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6.大人をからかってはいけません

「と、いうわけでして」

「藤堂の親父さんも相変わらずで。災難だったね」

一通りの事情を聴き、汐は心底同情した顔で肩をすくめた。

「田代の話を聞く限り、とても一筋縄でいく相手だとは思えません。神崎様は“山小屋”の石詠様とお知り合いなのですよね?」

「まぁ、一応……」

「どうか、紹介していただけませんでしょうか」

汐の魔術があれば、少しは相手の警戒を解くことができるかもしれない。そんな淡い期待を、汐は気まずそうに頭を掻いて振り払った。

「相性が悪いのは、なにも魔術だけじゃなくてね」

「それは、つまり……」

「オレとアイツは、すこぶる仲が悪い」

「か、神崎様が、ですか……?」

紅水晶の石詠であり、誰からも愛される汐が相容れない相手。地獄に垂らされた蜘蛛の糸のように細い希望は容赦なく絶たれ、深月は頭を抱えた。

「まぁまぁ、そう悲観しないで。オレより適任がいるからさ」

「……珍しく、悪い顔をされますね」

「そう?気のせいじゃない」

妖しく笑いながら新しく糸を垂らす汐は、菩薩(ぼさつ)閻魔(えんま)か。

「工房に寄って、篤士に頼んでみるといいよ。オレより役に立つからさ」


 店の勝手口から裏手に回ると見えてくる、こぢんまりとした小屋が“石ノ小路”の工房だ。

大がかりな設備はないが、簡単な研磨や修繕はここで請け負っている。

軽く整えられた裏庭を進みドアを叩くと、しばしバタバタと物音がした後で工房の主が勢いよく顔を出した。

「深月さん!こんばんは」

「夜分に失礼します、戸田様。少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか」

「どうぞどうぞ。散らかってるけど……」

所狭しと並んだ道具と、積み上げられた勉強用の資料。散らかっているといっても、この雑然とした雰囲気は幼いころ憧れた秘密基地のようで少しだけ心が躍る。

「申し訳ありません、作業中に。今回はオパールですか?」

作業台の上には、瑞々しい大粒のオパールが鎮座するリングが輝いていた。

「そうそう、サイズを直すついでにアレンジも頼まれたんだ」

「石座の周りの模様が素敵ですね」

本人はまだまだ見習いだというが、その実力は確かなものだ。リングに彫られた繊細な模様が、彼の努力を証明している。

「本当?よかった。こだわった甲斐があったよ。」

篤士嬉しそうに笑って、自分の相棒に手を遣った。

「早く、こいつも磨けるようにならないとね」

作業をしている間も眺められる位置に、小さなクッションを敷いて大切に飾られているガーネットの原石。燃えるように赤くて力強く、丸みを帯びていて可愛らしい。篤士にぴったりの石だと見るたびに思う。相棒をいつか自身で磨き上げるために修業しているのだと、以前篤士が教えてくれた。

「あ、椅子どうぞ。それで、俺に話って?」

「実は……“山小屋”の石詠様を紹介していただきたいのです」

先程と同じように事情を説明すると、初めは怪訝な顔をしていた篤士も小さく噴き出して笑い始めた。

「あっはっは、それで俺のところに来たんだ。なぁこは汐さんの天敵だからなぁ」

「なぁこ……?」

「あぁ、“山小屋”のあだ名ね」

後輩の寄越した資料には、結局大した情報は記載されておらず、深月は”山小屋“の顔はおろか名前すら知らない。余程人と関わるのが嫌いらしい。不意に出てきたあだ名に戸惑う深月をよそに、篤士は自分の携帯を手に取った。

「俺も久しぶりに会いたいし、一緒に行こうよ」

「いいのですか?」

深月にとっては、願ってもいない申し出だ。

「うん。というか、深月さんが一人で行っても逃げると思うしアイツ」

「成程……」

「お、返信来た。明日邪鬼の見回りのために山を下りるからその後なら会えるって。深月さんは都合どう?」

「!でしたら、その見回りにも同行したいのですが」

汐には放置していいと言われたが、やはり気にかかる。

「それじゃ、見回りも付き合うって返しておくね。夜の9時頃、山道の入り口でいい?」

邪鬼は基本的に暗くなってからしか現れない。夜が人々の不安を煽るのか、陽光がかき消していて普段は見えないだけなのか。

「大丈夫です。よろしくお願いします」

手帳で予定を確認してから顔を上げると、篤士はいそいそと“山小屋”へのメッセージを綴っているところだった。

「それにしても……随分、仲がよろしいのですね。例の石詠様と」

「ん?まぁね」

こちらをからかっている様子は微塵もない。そもそも、篤士が人をからかうような性分でないことを深月はよく知っている。それでも

「俺となぁこは、幼馴染なんだ」

とてもいい笑顔で、篤士はそう言ってのけたのだった。


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