4-1 ついに見えた! うしろの風子(2)
文化祭まで、約三週間。
今日のロングホームルームは、因縁の『文化祭のクラス参加』の話合いだ。
副委員長の僕が司会では話合いにならないのは目に見えているけど、とりあえず役職なので仕方ない。
それに、今日はみんなに話したいことがある。
それを話すだけ話して、あとは文化委員長に司会を代わってもらおう。
しんとした教室。
僕は、ゆっくりと壇上へ上がった。
「みなさん、九月始めのホームルームではうまく話ができなくてすみませんでした」
僕のひと言めを聞いて、ざわりと揺らいだみんな。
「あのとき、桜台委員長の演劇の意見に賛同した人もたくさん居たようですが、今日はそれも含めて、もう一度、みんなで話し合いたいと思います。協力をお願いします」
ひそひそと話す声と、なにか稀有なものを見るような目が一斉に僕に向けられたあと、まだ意見を求めてもいないのに誰とは無く声が上がった。
「リーダーの風子ちゃんが入院しているのに、クラス参加もなにもないような気がするけど」
「気分のらないよねー」
「やるにしても誰がリーダーやんの? アンタ?」
先生は教室の一番後ろに椅子を据えて、僕らの様子をじっとうかがっていた。
敢えて、なにも介入しないつもりらしい。
「そのことなんだけど……、僕は……、クラス参加はやったほうがいいと思う」
はぁ? という、みんなの顔。
そうだろう。
こんなこと、いままでの僕なら絶対に言わないことだろうから。
でも……、仕方ない。
すべて、いままでの積み重ね。
自分勝手な価値観で他人を値踏みして、その真の姿を知ろうともせずに断罪してきたことへの罰だ。
いつか、風子が教えてくれた。
人でも、物でも、ただ表面に見えるものだけでは真の姿なんて分からない。
そして、本当になにかを大切に思う気持ちも、上辺だけでは絶対に伝わらない。
風子のためにできること。
僕のことを分かってもらえるように、ちゃんと心を込めて話すこと。
想いが正しく伝わるように、みんなの想いを正しく理解できるように。
僕のことを大切に思ってくれていた風子のために、いま僕ができることはこれしかない。
「みんな、ごめん。上手く伝わらないかも知れないけど、ちょっと聞いて」
僕の呼び掛けに、喧騒が次第に収まる。
「風子は、演劇やりたいって言ってたよね。あと三週間くらいしかないから、演劇をやるとなると、正直、準備するのはすごく大変だと思う」
そこまで言ったところで、僕はじわりと教壇から下りた。
そして、みんなと同じ高さに立って、それから真っ直ぐに下ろした拳にギュッと力を込めた。
「でも、風子が元気になってここに戻って来たとき、風子のことを気遣ってクラス参加をやらなかったって聞いたら……、たぶん風子はすごく悲しむと思う」
「風子?」
「ちょっと、なに馴れ馴れしく呼び捨てしてんのよ」
眉根を寄せる女子集団。
少し視線を外すと、ハルダだけがニヤニヤと笑っている。
「だから、演劇でなくてもいい。合唱でも、作文展でも、なんでもいい。この文化祭のクラス参加は、ちゃんと風子に喜んでもらえるものにしたいんだ」
いよいよ、はぁ? となったみんな。
『ええーっと、光平? あの、あたし、ちょっと嬉しいかも』
じんわりと聞こえた、イヤホンの中の風子の呟き。
みんなが顔を見合わせている中、一番後ろで腕組みをしていた先生が立ち上がった。
「永岡、それじゃあ――」
「あのっ、困ります! いまホームルーム中ですっ!」
「ホームルームっ? いいですねぇ、ちょっと話させてくださいっ!」
先生の声に重なって突然響いた、なにやら言い争うような声。
みんなが一斉に廊下のほうへ目をやった。
僕も思わず顔を向ける。
「おおー! 居た居た! こーへいくーん!」
うわ、諸田さんっ?
事務の先生に引き留められながら現れたのは、グレーのパンツスーツ姿の、二日市警察署生活安全課少年係、諸田桃子巡査部長。
なぜか満面の笑みで「よっ!」と手を挙げている。
来るのは放課後じゃなかったのか?
「ど……、どうしたんですか? 諸田さん」
「もうねー、嬉しくて我慢できなかったのよぉ! ちょっとー、みんなも聞いて聞いてぇー!」
僕のとなりまでドカドカと教室に入って来た諸田さんを見て、完全にみんなドン引きしている。
「あのねぇ? 桜台さんのお父さんがね、うちの課長宛てに手紙を送ってくれてさー。例の件で!」
「風子のお父さんが?」
「そうなのよぉ! また、その手紙の内容が素晴らしくってねっ? 『風子の彼氏はそんなことをする子じゃないっ!』って感じで」
「彼氏?」
「そうそう!」
「誰が?」
「光平くんが」
は?




