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うしろの風子  作者: 聖いつき
23/49

3-1  巫女コスプレっ? 雅ちゃんは神社の娘(2)

 ドドン!

「こうちゃんっ!」

 突然、乱暴に開かれたドア。

 そして、そのドアの向こうに姿を現したのは、息を切らし、肩を揺らすちっちゃな女の子……、いや……、

「やぁ、これは、雅さん。わざわざ来てくれたのかい?」

「お、おじさまっ。愛から連絡をもらいましたわっ。こうちゃんが大ケガしたって本当ですのっ?」

 こ……、こうちゃんっ?

「いや、そんなに大ケガではないんだ。ちょっと大げさに血が出ただけで――」

「こうちゃんっ!」

 ベッドへ駆け寄る巫女。

 光平に覆いかぶさって、ぎゅっと肩を抱き寄せる。

 なっ、なに?

 ちょっとっ、気安く光平に触らないでっ!

 それに……、なんなの? その格好。

 真っ白な小袖に、真っ赤な袴。

 明らかに神社の巫女さんの格好だけど、なぜか足元だけは通学用のローファー。

 もしかして、コスプレ?

 小学生みたいにちっちゃいけど、腰まである長い髪がとってもキレイ。  

 諸田さんがちょっと腰を引いている。

「うわ……、御笠さん……。来たのね」

「はぁ? どうしてあなたがここに居るのかしらっ? 諸田巡査部長!」

 なぜか諸田さんと知り合いの様子。

 いったいどういうこと?

「えっと……、光平くんが階段から落ちたとき、私も一緒に居たの」

「なんですってっ? あなたがついていながら、どうしてこんなことになったのかしらっ?」

「ごめんなさい……」

「こうちゃんっ! いつまで寝ているのっ? 雅が見舞いに来てあげたのよっ。起きなさいっ!」

 光平の耳元で怒鳴る巫女コスプレ。

 もうっ!

 そんな大きな声出さないでっ!

 光平はケガしてるんだからっ、もっと静かに優しく――。

「こうちゃん! 起きるのよっ!」

「うっ……」

 じわっと聞こえた、光平の唸り声。

 ハッとお父さんとお母さんが立ち上がった。

 諸田さんが瞳を大きくして、一歩踏み出す。

 数秒の無言。

 それから、光平を覗き込んでいたみんなの顔が、少しずつ……、ゆっくりと……、笑顔になった。「あ……、みんなどうしたの?」

「こうちゃんっ!」

 光平に抱きつく巫女コスプレ。

 こらっ! もうっ、離れてっ!

 でもっ、光平が目を覚ましたんだっ。

 嬉しいっ! 

 あたしも光平の顔が見たいっ!

「うわっ、雅か」

「うわっ、ですって? 人の顔を見るなり失礼極まりないわね。わたくしは心配して来てあげたのよっ?」

「わかったわかった! わかったから離れてくれ、雅。頭が痛いっ」

 すかさず諸田さんが巫女コスプレの小袖の襟を掴んで光平から引き離す。

「ちょっと代わりなさいっ! こっ、光平くん……、ごめんなさい。本当にごめんなさい!」

「え? 諸田さん……、ずっと居てくれたんですか。ありがとうございます。父さん、母さんも、ごめん。心配掛けて。雅もありがとう」

「こうちゃんっ! この役立たず警察官はわたくしが戒めを与えるわっ! 低級な動物霊を取り憑かせて帰りに車を故障させて、それから――」

「え? 待て、雅、諸田さんは僕を庇ってくれたんだ。戒めとかやめてくれ」

「はぁぁぁ? この女がですってっ?」

 なんかすごく騒がしい子だけど……、光平の幼馴染みなんだって。

 御笠雅ちゃんっていう、高校のすぐ近くの丘の上にある神社の娘さんらしい。

 だから巫女装束なんだね。

 しばらくして、やっと落ち着いた雅ちゃん。

 それから、ちょこんと椅子に腰掛けた雅ちゃんに、諸田さんが今回の経緯をひとつひとつ丁寧に話し始めた。

 ずっと大人しく話に聞き入っていた雅ちゃん。

 ひととおり諸田さんの話が終わると、突然、雅ちゃんはガバッと椅子から立ち上がった。

 立ち上がってもちっちゃい。

「こうちゃんっ! わたくしっ、こうちゃんのボディーガードをするわっ!」

「うわっ、大きな声だすな。頭に響くから」

「とにかく、またいつ下見警部補にやられるか分からないのだからっ!」

「はいはい、ありがとありがと」

「きぃーーーっ、どうしてこうちゃんはいつもそうなのかしらっ! とにかく、あした退院したらすぐボディーガード開始よっ!」

 ふんっ! と鼻を鳴らした雅ちゃん。

 それからふわっと長い黒髪を後ろへ払うと、雅ちゃんはちょっとだけニヤリと笑って「とりあえず今日は帰るわっ!」と背を向けた。

 ぽかんとする諸田さん。

 光平のお父さんとお母さんは慣れているのか、眉をハの字にして笑っている。

「では、ごきげんよう」

 最後にそう言い残して、雅ちゃんはタタタと病室から駆け出て行った。

 なんか、すっごくうるさい子だけど……、でも、光平のこと、とっても大切に思ってくれているみたい。

「光平くん……、彼女、捜査が始まってすぐ、自分から名乗りを挙げて聞き取り調査に協力してくれたの。光平くんはとっても優しい男の子だから疑わないでくれって」

「へぇ、そうですか。雅が……」

「うん。あっ、もうこんな時間? ごめんなさい。無理させて。もう休まなきゃね。元気になったらもっといろいろお話を聞かせてね。お父さま、お母さま、この度は本当に申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げた諸田さん。

 光平のお父さんお母さんと最後にいくつかの言葉を交わしたあと、諸田さんはすごく安心した様子で病室から出て行った。

 光平が無事でよかった。

 でも……、でももう、あたしの声は聞いてもらえない。

 すごく、ものすごく不安。

 それからしばらくして、お父さんとお母さんも帰って光平が病室にひとりになっても、あたしは声を掛けることもできないで、ただただその寂しげな背中をじっと眺めているしかなかった。

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