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うしろの風子  作者: 聖いつき
44/49

4-3  それは、『想いの形』(3)

 遠くで車のクラクションの音がした。

 どれくらいこうしていたんだろう。

 ゆっくりと目を開けると、そこにあったのは僕を囲んで見下ろしている境内の森の木々たち。

 やわらかな土と枯葉の匂いに気が付いて、僕はゆっくりと首をもたげた。

 逆光になった神社の本殿。

 その向こうに、真っ白な作業灯の下を行き来する人たちの姿が見えた。

 もう、祭りの片付けが始まっている。

 振り返ると、さっきまで煌々と光を放っていた台座の上のかがり火が、もうあといくばくかという小さなゆらぎになっていた。

 もしかして……、夢だったのか?

 雅が除霊の儀式をして……、それを諸田さんが止めに入って……。

 なぜか、体のあちこちが痛い。

 頭がぼーっとしている。

 その頭を小さく振ってじわりと立ち上がると、それから僕はゆっくりと周りを見回した。

 地面に描かれていた円と星は、足でならしたようにまだらに消えかかっている。

 その円のすぐ外で倒れている雅。

 白い衣は土だらけだ。

 その手前には、絡み合いつつ枯れ葉に埋もれて気を失っている、諸田さんとハルダ。

 ふと思い出して空を見上げたが、あの幻想的な輝きを湛えた光の帯はもう見えなくなっていた。

 あれは、本当に『魂の通り道』だったんだろうか。

 そうして美しい星たちが瞬く夜空にみとれていると、突然、視界の端でなにかが光った。

 草むらの中に、ぼんやりと浮かび上がったその光。

 僕はその柔らかな光に引き寄せられて、ゆっくりとそれに近づいた。

 これは……、スマートフォンだ。

 僕とお揃いの、ずっと『うしろの風子』の笑顔を映し出してくれていた、風子のスマートフォン。

 土だらけになって、ひどく汚れている。

 ハッとした。

 僕はすぐにそのスマートフォンを拾い上げて、画面に指を走らせた。

 起動したカメラが、自撮りモードで僕の後ろを映し出す。

 思わず声が出る。

「風子?」

 返事はない。

 角度を変えても、向いている方向を変えても、そこに映し出されているのは、ただただ暗い漆黒の背景。

 居ない。

 どこにも、『うしろの風子』が居ない。

 どういうことだろう。

 もしかして、風子はもう『魂の通り道』へと行ってしまったんだろうか。

 そうだ。

 『うしろの風子』が居なくなってしまったのなら、『病院の風子』はどうなったんだ。

 愛は?

 愛も、もう行ってしまったのか?

 すぐに病院へ行かなくちゃ。

 そう突然に我に返って、僕は諸田さんとハルダのところへ戻った。

 ふたりの体を揺する。

「すみませんっ! 諸田さんっ、ハルダっ、起きてっ!」

「え? あ? 私どうして……。うわっ、ハルダくんっ、なに抱きついてるのよっ!」

「ううう、どうなったのだ……。頭が痛い。すごくいい夢を見ておったのに」

「ちょっとっ、離れなさいっ!」

「おお、諸田女史ではありませんか。ハルダは温かい肉まんをふたつ、いままさに食べようと」

 よかった。

 ふたりは無事だ。

 雅は?

 すぐに目をやる。

 すると、僕がふたりを起こす声で目が覚めたのか、雅はちょうど体を起こしているところだった。

「雅? 大丈夫か?」

 ハッと顔を上げた雅。

 僕の問いに応えようと一度は口を開きかけたが、雅はすぐにその口を一文字に結んだ。

 わなわなと震える唇。

 僕は努めて柔和な声を投げた。

「雅、僕のこと、大事に思ってくれていたんだな。ありがとう。話はあとで聞くよ。とりあえず、僕はすぐ病院へ行く」

「こうちゃん……、わたくし……、わたくし……」

「一緒に、病院へ行くか? 風子に謝りたいだろ?」

 小さな雅。

 その瞳からポロポロと雫が落ちると、雅は声を出さずにうんうんと何度も頷いて、それから僕の袖をぎゅっと握った。

 すぐに諸田さんへと瞳を向ける。

「諸田さん、車を出してもらえますか? 『うしろの風子』を探します」


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