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うしろの風子  作者: 聖いつき
16/49

2-2  ふたりが語る永岡光平(1)

     供 述 調 書


 私は、いま話した住所に父と姉と一緒に住んでいる、美しが丘高校二年生の御笠雅といいます。

 今日は、私の同級生の永岡光平くんのことについて話します。

 私と永岡くんは、お互いに小さなときからよく知っている幼馴染みです。

 私はいつもは永岡くんのことを『こうちゃん』と呼んでいるので、今日もここからは『こうちゃん』と言って話します。

 こうちゃんは、とっても頭が良くて、優しい男子です。

 成績は、全教科いつも学年で一〇番以内に入るくらい優秀です。

 特に理系は得意で、二年生になってすぐの実力考査では物理で満点を獲っていました。

 でも、そんな優秀なところを自慢したり、ひけらかしたりすることは全くなくて、先生に褒められてもいつも黙っています。

 ただ、この黙っている態度が気取っているように受け取られたり、目が悪いので人を睨みつけているように見えたりするので、それを誤解してこうちゃんを嫌っている人も居ます。

 また、口下手でときどき相手を傷つける言葉を言ってしまうこともあるので、そのせいで余計に誤解を受けます。

 でも、本当はとっても優しいです。

 私を含めて、こうちゃんの近くに居る人はみんな、こうちゃんが本当はとっても優しい男子だと知っています。

 去年、高校一年生の夏休みに、私が自転車の鍵を失くして駅の駐輪場でとっても困っていたとき、こうちゃんは駅員さんに尋ねたり、一緒に交番に行ってくれたりしました。

 そして、日が暮れるまで、ずっと一緒に鍵を探してくれました。

 学校では、桜台さんが階段から落ちたのは、こうちゃんのせいじゃないかという噂が広がっていますが、私はそれは絶対に違うと思います。

 こうちゃんはクラス副委員長で、委員長の桜台さんの補佐をしています。

 桜台さんはけっこうわがままで、あまりよく考えずにいろんなことを思いつきでやってしまうので、補佐をするこうちゃんはいつも困っているようでした。

 でも、こうちゃんは桜台さんを嫌っていたんじゃなくて、心配していたんだと思います。

 いつか、教室の鍵を掛け忘れたことで、こうちゃんが先生からすごく怒られたことがありました。

 でも本当は、鍵を掛けるのは委員長の桜台さんの仕事です。

 こうちゃんは、桜台さんの吹奏楽部がコンクール前で忙しいから、自分が代わりに教室の鍵を掛ける役をやっていたと言っていましたが、これはたぶん嘘で、本当はこうちゃんが桜台さんを庇ったんだと思います。

 こうちゃんはそういう人です。

 こうちゃんは、桜台さんに振り回されて嫌な思いをずっとしていましたが、それで桜台さんを階段の上から突き落とすような男子ではありません。

 きっと、落ち着きのない桜台さんが自分で足を踏み外したんだろうと、私は思っています。

 もっとよく調べてもらうようにお願いします。


          御笠 雅








     供 述 調 書


 私は、ただいまお話しいたしました住所地に家族とともに暮らし、県立美しが丘高等学校で英語の教師をしているわかみやせいいちと申します。

 今日は、私が担任をしております当校の生徒、永岡光平くんの人となりについてお尋ねですので、日ごろの様子を交えつつお話いたします。

 永岡くんは現在当校の二年生であり、私は昨年度から二か年連続で彼の担任を務めております。

 彼は非常に成績が優秀で、特に理数系にけており、こと物理に関しては教師陣も舌を巻くほどであり、来年はおそらく優秀大学への難関を突破して素晴らしい結果を残してくれるものと期待する有望な生徒です。

 部活動はやっておりませんが、時折、物理科学部の活動に臨時参加して共に実験を行ったり、研究発表の補助などを務めたりしているようです。

 入学から現在に至るまで特段問題となる素行はなく、どちらかといえば目立たない生徒と言え、感情表現が豊かでないことと併せ気軽に談笑する姿などをあまり見せないことから、彼の交友関係は非常に狭い印象があります。

 唯一、クラスメイトで物理科学部のはるはるのりくんとは懇意にしているようですが、いまのところ彼以外に濃密な友人関係を持つ相手は居ないように見受けます。

 しかし、孤独を好んで独善的に集団行動を乱すような素行はなく、グループ作業などでも輪を乱さず熱心に取り組む、生来、実直な人柄のようです。

 クラスでは副委員長を務めており、これは今年の四月、今回の問題の当事者となっている桜台風子さんが委員長に選出された折になした彼女本人の指名を請けたもので、現在まで委員長の補佐として充分にその責務を果たしています。

 一部では永岡くんと桜台さんの仲は険悪であったと噂されていますが、私自身はそう感じたことはありません。

 誰にでも明るく接する桜台さんが前傾姿勢でクラスを引っ張り、それを彼が後ろからサポートするといった感じの、どちらかといえば相互に協力しあう良好な関係であったと認識しています。

 ただ、彼は非常に口下手で、意見を述べる際に言葉の選択を誤って他者への配慮を欠いてしまうことが度々あり、これによって招いた誤解が彼の評価を著しく下げてしまっている事実はあります。

 しかし、これは彼の本意ではなく、彼に対して反感を持っている他の生徒たちも彼の真意を知れば、必ず彼を理解してくれるものと思います。

 今回の桜台さんの件については、ただたださんの念に堪えません。

 教育現場においてこのような由々しき事態が発生したことを、教師として厳に重く受け止めております。

 今後も、警察の捜査に対しては全面的に協力をいたします。

 一日も早く事実が解明されて、校内に明るい雰囲気が戻ることを期待しております。

 必要であれば、またいつでもお話いたします。


          若宮誠一




「諸田部長、なんだ? これは」

「あ、下見係長。なんでしょう?」

「俺の指示と違うだろ。俺は永岡光平の悪質性を裏付ける調書を取って来いと言ったはずだ」

「そうですか? 彼の人となりが浮き彫りになる供述を集めて来いと仰ったので、そのとおり、彼をよく知る幼馴染みと担任教師から供述調書を取ってきたんですが」 

贔屓ひいきでしか見ないヤツの供述を集めてどうするんだっ! 事実に反するだろ! 人ひとり死にかけてるんだぞ? お前、なに考えてるんだ!」

 パシッ!

 丸めた調書用紙で、下見係長が私の頭をはたいた。

 あからさまなパワハラ。

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