3-1 巫女コスプレっ? 雅ちゃんは神社の娘(3)
「ほほう、雅さんというのか」
「そうよ? あなた、二年生になってからずいぶんこうちゃんと親しくしているようね」
「こうちゃんだと? バーチャル風子が聞いたら卒倒しそうな距離感であるな」
「さっきからあなたの言っていることは意味不明なことばかりね。あまり近寄らないで欲しいものだわ。えっと……、あなた、ハラダと言ったかしら?」
三人が一緒に歩く、学校からの帰り道。
まだ休んだほうがいいってお母さんは言っていたけど、授業を受けているほうがいろいろ気が紛れるって言って、光平は今日から通学を再開した。
見上げると、空はちょっと重たい感じの朱色。
森の向こうには、あたしの心をそのまま絵に描いたような夕暮れがしょんぼりと沈もうとしていた。
なんか……、あたしだけ仲間はずれっぽくて悲しい。
「なにおう? 私はハラダではないっ! ハルダであるっ!」
「はぁ……、その返し、もう三回目ね。次に同じことを言ったらその喉元を掻き切るわ。覚悟しなさい?」
「おおう、なんと恐ろしいムスメだ。永岡よ。コヤツが幼馴染みというのは本当か?」
「本当だ。しかもコイツは全国的に名の通った霊能少女だ。あちこちから霊視や除霊の相談にお客さんが来るみたいだし……、気を付けないと冗談じゃなく本当にやられるぞ? まぁ、僕はあんまり信じてないけど」
「なんと! 神道のくせに霊媒術も扱うハイブリッド霊能者だというのか? こんなにちっちゃいのに」
見下ろすハルダ。
見上げる雅。
「あなたはただ大きいだけね。さて、こうちゃん? とにかく今日はわたくしの神社へ来るのよ? いいかしら」
「分かったよ。雅は言い出したら聞かないからな。ハルダも一緒でいいんだろう?」
「仕方ないわね。ボディーガードの足しにしてあげるわ。ハラダ」
「足しだとぉ? 私はハラダではな……、いえ、なんでもありません」
「ふたりとも、気が合いそうでよかったな」
昨日、光平の壊れたスマートフォンは修理に出された。
でも、ちゃんと直るにはずいぶん時間がかかるらしい。
代わりに青い代替機を貸してもらったけど、何度試してもやっぱりあたしの声は届かないし、自撮りにしてもあたしの顔は見てもらえなかった。
この雅ちゃんのお家は、高校のすぐ南にある由緒正しい神社。
小高い丘の上の森の中にあって、そこへ登って行くように南から長い石畳の参道が続いている。
実はあたしも、初詣なんかで何度もここへ来たことがある。
夏祭りのときは、この参道にたくさんの夜店が並ぶ。
とってもキレイで幻想的。
でも、この神社の夏祭りは他の町のお祭りとはちょっと違う。
ちゃんとした名前は忘れちゃったけど、みんなは『夏忘れ祭』なんて呼んでるみたい。
もうずいぶん秋が深まるこの時期に、まるで夏の余韻をこれでぜんぶ忘れようって感じで開催される。
だから、夏祭りなのに浴衣だけでは肌寒くてやって来られないっていう、ちょっと変わったお祭りなの。
てくてくと参道を上って行く雅ちゃん。
その後ろを自転車を押してついて行く光平とハルダ。
大きな楼門に突き当たってやっと参道が終わると、その先に森が囲む広い境内があって、奥のほうにとっても立派な拝殿がゆったりと構えていた。
「ところで、ハルダ……といったかしら。あなた、寺の息子だそうね? ちゃんと仏道に心を尽くしているのかしら」
「なにおう? 失礼な。いまだ経は読まんが、ちゃーんと寺の手伝いはしておるぞ?」
それを聞いて、自転車のスタンドを立てた光平がちょっと笑いながら雅ちゃんへ振り返った。
「雅、ハルダはちゃんとお寺の手伝いをやってるらしいぞ? ハルダの寺には幼稚園があって、ハルダはいつもその……うっ? んんっ!」
「永岡よ。黙るがよい。それは著しく小生のイメージダウンにつながる」
ハルダが後ろから光平の口を押さえると、雅ちゃんがふんと鼻を鳴らした。
「あら、その様子だと、さしずめ、その大きな図体でエプロンでもしてキャッキャと園児と戯れているのを『寺の手伝い』などと言っているのでしょうね」
「ぷはっ、すごいな、雅。エプロンをしているというところまで大正解だ」
「あまりにもキモイわ」
ぐぬぬと口を曲げたハルダ。
うーん、あたしはとってもエライって思うんだけどなぁ。
「あまり口外するでない。硬派で通しておるのに」
「いいじゃないか、ギャップ萌えで」
「誰がエプロンハルダに萌えるというのだ」
「諸田部長」
「リアルすぎる」
そう言ってハルダがグッと首をすくませたところで、三人はちょうど境内の真ん中にたどりついた。
「さぁ、こうちゃん! ハルダ! そこの手水舎で清まっていらっしゃい? これから結成式をするわ」
「え? 雅、なんだ? 結成式って」
「雅どの、なにを企んでおるのだ?」
「よく考えてごらんなさい? 神社の娘、キリスト教会の息子、寺の愚息……、この三人が一同に会した意味を」
「なぜに小生だけ愚息なのだ」
たしかに……、そう言われればそうだ。
三人とも、みんな宗教家の子息で、しかも同級生。
これって、けっこうな偶然かも。
「こうちゃんの無実は、物理科学だけでは証明できないわっ!」
バサリと音を立てて、雅ちゃんがサブバッグから取り出した祓串を振り上げた。
長い黒髪がふわりと風に舞う。
「今日からわたくしたちはっ、『SSS』っ!」
なに?
えすえすえすって。
それから、雅ちゃんはさらに高く祓串を上げながら、もう片方の手でポケットから扇子を取り出すと、それをバサリと開いて口の前に当てた。
ごにょごにょと聞こえる、呪文みたいな言葉。
なんだかよく分からない。
でももし、あたしが階段から落ちた原因が、雅ちゃんが言うように科学では分からないなにか不思議な力によるものだったとしたら……。
ぽかんとしている光平とハルダ。
なんか大変そうだけど、これはこれでちょっと面白そう。
あーあ、すぐそこにみんなが居るのにあたしだけ入れないなんて、ちょっと寂しい……。
夕暮れの境内。
もう少ししたら、ここで『夏忘れ祭』が行われる。
あの幻想的な夜店の群れを、あたしは今年も見られるんだろうか。




