4-1 ついに見えた! うしろの風子(4)
「まあよい。しかしな、諸田女史。本日のハルダコーヒーは悪天候のため閉店中なのである。ちなみにシュガーの買い置きもない」
「あら、コーヒー淹れるのにお天気が関係あるのね。それならお姉さんがお金出してあげるから、みんなのぶんも一緒に自販機で買っておいで?」
「なんと、さすがは社会人である! 資金潤沢!」
軍資金を受け取り、なぜかホクホク顔で物理室を出てゆくハルダ。
日ごろから雅のパシリを喜んでやっているせいか、どうやら自分が使われていることに気が付いていないらしい。
「ところで、こうちゃん? 桜台風子との仲は本当のところどうなのかしら」
「しつこいな。さっき諸田さんが説明しただろ。だいたい、風子とはクラス委員の仕事以外で接点はなかったんだ」
「そう……」
その雅の怪訝な顔を、諸田さんがニヤリと覗き見上げる。
「ところで御笠さん、どうしてそんなに気になるの? 光平くんはただの幼馴染みだって言ってなかったっけ?」
「諸田巡査部長、あなたは一体なにを期待しているのかしら。わたくしはそんな安い色恋沙汰で心を惑わされるような未熟者ではないわ。ただ、わたくしは――」
「ただ……、なに?」
「そっ、そんな顔で見つめないでくださるっ? わたくしはただ、小さいころから面倒をみてきたこうちゃんが、そのっ……、桜台風子のワガママに振り回されているのが、我慢できなくて……」
「ふうん」
さらにニヤリと口角を上げた諸田さんが、ゆっくりと雅の頭に手を置いた。
そして、その手が柔らかく長い髪を撫でる。
「御笠さん、本当に光平くんが好きなのね」
「ちょっ……、子どものように頭を撫でないでくださるっ? 好きとか、そういう話ではないと言っているでしょうっ? わたくしが面倒をみてきたこうちゃんが――」
なんだって?
それは聞き捨てならない。
「雅、ちょっと待て。いつ雅が僕の面倒をみてたっていうんだ?」
「はぁ? 小さいときからずっとじゃない! わたくしは――」
「勝手なこと言うな。確かに小さいころから仲良くはしていたけど、僕がずっと雅の加護を受けてきたような言い方はおかしいだろ。事実に反する!」
「なんですって? わたくしはずっとこうちゃんを――」
そのときだ。
バチバチバチっ!
あ、これはいつもの……。
『こーうへーい……、そんな言い方は……、雅ちゃんが……』
ポケットの中の風子のスマートフォン。
突然、強烈に熱を持って、勝手にスピーカーから音が……。
「風子、落ち着け。まだ、ふたりには話してないんだから、ちゃんと説明をしてから――」
『そんな言い方はっ、雅ちゃんがっ、かわいそうっ!』
ガリガリガリとスマートフォンが唸る音とともに、ドドンと響いた『うしろの風子』の大きな声。
「熱っ、うわっ」
あまりの熱さに、思わずスマートフォンをポケットから取り出した。
『光平っ? 雅ちゃんは、光平のことを本当に大切に想ってくれてるんだよっ? そりゃー、あたしが迷惑掛けたのが一番悪かったかもしれないけどぉ』
「いや、雅は僕のことを暇つぶしの道具みたいに思ってるんだ。風子のことだって、自分の所有物を勝手に使われたって感じの――」
自撮りになったスマートフォンに向かって喋る僕。
ハッ!
急に我に返って周りを見回すと、目が点になっている雅と諸田さん。
その向こうの廊下を、数本の缶コーヒーを抱えたハルダが鼻歌を歌いながら戻ってきている。
「あの……、光平くん、それ、誰と話しているの? いま『風子』って……」
「これは、その……、なんというか」
『光平っ、雅ちゃんに謝って! あたしも光平を振り回したこと雅ちゃんに謝るからっ』
「風子っ、ちょっと静かにしてろ」
再び僕が『風子』と言う名前を口にしたのを聞いて、バッと立ち上がった諸田さんが横から画面を覗き込んだ。
「え? これ、どういうこと?」
「えっと……、その、これは」
『あっ、諸田部長さん、初めまして!』
「桜台さんが映ってる。すごい! CG?」
『諸田さん! まちかど広場公園で光平を庇ってくれてありがとっ! あたしっ、とっても嬉しかったっ!』
「へっ?」
そのときだ。
ハッとした雅。
突然、机から飛び降りて荒々しくサブバッグに手を突っ込んだかと思うと、雅はすぐにそれをバサリと振りかざした。
取り出したのは、お祓いに使う『祓串』。
「ちょっとっ、こうちゃん! そこにお座りなさいっ!」
「どうしたんだ? なにを慌てて……」
「いいからっ! その椅子に座るのよっ!」
雅は、目をくるくるさせながら、握りしめた祓串を震わせている。
「どうして……、どうしてなにも感じなかったのかしら……」
『えーっと、雅……ちゃん? あたし、桜台風子。初めてお話するよね』
スマートフォンから漏れる風子の声に眉を寄せながら、雅が椅子に座った僕にゆっくりと祓串を向けた。
「ハルダ、あなたの仏道の力を借りるわっ。わたくしの背中に手を添えなさいっ!」
「なんなのだ。人を追加電力のように言いおって……と、これは、その……、ブラのフォックでは……。なんとっ、雅どのに必要なのかっ?」
「お黙りなさいっ!」




