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うしろの風子  作者: 聖いつき
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2-1  諸田部長の『お巡りさん記念日』(2)

「だから、違うと言っておるだろう! 内緒で約束などしとらん! 委員長、どうしてそんなに疑うのだ」

「ハルダと駅で会ったとき、風子も見てただろ? ほんとに偶然出くわしただけじゃないか」

『ほんとー? せっかくのデートなのにぃ。ハルダがついてくるとかありえーん』

 うわ。

 言ったそばからこれだ。

 ターミナル駅から地下鉄で西へ行った繁華街。

 赤や黄色の原色で彩られた、曲線が美しい建物の大型商業施設。

 上りのエスカレーターに身を預けたとき、そのふたりの背中が目に入った。

 休日の人波の中、私の数メートル先のステップに並んで立つふたりの男子高校生。

 ひとりは知らない子だ。

 メガネを掛けたかなりの長身で、おおよそバレーかバスケットをやってそうながっちりした子。

 なにやら変な言葉遣いをしている。

 もうひとりは、そう、よく知っている顔。

 白の綿シャツにジーンズというカジュアルな格好だけど、その人間性にカジュアルさはない。

 あの、何者をも見透かしたような目、吐き捨てるような物の言い方。

 間違いない、彼は永岡光平。

「風子、僕はデートだなんて――」

「だいたい、キミらデートとかおかしくないか? ひとからはあれほど犬猿の仲と評されていたくせに!」

『なんですとー? あたしは一度も光平とケンカしたことないもん。ね? 光平』

「しょっちゅうしてたじゃないか。そんな僕らがデートなんてありえない」

『えー? CMで観た映画が面白そうって言ったら連れて行ってくれるってなったんじゃん』

「なんでそれがデートになるんだよ。ただ風子を連れて来ただけだろ」

『でも一緒に行くんだからデートでいいもん』

「僕はただの付き添いだ」

『むむむー! 素直にデートって言えー!』

「キミら、少し仲良すぎではないか?」

 え?

 よく聞こえないけど、デート? 

 あの男の子ふたりは、これがデートだと言っているの?

 ちょっと待って。

 私には未知の領域。

 最近はボーイズラブなんて話をよく聞くけど、いや、私が好んで聞いているわけではなくて、勝手に耳に入ってくるんだけど、これってもしかして、ホンモノ?

 ああ、人は見かけに寄らないというけど、永岡光平にそんな高尚な趣味があったなんて。

 まぁ、あの長身の男の子はそれなりにカッコイイけど、それにしても意外……。

「あー、ここだ。うわ、まだ午前中なのになんでこんなに人が多いんだろ。酔いそう」

「なんと、これは大盛況なのである」

 ここが目的地?

 四階へ来たということは、映画ね。

 ふたりでなんの映画を観るのかしら。

 え? まさかこれ?

「ぐぬぬ、これは恋愛映画ではないか!」

「いや、だから言っただろ? 本当に一緒に観るのかって」

「永岡、お主、本当に付き添って入れるのかっ? というか、周りから見たらお主ひとりだぞっ?」

「え? うん、まぁ」

『光平は大丈夫だもんねー? 光平ってねぇ、けっこうロマンチストなんだから! そういうことで、ハルダはそっちの血まみれホラーねっ!』

 よく聞こえないけど、なんか不自然な会話。

 ふたり以外にも、誰かもうひとり居る感じ。

「ホラーだと? 恐いではないか! ぐぬぬ……、恋愛映画か……。ええい、毒を喰らわば皿までだ」

「ハルダ、無理しなくていいよ。風子のリクエストだし。僕はまぁ、そんなに嫌いじゃないんだ」

『へへーん、光平のお部屋にはおおーきな本棚があるんだよー? 恋愛小説もいーっぱいっ。「聖いつき」とか読んでるし』

「風子、それはプライベート情報だ」

『いいじゃん。なんかカタブツみたいに思われてる光平が実はけっこうロマンチストだとか、ギャップ萌えで』

「はぁ、いったい誰が僕に萌えるんだよ」

『あたしあたし』

「勝手にしろ」

「……キミら仲良すぎ」

 一緒に恋愛映画を観ようというの? 

 やはり、このボーイズラブはホンモノかも。

 ん?

 どうしたのかしら、なんだか様子が……。

「永岡よ、どうした」

「いや、あの子。どうしたんだろう? ずいぶん不安そうにきょろきょろしてる」

「おお、あの通路の端っこに居る野球帽の子であるか。そういえば親御さんの姿が見当たらぬな」

「うーん……、もうあんまり時間ないな……。風子、映画が次の時間になってもいいか?」

『あはは、もっちろん! だって光平だもんねぇ』

 うわ、永岡光平が映画館のエントランスから引き返してくる。

 だめ、見つかっちゃうっ。

 やばいやばいやば……、ん? 

 私の横を素通りですか。

 あら、あの子……、もしかして、迷子?

「ぼく? ママはどうした?」

 男の子の前で片膝を付いた永岡光平。

 私は思わず身を乗り出した。

 男の子は五歳くらい。

 地元プロ野球チームのレプリカキャップを被っているその子は、露天になった通路の壁に背をつけて、ひとり不安そうにしている。

「ママにここで待っているように言われたの?」

 いまにも泣き出しそう。

 いろいろ尋ねても何も答えないみたい。

「そうか。じゃ、お兄ちゃんと一緒にママを探そう。おいで」


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