宗教
これは、日課の散歩の休憩中に公園で座っていた時、面白い話を聞いた。
二人の男が歩いていた。一人はおとなしそうな見た目で、もう一人は酷くやつれていた。
二人は公園のベンチに座ると、しばらく空を眺めていた。
ふと、やつれている方――仮にBと呼ぼう――が話し出した。
「この間さ、自分の名前を間違えたんだ」
耳を疑った。なぜ、そんなことが可能なのか分からなかった。
「書類って、手描きで書くだろ?『紅』って字をさ、『線』って書いたんだよ」
「なぜ……」
部首は同じだが何故その二つを間違える?
私と同じ疑問を、もう一人の方――仮にCとする――も抱いたようだった。
ハハッ、とBが乾いた笑いを零した。
「分からない。なにも分からない。あのときは疲れてたんだ、きっと」
「……そうか」
Cは返事に困っていたようだ。
「Cも疲れるのか?」
と、Bが問うと、Cは目を閉じて考えた。
「そりゃ、疲れるさ。生きとし生ける者は、全て、なんの例外もなく消耗する」
「宗教開けそうだな、Cって」
Cはきょとんとした顔をして、一拍おいて笑い出した。
「あっははは!宗教なんてのは、『主役』の連中が作るものだろ?俺みたいな『脇役』には不可能だ」
「それもそうだけど、俺は、もしCがそうだというなら、応援するよ」
微笑ましい会話だなと思った。
最近、テレビでは新興宗教が増えているというニュースをよくやっている。
「怖い怖い。気を付けないとな」
もっとも、宗教勧誘は私の家を素通りしていくが。
こう言うことに関しては、傍観者は便利だなあ、と思う。