表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FREE UNITE  作者: マー・TY
6/16

北海道∼虫目村の噂3∼

 トージ『虫目村、着きました』


 この書き込みの後、『虫目村に向かう』掲示板にトージによって写真が投稿され始めた。

 雑草、落ち葉だらけの道。

 木材が朽ちたことが原因で崩れた木造の家。

 植物が絡まり、錆びれた自転車。

 おそらく腐った水が溜まっているであろうタイヤ。

 苔まみれの井戸や竈門。

 次々と投稿される写真から、廃村の不気味な雰囲気が醸し出されていた。


 鎖骨『すごっ!』

 飛車『いかにもだな』

 ハイパー『完全に放ったらかしの雰囲気たまらん』

 自由帳『アニメの世界やん』

 いったん『こういう雰囲気好き』

 万次郎『タイヤ?車とかあったんですかね?』

 ちゃんバラ『死体とか無いん?』

 トージ『もうちょっと調査してみますね』


 トージはそこまで書き込むと、再び虫目村の調査を再開した。

 以降この掲示板は、写真や村の考察で盛り上がることになる。




 村の気になるところを見つけては、写真に収める。

 トージはそうしながら、少しずつ村の奥へと進んでいった。

 そうするに連れ、心無しか空気が重く、肌寒くなっていく。

 しかしそれと比例するように、この村への好奇心は強くなっていった。

「よくもまぁ、こんな薄気味悪い廃村を怖れずに進んでいくものじゃ」

 翠華は半分呆れながらトージに付いていく。

 彼女もまた、怖れは無いようだった。

「そんなにも物珍しいか?」

「心霊スポットはこういう廃墟みたいなところが多いんですけど、僕は見てて飽きませんね。いろいろ気になることはあります。例えば、ここの村人達はどこへ行ってしまったのか……とか」

 村中を見渡しながら、トージはそう言う。

 できれば見つからない方がいいのだが、骨すらも見つかっていない。

 この村は滅んだという話だが、いったいどのようにして滅んだというのか。

 その辺りはまだ謎のままだ。

「……環境悪化や都会進出で人が減ったせいじゃろ。位置的にも隔離されとるようなものじゃからのぅ。何事も、人が減れば自然と廃れるものじゃ」

「虫目っていう子を捧げなかったせいで滅んだっていう話が……」

「そんなものデタラメじゃろ。たまたま神の施しを貰えておると感じるだけ。何もしなくとも平穏は訪れるもの。厄災も同じじゃ。いつ起こってもおかしくないわい」

「……翠華さんって、神様を信じない人なんですね」

「信じたところで……じゃな。信仰するだけで救われるならいくらでも拝むわい」

 翠華は忌々しげに言い捨てる。

 過去に神様関係で何かあったのだろうか。

 そんなことを考えていると、急な生臭さが鼻を掠めた。

「……何か、臭いませんか?」

「言われてみればそうじゃのぅ。……ここからか?」

 翠華が指差す方に、トージも目を向ける。

 それは木造でできた古家だった。

 所々木が傷んでおり、表面に苔まで生えてきている。

 そして何故か扉が開いた状態になっていた。

「ここからでしょうか?」

「ここから妙に臭う」

「確かに……。ていうか、ここだけですよね?」

「ここまで歩いてきてこんなに臭うのは初めてじゃ」

「ですよね…。しかもこれ……、この臭いマズイかもしれないですよね……。明らかに死臭って感じで………」

「確かにのぅ……。入るか?」

「えっ?」

 翠華からの予想外の提案に、トージは驚く。

「……やっぱり、入ってみた方がいいんでしょうか?」

「もしこの臭いの原因が人だとすれば、放っておくわけにもいかんじゃろ。わっちは行くぞ。そなたはどうする?待っとっても良いぞ」

「あっ……いや……行きます!」

 淡々と語り、躊躇無く古家に進んでいく翠華を、トージは慌てて追いかけた。

 近づくにつれ、臭いは強くなっていく。

 2人はまず玄関に入った。

 やはりと言うべきか、家の中は汚かった。

 土間には枯れ葉や土が入り、下駄箱には埃が積もっている。

 天井の隅には蜘蛛の巣が張っていた。

 2人は土足で廊下に上がる。

 一歩踏み出す度に床がギシギシと鳴り、少し凹むような感覚がある。

 内装を眺めつつ、2人はとある障子の前で立ち止まった。

 この障子の部屋から、他とは別格の息苦しさを感じた。

 臭い自体も酷い。

 虫にでも食われたのか、紙は所々破けていた。

 とはいえ、そこから中を覗き込む気にはならなかった。

「ここじゃな」

「……十中八九そうですね」

「良いか?開けるぞ」

「はい……」

 翠華はトージの承認を受け、ゆっくりと障子を開けた。

「うわっ…………」

 トージの口から、思わず声が漏れた。

 家の間取りで言うと、そこはお茶の間。

 しかし、それ相応の温かさは感じなかった。

 まず、タンスや畳、ちゃぶ台、壁にまで文字が書かれていた。

 小さく、それでいて歪んだ字でびっしりと。

 それがまるで呪詛のように映った。

 トージは唾を飲み込むと、恐る恐る部屋に入る。

 若干嫌な予感はしていた。

 まだ臭いの正体が解っていない。

 そしてそれがあるとすれば、ちゃぶ台の陰になっている部分。

 思えば部屋に入る前、ちゃぶ台の端から何か見えた気がした。

 その陰になっている部分に近づく。

「うっ………!!!」

 トージは反射的に口を抑えた。

 最悪の予感が当たる。

 そこには丸くなるようにして横たわる、人の死体があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ