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FREE UNITE  作者: マー・TY
8/16

東京∼アスタロト1∼

 午前9時過ぎ。

 静かな道路を、シャトルバスが走っていた。

 その後ろにも、同じデザインのバスが続いている。

 バスに乗っているのは、高校の生徒とその教師達。

 1つのバスに1クラス分の生徒が乗っている。

 ミウもまたそのバスに乗っており、窓際でボーッとしながら外の景色を眺めていた。

 普段過ごしている都会から、だんだん離れているのが解る。

 今日は学校行事のひとつである遠足の日。

 行事の中でも最初の方にあり、生徒達の親睦を深めるために設けられている。

 ミウはふと、バスの中の様子をチラリと見た。

 そこには遊次を中心に賑わうという、いつもと同じ風景が広がっていた。

 教室でも、遊次達のような明るい生徒が何かをし、周りが盛り上がるといった展開が多い。

 ミウはいつもそれを、遠くから見ていた。

 明るい雰囲気は好きだが、何故だか自分からその輪に入ることができずにいた。

 自分からクラスメイトに話しかけるのは緊張するし、クラスの中心に立つ勇気も無い。

 しかし、”FREE UNITE“で知り合った相手とは戸惑うことなく会話ができる。

 何なら害を加えてきた相手を懲らしめることだってできるのだ。

 ミウ自身、そのことについて不思議に思っていた。

(……はぁ。……こんなんでよく団長やれるよなぁ……私……)

 一般人有名人関係無く、今や様々な人物が入団している自由な団体“FREEE UNITE”。

 団の中では、度々団長が何者かという話題が上がっていた。

 有名な会社の社長という説。

 凄腕のハッカーという説。

 とある宗教の教祖であるという説。

 ただの引きこもりという説。

 ネット上にて、様々な考察やこじつけが飛び交う状況になっている。

 団長の正体が教室の隅っこに居る根暗な女子高生だと知ったら、団員達はどんな反応をするのだろう。

 もしも団長の名で顔出しでもしたらどうなるのかと考えたりもする。

 最も、今後正体を明かすつもりは無いのだが。

「みんな〜、もうそろそろ着くぞ〜。荷物ちゃんとまとめとけよ〜。それから寝てる奴起こせ〜」

 目的地が間近に迫ったところで、ジャージ姿の担任が声を上げた。

 生徒達は各々バスから降りる準備をする。

 隣の席の者を起こすような声も聞こえてきた。

 出発地である学校でバスに乗ってからずっとリュックを抱えて座っていたミウは、変わらず窓の外を見つめる。

 今から行くのは大塚・歳勝土遺跡公園。

 復元された竪穴式住居等が建ち並ぶ、歴史が学べる公園だ。

 どうやら高校生にもなると、遠足でも勉強をさせられるらしい。

(……まぁ、昔の暮らしとかには興味あるけど……。お弁当とか…その後どうしようかなぁ……。)

 他のクラスメイトのほとんどは学びの後に遊ぶことを考えている。

 実際体育倉庫からボールを借りて持ってきていたりする。

 しかしミウは、勉強の後の予定を何も立ててはいなかった。




 バスから降りた後、集められた生徒達にプリントが配られた。

 内容を一言で言えば、歴史の課題。

 範囲は縄文から弥生時代。

 公園内を歩き回って答えを見つけ出せという意図を、ミウは即座に感じ取った。

 全部スマホで調べて解こうとしたが、個人の見解を求められるような問題もあったので、結局歩き回ることに。

「おいミウ〜!一緒回ろうぜ!俺達と!」

「えっ?……あ〜…うん」

 1人で進もうとするミウを、遊次が誘ってきた。

 ミウはついその勢いに流されしまう。

 2人きりなら落ち着いて「いいよ」と返事ができるのだが、今の遊次はクラスの所謂”陽キャ“グループに囲まれている。

 ミウはそういう人種に対し、苦手意識を持っていた。

 そんな心境を知ることなく、遊次の隣に居た女子が話しかけてきた。

「なになに〜?天草さんって遊次と仲良いの?」

「えっ?……あぁ、えっと……うん」

「え〜〜!そうなんだ!意外!教室じゃ一緒に居るとこ見たことないのに!」

「そ、そうだよね…。意外、ですよね……」

「おいおいそんなに食いついてやるな〜!ミウはかなり人見知りなんだよ!」

 絡まれて困り果てていたところに、遊次の助け舟が入る。

 人見知り……。

 しかも“かなり”と付けられた。

 否定はしないが、少々胸に刺さる言葉だった。

 流石に”かなり“と言われる程ではないと自負しているが。

「そうだったんだ!ごめんね!いきなりたくさん喋って!」

「あっ、いや……気にしないで…」

 その女子は両手を合わせて謝ってきてくれた。

 決して悪い人ではない。

 とても明るくて、物事への興味が深くて、優しいだけなのだ。

 だからこそ、そんな彼女に謝罪させてしまったことに対して申し訳なくなった。

 その後、遊次達一行は順調にプリントを埋めていった。

 ミウはその輪の中心に近づくことなく、すぐ後ろを歩く。

 それで遊次達が行き詰まったら助言を出すということを繰り返した。

 その度に遊次達に喜ばれた。

 これでいい。

 みんなが楽しくはしゃいでいるのを見るだけで目の保養になるのだ。

 この瞬間も、教室に居る時も、ミウはそれで満足していた。

「フヒッ……フフフッ…。全然楽しくなさそうだね。天草さん」

「ッ!!」

 突然不気味な声で囁かれ、ミウは反射的に立ち止まる。

 ミウの傍に、いつの間にか1人の男子生徒が立っていた。

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