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うしろの風子  作者: 聖いつき
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4-1  ついに見えた! うしろの風子(3)

 なんのことだか、さっぱり分からない。

「でね? だから下見係長に言ってやったのよ! ほらねっ? 桜台さんのこと大好きな光平くんが、あんなことするわけ無いって最初から言ってたでしょー? って」

 ドサッ。

 どこかで誰かの通学カバンがフックから落ちる音がした。

 固まる教室。

 若宮先生も教室の一番後ろで立ったまま、なにやら保健体育の骨格標本みたいになっている。

 どういうことだ?

 なんか、話がずいぶん飛躍している……。

 すると突然、耳の奥でその静寂を破るガリガリという音が響いた。

『な、な、なんですとぉぉぉー? 光平があたしのかかか、彼氏ぃーっ?』

「うわっ! 風子、突然叫ぶなっ」

『おっ、お父さん、光平のこと気に入ってくれたんだぁぁぁー! 嬉しいーっ!』

 ニヤリと笑う諸田さん。

「そうしたらね? 嫌がらせみたいに光平くんにしつこくしてたことがバレて、係長がめっちゃ課長から怒られてねぇー。てへっ」

 てへっ、じゃないですよ、諸田さん。

 もしかして、なにか風子のお父さんに吹き込んだでしょ。

 ふふんっと鼻を鳴らしたあと、両手を頬に当ててもっとニコニコ顔になった諸田さんは超ゴキゲンの様子。

「光平くん、桜台さんのお父さんの手紙に書いてあったわ。『なんであんな優しい子を疑うんだ。しかもその永岡くんが階段から落とされるなんて許せない。もうそんな目に遭うのは風子だけでたくさんだ』ってね」

 風子のお父さんが、そんなことを言ってくれるなんて。 

 ふと見ると、さっきまでニヤニヤ顔だったハルダが、今度は満面のニヤケづらで肩を震わせている。

「永岡よ。ついにお主らのラブラブぶりがバレてしまったな。愛する彼女を突き落したりするはずないと、もっと早く公言すればよかったのであるっ!」

「ちょっと待てハラダ」

「私はハラダではな――」

 その瞬間、突然、さらに教室が固まった。

「……ええっ? それって……」

「……ということは、あの桜台さんに対する悪態は……」

「……ツン……デレ……」

 へんなどよめきとともに、みんなが顔を見合わせている。

 そして、数秒の沈黙のあと……。

「きゃぁぁぁぁーーーっ!」

 一斉に立ち上がったみんな。

 教室がひっくり返るほどの絶叫が、廊下へ飛び出て校舎じゅうに響き渡った。

「おおお、お父さんにも認められている仲なのっ?」

「もう! あんたの言い方って、風子を嫌っているようにしか見えなかったじゃん!」

「ごめんねっ? 辛かったよねっ? 愛する彼女が大ケガとか」

「そっかぁー。それで風子ちゃん、永岡くんを副委員長に指名したんだぁー」

「いやー、永岡がそんなことするはずないって思ってたんだよ。いやマジでっ」

 なんなんだ。

 となりを見ると、そこにはちょっと舌を出してウインクする諸田さん。

【永岡光平は、実はその父親にも認められている桜台風子の彼氏だった!】

 その大スクープはあっという間に燎原の火のごとく学校じゅうに拡がった。

 そして、まあ、なんということでしょう。

 永岡光平犯人説は、まるでウソのようにあっという間に収束してしまったのです。

 ほんと、笑うに笑えない。

 こんな上辺の情報だけであれだけの非難や蔑視が解消してしまうってことは、それを口にしていたヤツらからすれば、もともとその程度のバブルなゴシップだったってことだ。

 でも本当に怖いのは、そのバブルなゴシップが、ときにその渦中の人を再起不能にしてしまうこと。

 大衆の風評や上辺だけの評価なんて蓋を開ければその程度のものが大半なのに、その評価はときとしてコントロール不能の濁流みたいになって、その人を徹底的に痛めつけてしまうことがある。

 僕は、本当に僕のことを理解してくれている人たちに助けられたんだ。

 もし彼らが居なかったら……、もし『うしろの風子』が居なかったら……、いま僕はここでこうして居られなかったかもしれない。 

 そして、心から人を理解することの難しさと大切さを、一生知ることができずに居たかもしれない。




 結局、文化祭のクラス参加は、『参加する』という結論で終わった。

 そして、週明けまでに、なんの発表や展示をやるか、それぞれが考えてくるということに。

 諸田さんの乱入のお陰で悪意ある噂は落ち着いたけど、簡単には落ち着いてくれないヤツが若干一名……。

「こうちゃんっ? どうしてこうちゃんが桜台風子と婚約しているって話がでて来たのかしらっ? 火のないところに煙は立たないというでしょうっ? 正直に話しなさいっ」

「婚約? どこからどう伝わればそうなるんだ」

 放課後の物理室。

 机の上に腰掛けた雅は、なにやらものすごくご機嫌ナナメの様子。

「ハルダっ、コーヒーっ!」

「今日は曇っておるので、無理なのである」

 ハルダが眉根を寄せると、雅のとなりで同じように机に座っている彼女がふにゃりとかわいい声を上げた。

「あー、ハルダくん、私もー。お砂糖入れてねー」

「今日は無理だと言っておるであろう。だいたい、なぜ諸田女史がここに居るのだ」

「いやー、今日は当直明けで昼にはもう仕事終わってたしー」

「そういうことではないのである」

 教室で爆弾を投下した諸田さんは、なぜかそのまま居座り、その後、この放課後の物理室にまでついて来てしまった。

 よほどヒマらしい。


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