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うしろの風子  作者: 聖いつき
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エピローグ  仲良く並んで(2)

 風子が退院する日、ハルダに手を引かれて謝罪に訪れた雅は、結局、ずっと無言だった。

 諸田さんとハルダの後ろに隠れるようにして、ただただ頭を下げてうな垂れたままの雅。

 雅によれば、まさかこんな事態になるとは思っていなかったらしい。

 あの日、僕が風子に副委員長を辞める話をしていたとき、雅はたまたますぐ脇の通路を歩いていて僕らを見つけた。

 そして僕らが通り過ぎたところで駆け出して、風子の背中にぶつかったあと、その勢いでそのまま上りの階段へと走り抜けた。

 ケガをさせるつもりはなくて、踏み外して、二、三段をズルッとコケる程度と思っていたみたいだけど、意外に勢いが強くて風子がそのまま下まで転げ落ちてしまったんだとか。

 そして、まさか僕が犯人として疑われることになるなんて、まったく想像もしていなかったらしい。

 『わたくしを……、逮捕して』

 そう言って、諸田さんに両手首を差し出した雅。

 そうしたら、そっと近寄った風子が雅をぎゅっと抱き寄せて、こう言ったんだ。

『大丈夫だよ? あたし、怒ってないもん』

 それを聞いた雅は、そのまま号泣。

 最後は、ハルダにおんぶしてもらって部屋を出ていった。

 泣きじゃくる雅を見て、僕も悪かったなって思った。

 雅のこと、なんにも分かってあげてなかった。

 諸田さんが『いいの?』って聞いたら、風子は『あはは、ぜーんぶ許すっ』ってケラケラと笑い飛ばした。

『それだけ光平のことを大事に思ってくれてたんだなって思うと、なんか雅ちゃんを恨む気持ちなんてぜんぜん起きなくて』

 ほんと、風子らしい。

 結局、『雅ちゃんのこと、ぜんぶ秘密にして』と風子があまりに懇願するので、諸田さんは今回の事件を『風子の自己過失だった』という結末にすることにしたらしい。

 しかし、僕と風子のことは秘密どころか、完全に公然の事実として知れ渡ってしまったようだ。

 今朝、風子が登校して来たときのクラスの騒ぎようは大変なもの。

 わあっ! っと歓声が上がって、それから割れんばかりの拍手。

 きゃっきゃと騒ぐ女子集団に囲まれた風子が、窓際の席の僕を見つけて「こうへーい! おはよーっ!」っと手を振ったもんだから、そのキャーキャーがさらに増幅されて廊下まで響いて、もうすっかりお祭り状態。

 すごくみんな盛り上がって、おかげで停滞していた文化祭のクラス参加の件も一気に動き出した。

 六限目のホームルーム。

 ほんと、風子が壇上に立つと、その途端に教室がアットホームな雰囲気になる。

 壇上の風子と、窓際に立っている僕とを代わる代わる見てニヤニヤしているヤツが結構いたな。

『さてー、クラス参加の件だけど、みんな考えてきてくれてるんだってね。光平、そうでしょ?』

『うん。で、先週話し合う予定だったけど風子が退院したから、じゃあ風子が学校に出てくるまでもうちょっと待っておこうってなって』

『そっかー。みんなごめんねー? じゃ、まずは意見聴取ね? ハルダっ、あんた書記!』

『なにおう? そこにぼさっと突っ立っておるお主のダーリンが居るではないかっ!』

『だーめ。チョークで光平の手が汚れるもん』

『ハルダなら汚れてよいというのかっ』

『そうそう』

『だめだ。話にならん』

 みんなからはカタブツと思われているハルダ。

 その扱いがあまりにフランクな風子を見て、ぽかんとしたみんなの顔。

 ぶつぶつ言いながら、ハルダが壇上へ上がる。

『そんなこと言ってぇ、ハルダやる気まんまんじゃん。腕まくりまでして』

『うるさいっ。ところで委員長。お主は演劇と言っておったではないか。それはもうよいのか?』

『ううーん……、ちょっと時間が足りないかもねぇ。光平はどう……思う?』

 風子が少しもじもじしながらそう言って僕へ目を向けると、みんなの顔が一斉に僕を向いた。

 また辛辣な返しをすると思ってるんだろ?

『そうだなぁ……。 本当にやりたいなら、風子がちゃんとみんなにお願いしないと。僕はやるほうに賛成だ』

『ほんとっ? もし演劇やれるなら、やりたいお話があるんだけど……』

 黒板の『演劇』の下に、『正』の字の三画目まで書いたハルダが、のけ反って風子を見下ろした。

『小生も賛成するぞ? で? そのやりたい演目とはなんなのだ。申してみよ、リアル風子』

『リアル言うなー。うーんとね、えへへ、タイトルは……、「うしろの風子」!』

『なんと』

 さらにぽかんとしたみんな。

 僕は、思わず噴き出した。

『あはは、わかった。風子が台本書くんだろ? みんな、いいかな』

 一瞬、僕の笑顔に戸惑って固まったみんな。

 でも、それはすぐに柔らかな笑みに変わって、「よし、やろう」とか「賛成っ」とかいう言葉が教室を飛び交った。

『ほんとっ? あたしっ、嬉しいっ! じゃ、早速スタッフ決めねっ。ハラダは大道具っ!』

『私はハラダではないっ! ハルダであ――』

『うるさいぞ?』

『うるさいよ?』

『ぷはっ! ふたりして口を押さえるのは反則であるっ! キミら仲良すぎではないかっ?』

 その瞬間、どどっと教室を包み込んだ笑い。

 これは、目に見えるものしか信じなかった僕が、目に見えない『うしろの風子』を信じたから、手に入れられた笑顔だ。

 ぜんぶ、風子のおかげ。

 目に見えるものだけでは、その人の想いも、その人の真の姿も理解することはできない。

 本当にたくさん、僕に大切なことを教えてくれた。


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