだ。
だが、今日は竜星の護衛で春は作戦にほぼ参加してない。
なので署長に上げる報告書は悠馬が書くしかない。
他の皆は、悠馬では徹夜仕事になると分かってるので
逃げたのだろう。
知らない部長と署長だけが、今頃イライラしている事だろう。
「確かに悠馬君はスゴいですよ。でも春だって、スゴい!
甘やかしてはいけないと思いますよ。
結局こうやって悠馬君が苦労することになる。」竜星がちょっと真顔で注意する。
「すみません。同期なんですが、彼は高卒で4つくらい下なんでつい甘やかしてしまってるかも?
弟達と同じくらいなもんで。」春が頭をかく。
「弟達?なんですね。」竜星は聞く。
「はい、3人いるんですよ〜弟が。
小さい時から面倒見て登下校も引率して山を下ってたので、
ついモタモタしてると世話焼くクセがついてて…」春が笑う。
「悠馬君が可愛いんですね〜弟みたいに?」なぜか竜星がニコニコする。
「そうですね!
あ〜本当にそうかも?
警察学校時代から、なんで仲良いのか?考えたら、
それでかもしれません。
あんなにデカいんですけどね〜」
竜星に言い当てられて春も納得する。
山に置いてきた弟達。
春が家を出る時泣いて追っかけてきた。
あの弟達に悠馬が被るのかもしれない。
だが、夏休みに戻ったら勝手にデカくなりオッサンになってたが…弟達は。
今は皆東京で就職し、散り散りでメールしてもラインしても返信すらしないが!
「今日は祝勝会だからもっと飲みましょう!
ワイン1本入れますね。」竜星がソムリエを呼びロゼのシャンパンをオーダーする。
「え〜っ、お高いですよ!そんなあ〜」春が焦って断るが竜星は聞かない。
完璧に見えるが、竜星は悠馬と違って状況を分かってて言う事を聞かない。
結構、我が強い。
「だんだん竜星さんの人と成りが分かってきましたよ。」春がため息をつく。
竜星がいたずらっぽく微笑んで、春のグラスに桜色の気泡の液体を注ぐ。
「まるで春さんみたいですね、このシャンパン?
春に乾杯!」自分のグラスにも注いで春のグラスに軽く当てた。