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うしろの風子  作者: 聖いつき
8/12

1-2 検証! 『うしろの風子』の正体を探れ(2)

 一瞬、空気が冷える。

「桜台……、お前、まさか」

『えーっと、その、見ないようにしてるよ?』

 さらに空気が冷える。

「見えているのか」

「見えているようである」

『もうっ、前の方は見たくても見えないんだから、見てないのと一緒でしょ?』

 さらにさらに空気が冷える。

「前の方が見たいのか」

「前の方が見たいようである」

『な、な、なんですとー? そんなことないもんっ! これってセクハラよ? セクハラ!』

 クックックッと肩を揺するハルダ。

 思わず苦笑いが出た。

「ハルダ、お前、かなり悪趣味だな」

「なにおう? 永岡もノッたではないか。冗談である! 天真爛漫な我らが委員長がそんな子でないことはクラス皆が知っておる!」

『うぇーい』

 スマートフォンから漏れ出た風子のウンザリした声。

 ちょっと眉をハの字にしたハルダが、んんっと咳払いをして姿勢を正した。

「まぁ、永岡よ。とにかく明日、私のコックピットに来るのだ」

「コックピット? 飛行機持ってるのか?」

「飛行機ではない。私のPCルームだ。利用料は本日のこのファミレス代で相殺してやろう」

「金とるのか。すごい上から目線だな」

「格安であろうが。とにかく、どうにかこの謎の現象を解明するのだ。よいな? 委員長」

『うん……、ありがとー』




 まぁ、昨日、こんな感じでまったく動揺もせずに『うしろの風子』を受け入れたハルダ。

 結局、終日いろいろと茶化されたが、やっと放課後となっていまはハルダの家を目指している途中。

 自転車を押しながら、スマホを覗き込む。

「うーん、なぁ、風子、やっぱりここだろ」

『番地からするとそうだよねぇ。でも、これって本当にお家?』

 送ってもらったロケーション情報を基にやって来たが、どうやってもやっぱりここだ。

 本当にここで合っているのか?

 半年ほどハルダと付き合ってきたが、実は家に呼ばれた事は一度もない。

 手前にアスファルト敷きの広い駐車場があって、その奥の右は三階建ての茶色のビル。

 そのビルの左側に並んで建っている三角屋根の白壁の建物には、正面の入口にしんがくのような物が掛けられている。

 神額の中には『立明寺』の文字。

「お寺だよな」

『お寺だよね』

 そう。どう見てもここはお寺だ。

 そのすぐ横にある幼稚園からは、園庭で遊ぶ子どもたちの声が響いている。

 どうやらこのお寺に併設されている幼稚園らしい。

 夕方のこの時間にまだ幼稚園に居るということは、たぶんお迎えが遅い子どもたちなんだろう。

『光平、これなんて読むの?。りつめいじ?』

「どうだろうな。りゅうめいじ? もしかしたら送ってもらったロケーション情報が間違ってたのかもしれない。ちょっとハルダに電話してみる」

 そう言ってスマートフォンの自撮りカメラを終了して電話帳の画面を開いたとき、前方の茶色のビルの出入口から、これまたなんとも奇妙な格好の男が現れた。

 丈の長い白衣。

 やや色が付いたレンズの四角い眼鏡。

 間違いない。

 あれはハルダだ。

「いやぁ、よく来たな、諸君。ここが我が家である!」

 なんなんだ。

「風子、笑っていいぞ?」

『光平こそ、肩が震えてる』

「遠慮は要らん! さぁ! 入るのである!」

 白衣の裾をひるがえし、バッと手を広げたハルダ。

 その声に促されて、僕たちはおずおずとそのビルの中へと足を踏み入れた。

 リノリウム張りの広いエントランス。

 真ん中を通路状に残して、左右になんとも不気味な彫像が並んでいる。

 観音様の立像や大鷲が翼を拡げている像、五重塔や釣鐘など実に多様だ。

 なぜかそれらの像に混じって、美少女戦士やネコ型ロボットも。

 いったい誰の趣味なんだ。

 長い階段を上がってたどり着いたのはビルの三階。

 ハルダの自室という勉強部屋のとなりに、その『コックピット』はあった。

 アルミ製の扉。

 テレビでよく見る秘密基地、ひとりの怪人に五人がかりという実に不公平極まりない某戦隊チームの指令室のような雰囲気。

『光平、なんかヤバくない?』

「いや、大丈夫だ。物理科学部なんだから、これくらいは当然だ」

『なんかヤケクソっぽく聞こえるけど』

「女の子が『クソ』とか言うな。かわいい顔が台無しだ」

『か、かかか、かわいい?』

「なぁーにをブツブツ言っておるっ! さっさと入るのだっ!」

 ハルダが扉を開く。

 異様なほどに耳につく排気ファンの音が、その薄暗い部屋の中を満たしていた。

 ざっと見ただけでも、自作と思われるデスクトップパソコンの本体が七台。

 その横にはラック式のサーバー、ハブ、ハム無線の固定型トランシーバーなどが壁一面にひしめいている。

『す、すごいね』

「想像はしていたが、これ程とは」

「ふはははは! わがコックピットへようこそ。そこに並んでいるのは、私の息子たちだ」

「なんか目の色が変っているぞ?」

「ここではっ、MS-DOS、Windows3.1、Windows95-OSR2.5以降の9x系、WindowsNT3.51を始めとするNTワークステーション群、さらに――」

『光平、あたしちょっと怖いかも』

「風子、心配するな。僕も怖い」

「さらにRedHat系、Turbo系、Debian系のさまざまなLinux、そしてBasic、FORTRUN、COBOLなど古典的開発環境、果てはPC-98のPC-PTOSに至るまで、ありとあらゆる環境を稼動させている!」

 僕は、「Macは一台もないんだな」なんて考えながら、じわりじわりと後ずさった。

「いいかっ、永岡よ! お前の手にあるそのスマートフォンのオペレーティングシステム『Android』は、このDebian系Linuxを携帯端末用に改良したものだっ!」

 ピカッ!

 突然、部屋の照明が消えて稲光が走った。

 さっきまでいい天気だったのに。

 夏の名残なのか、突然激しく地面を叩く雨音が聞こえたかと思うと、明滅する稲光がハルダの顔を不気味に浮かびあがらせた。

「ふはははは! 永岡よ。その白い悪魔、お主のホワイトスマートフォンを……、私に見せるのだぁっ!」

 ザ・マッドサイエンティスト。

「えっと……、ハラダ?」

「ハラダではないっ! ハルダであるっ!」


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