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彼女はユーフェミア

 宮廷魔道士が管理する書庫は、相変わらず冷たい静寂が佇んでいた。ヘクターは、数冊の本を抱えて、本棚の間を抜ける。

 ラスカでの一晩の冒険が終わったあとは、また退屈な書庫勤務だ。儀式に使う魔法書の管理。地方から送られてきた魔法書の整理。地味で表に出ない仕事。宮廷魔道士なんて華々しい称号などまるで感じられない、自らの平凡さを思い知らされるような職場で、しかしヘクターは以前よりもずっと違った心持ちで仕事に励んでいた。


 ラスカでの夜のことは、ヘクターの胸の中で静謐な光を宿し続けていた。ユーフェミアが担った儀式の幻想的な光景が、いつまでも脳裏に焼き付いていた。

 それは同時に、自らの罪の痛みも伴うけれども。

 そのことも含めて、貴重な体験をさせてもらったと思っている。


 緑色の絨毯を踏みしめ、書庫の奥へと向かう。やがて開けたところに、素っ気ない大机が置かれていた。また本が積み上げられている。

 机の傍らには、その一冊一冊を手に取り、真剣に覗き込むユーフェミア。藍色のローブを身に纏う姿はか細く、『先輩』と呼ぶには頼りなげだった。

 そのユーフェミアが、こちらに気付く。


「ギランくん。ありがとう」


 柔らかく声を掛けられるのが、こそばゆい。

 ヘクターは、抱えていた本をユーフェミアの傍に置いた。ユーフェミアは本を広げ――すぐに渋面を作った。魔法書に書かれた内容が難解で中身が把握できないのだ、とヘクターは悟った。

 どこまでも普通――だが、それがユーフェミアだ。

 英雄たる聖魔女の魂を抱え、それでもなお〝自分〟を生きようとする。それが彼女の弱さであり、強さでもあり、魅力なのだ。

 手を掴んだときに見せられた笑顔の引力は、その後一瞬だけ輝いた赤い眼差しにも劣らない。

 強烈な光に眩んでいたヘクターの目は、ようやく彼女の中に灯る火を見つけた。


「……どうかした?」


 じっと見ていたことに気付いたのか、ユーフェミアが本から顔を上げ、首を傾げている。


「あ、いえ……その」


 見惚れていた、などと言えるはずもなく。

 狼狽えたヘクターは、慌てて机に積んである本を掴んで中身を広げた。

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