4-3 それは、『想いの形』(3)
遠くで車のクラクションの音がした。
どれくらいこうしていたんだろう。
ゆっくりと目を開けると、そこにあったのは僕を囲んで見下ろしている境内の森の木々たち。
やわらかな土と枯葉の匂いに気が付いて、僕はゆっくりと首をもたげた。
逆光になった神社の本殿。
その向こうに、真っ白な作業灯の下を行き来する人たちの姿が見えた。
もう、祭りの片付けが始まっている。
振り返ると、さっきまで煌々と光を放っていた台座の上のかがり火が、もうあといくばくかという小さなゆらぎになっていた。
もしかして……、夢だったのか?
雅が除霊の儀式をして……、それを諸田さんが止めに入って……。
なぜか、体のあちこちが痛い。
頭がぼーっとしている。
その頭を小さく振ってじわりと立ち上がると、それから僕はゆっくりと周りを見回した。
地面に描かれていた円と星は、足でならしたようにまだらに消えかかっている。
その円のすぐ外で倒れている雅。
白い衣は土だらけだ。
その手前には、絡み合いつつ枯れ葉に埋もれて気を失っている、諸田さんとハルダ。
ふと思い出して空を見上げたが、あの幻想的な輝きを湛えた光の帯はもう見えなくなっていた。
あれは、本当に『魂の通り道』だったんだろうか。
そうして美しい星たちが瞬く夜空にみとれていると、突然、視界の端でなにかが光った。
草むらの中に、ぼんやりと浮かび上がったその光。
僕はその柔らかな光に引き寄せられて、ゆっくりとそれに近づいた。
これは……、スマートフォンだ。
僕とお揃いの、ずっと『うしろの風子』の笑顔を映し出してくれていた、風子のスマートフォン。
土だらけになって、ひどく汚れている。
ハッとした。
僕はすぐにそのスマートフォンを拾い上げて、画面に指を走らせた。
起動したカメラが、自撮りモードで僕の後ろを映し出す。
思わず声が出る。
「風子?」
返事はない。
角度を変えても、向いている方向を変えても、そこに映し出されているのは、ただただ暗い漆黒の背景。
居ない。
どこにも、『うしろの風子』が居ない。
どういうことだろう。
もしかして、風子はもう『魂の通り道』へと行ってしまったんだろうか。
そうだ。
『うしろの風子』が居なくなってしまったのなら、『病院の風子』はどうなったんだ。
愛は?
愛も、もう行ってしまったのか?
すぐに病院へ行かなくちゃ。
そう突然に我に返って、僕は諸田さんとハルダのところへ戻った。
ふたりの体を揺する。
「すみませんっ! 諸田さんっ、ハルダっ、起きてっ!」
「え? あ? 私どうして……。うわっ、ハルダくんっ、なに抱きついてるのよっ!」
「ううう、どうなったのだ……。頭が痛い。すごくいい夢を見ておったのに」
「ちょっとっ、離れなさいっ!」
「おお、諸田女史ではありませんか。ハルダは温かい肉まんをふたつ、いままさに食べようと」
よかった。
ふたりは無事だ。
雅は?
すぐに目をやる。
すると、僕がふたりを起こす声で目が覚めたのか、雅はちょうど体を起こしているところだった。
「雅? 大丈夫か?」
ハッと顔を上げた雅。
僕の問いに応えようと一度は口を開きかけたが、雅はすぐにその口を一文字に結んだ。
わなわなと震える唇。
僕は努めて柔和な声を投げた。
「雅、僕のこと、大事に思ってくれていたんだな。ありがとう。話はあとで聞くよ。とりあえず、僕はすぐ病院へ行く」
「こうちゃん……、わたくし……、わたくし……」
「一緒に、病院へ行くか? 風子に謝りたいだろ?」
小さな雅。
その瞳からポロポロと雫が落ちると、雅は声を出さずにうんうんと何度も頷いて、それから僕の袖をぎゅっと握った。
すぐに諸田さんへと瞳を向ける。
「諸田さん、車を出してもらえますか? 『うしろの風子』を探します」




