図書館①
図書館というのは、人間観察に最適な場所の一つだ。
なぜって?皆が自分自身のことにしか注意が行っていないからだ。
その点ではカフェなどの飲食店もよいが、あそこは金がかかる。最悪食い逃げも可能だろうが、
倫理観はちゃんと備わっている。というか、そんなことをしたら傍観者ではなくなってしまう。
私は、この立場が気に入っているのだ。
今日も、図書館に向かう。自動ドアは、私を確実に察知してくれる。鳴ったか鳴らなかったか微妙な
ほどの駆動音と共に、私は少し早足で館内へ入った。
二人の少女が向かい合って教科書を広げていた。
カツカツ、シャッというシャープペンシルを走らせる音と、時折まざる紙をめくる音。ボソボソと何
かを呟いているのも聞こえる。
(大変そうだな、学生というのは)
独り言を声に出しても気付かれることはないが口を閉ざしたまま、本の次のページを開くフリをする。
もはや、私の注意は本などには向いていなかった。
数分ほどすると、片方の少女が筆記用具を放り出し、のびをした。こちらをCと呼ぶことにしよう。
それに気づくと、もう一人の少女も筆を置いた。こちらは、一時的にDと呼ばせてもらおう。
Dがテキストとノートを閉じ、筆箱の中にシャープペンシルと消しゴムをしまう。
そして立ち上がり、Cの肩を叩いた。二人は二言三言交わし、二人は外へ出て行った。
本を棚に返すフリをしつつ、先ほどの少女達の机を見ると、「高校数学」の字が。
(そうか、あの子達は高校生なのか)
高校生というのは、一番楽しい時期だと思っている。かくいう私も、青春を謳歌したタイプだ。
(友人達とバカ騒ぎをしたり、教師に一緒に怒鳴られたり、テストで赤点取ったり、校舎の窓ガラス割ったり、チャリ二人乗りしたり……。そういえば、恋愛とかはなかったな……。というか犯罪一歩手前ばっかりだな……)
ちょっと悲しくなった。
少女達は、しばらくすると戻ってきた。その手にはペットボトルのジュースが。
(うん、青春っていいなあ)
そんなことをぼんやりと思っていたら、前から来たお爺さんに気が付けず、ぶつかられた。
「チッ、誰だよ」
舌打ちをする老人に、申し訳ないと少し身をかがめて手を合わせておく。どうせ見えていないが。
こういうところは、本当にツいていないな、と思う。
そそくさと図書館を去ろうとしたら、自動ドアが開かなかった。
「えぇ……」
直後に、人が来て、私に少しぶつかりながら出て行った。
ドアの閉まらぬうちに外へ出る。
「今日はちょっと厄日かも知れない……」
青春をうらやんだ罰だろうか。
私はさらに落ち込んだ。
機械にすら反応されないのは堪えますよね。筆者もこないだ無視されました、自動ドアに。(倒置法)