表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うしろの風子  作者: 聖いつき
27/49

3-2  笑顔になったわけ、笑顔を捨てたわけ(3)

 本当は、彼はとっても優しい、人を心から思いやる男の子。

 みんなは知らない。

 あたしを助けてくれた、永岡くんに掛けてもらった、あの言葉。

 どんなに辛いことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、永岡くんのあの言葉のおかげで、あたしはいつも笑顔を絶やさずに居られた。

 永岡くんに再会できて、あっという間に過ぎた一年。

 交わせた言葉はほんの片手。

 二年生になるとき、クラス替えが本当に嫌だった。

 でも、新学期の最初の朝、昇降口前に張り出された新しいクラスの名簿を見て、あたしは嬉しくて飛び上がった。

 永岡くんと同じクラス。

 また一年、永岡くんの顔を教室で見て居られる。

 そして、思った。

 今度はあたしが救う番。

 それで、クラス委員長になった特権で指名した副委員長。

 彼が一生懸命に委員の仕事に取り組む姿を見れば、みんな分かってくれるはず……、そう思った。

 でも、なぜかぜんぶが裏目。

 永岡くんがあたしを助けてくれるたびに、逆に永岡くんの風評は悪くなっていった。

 この九年……、小学生、中学生の間になにがあったんだろう。

 あんなに素敵だった笑顔は隠れてしまって、永岡くんは心のうちを他人に見せない人になっていた。

 あたしはどうにかして彼の心を開いて、もう一度、彼に笑顔を取り戻させたい。

 そんなことを思っていたとき、どうしたことか、階段から落ちて変な現象に巻き込まれて、突然、永岡くんとすごく親しくなれた。

 永岡くんと、とっても近い距離で話す毎日。

 やっぱり、彼は優しい。

 それはいまも、まったく変っていない。

 ある日、勇気を出して『光平』って呼んだ。

 ちょっと恥ずかしかったけど、おかげで光平もいつの間にか、あたしのことを『風子』って呼んでくれるようになった。

 いまも、あたしはその光平の後ろに居る。

 静かに寝息を立てている光平。

 こうしていると、一緒のお布団で寝ているみたい。

 初めて光平の後ろで夜を迎えたときは、ずっとドキドキが止まらなかった。

「風子さん、そのときが来たら分かるから。絶対に道を間違わないで……」

 あたしに聞こえていると信じながら、愛ちゃんがゆっくりと離れていく。

 聞こえているよ? 

 愛ちゃん、ありがとう。

 光平の背中。

 ずっと、光平のそばに居たい。

 あたしの声が聞こえなくても、あたしの姿が見えなくても、それでもいい。

 あたしはずっと……、ずっと光平のそばに居たい……。






 風子の声が聞けなくなって、約二週間。

 縫った側頭部の傷はまだ少し痛いけど、後頭部や首に残っていたズキズキという痛みはもう感じなくなった。

 通院は来週までで終わりそうだ。

 愛が病院に戻って、我が家はまたクールな雰囲気に戻った。

 なんだか、あの『うしろの風子』の賑やかさを懐かしく感じる。

 まぁ、不可解なことばかりだったけど、やはりあの『うしろの風子』はスマートフォンの中のプログラムだったんだろう。

 どういった経緯で僕のスマートフォンに入り込んだのか分からないが、そうとしか考えられない。

 もっと綿密に検証したかったけど、今回の修理で完全に工場出荷時の状態に戻ってしまうので、もうそれも不可能だ。

 学校では風子と僕の階段落ちがモチーフになって、変な怪談話みたいなのが流行っている。

 モノが階段なだけに。

 雅のところにも、この謎を解いてくれという依頼が寄せられているらしい。

「よかったわね。犯人扱いが薄れて。わたくしの霊力のお陰だわ。感謝しなさい?」

「霊力? 雅はただものものしく『桜台風子も永岡光平も被害者だ』って答えただけじゃないか」

「わたくしは嘘は言っていないわ。いまのところ桜台風子は不可抗力の被害者だし、そしてこうちゃんは風評被害の被害者なのだから」

 机の上にちょこんと腰掛けた雅。

 足をぷらぷらさせて、なにやらハルダからカップを受け取っている。

「雅どの、ハルダ自慢のコーヒーですぞ? それで、永岡よ。いまだ下見警部補は己の非を認めておらぬのか?」

「あの調子で認めるわけないだろ。諸田部長にだっていろいろ喋るなって圧力掛けてるくらいなんだから」

「ハルダ、コーヒーがぬるいわ」

「雅どの、それは日光を集める手作り温水器で淹れたのだから致し方ないのである」

「はぁ……、コーヒーメーカーも置いていないなんて情けないわ。ここは『SSS』の拠点だというのに」

「……いや、雅、ここは物理室だ」

 放課後の物理室。

 物理科学部が活動しているその横で、僕と雅、ふたりの部外者を含む謎チームの三人が、なぜか偉そうに座ってダボラを吹いている。

 夏の科学コンテストで三年生が引退したので、いまは二年生であるハルダが部長を務めているのだが、部長特権と言ってもさすがにこれはやり過ぎだ。

「わたくし、さっきから見ていたのだけど、そこに群れる物理科学部の面々も活動らしい活動はなにもしていないのではなくて? ちょっとっ、あなたたちっ! 今日の活動内容を言ってごらんなさいっ?」

「おい、ケンカ売るな。こっちが部外者なんだから」

 雅は相変わらずだ。

 しかし最近、ふとしたときに曇った顔を見せる。

『ところで……、桜台風子の容態はどうなのかしら』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ