北海道∼虫目村の噂1∼
“FREE UNITE”公式サイトのとある掲示板にて……。
鎖骨『あんまり知られてないような心霊スポットある?』
A子『マイナーなとこじゃなきゃダメなの?』
鎖骨『有名所は行かれ過ぎて萎えるっつーか』
万次郎『あー、なんかわかります』
ちゃんバラ『人来すぎて幽霊人酔いしてそうw』
いったん『有名所っていってもヤバいところとヤバくないとこ
ろありますね』
鎖骨『どうせならやべーところw』
飛車『やべーところかよw』
ちゃんバラ『お前絶対行けよwww』
りんご『じゃあ、虫目村はどうですか?』
鎖骨「なんそれ?」
A子『くわしく』
牛たん『わくわく』
りんご『北海道の山奥の村なんですけど、その村では何年かに
一度虫目っていう目を持つ子が産まれたそうです。村
人達はその子を神様に捧げてたそうなんですけど、あ
る時その子が逃げ出して、そのせいで滅んじゃったっ
ていう話です』
いったん『なんかはじめて聞きます』
りんご『けっこう最近の話みたいですからね』
イグルー『現代の怪異って感じ?』
飛車『だってよ鎖骨。行ってこい』
ちゃんバラ『行け行けw』
鎖骨『いいけど北海道か〜。九州だったら行ってた』
ハイパー『行けよ』
いったん『私も九州住みですけど、夏休みでもないとちょっと
厳しいですよ』
A子『じゃあ誰か北海道住みの行ける人〜』
トージ『自分行きますよ』
鎖骨『おっ、マジ?』
飛車『マジで?』
トージ『何なら実況しますよ』
牛たん『楽しみ〜』
イグルー『いつ行ける?』
トージ『予定決まり次第また板立ち上げますね』
「ふぅ……。なかなか遠いな」
数日後、トージは掲示板で書き込んだ通り、虫目村を目指していた。
朝からバスを乗り継ぎ、田舎町で降りる。
気づけば午後2時。
暗くなった時のことを考えると、もう今くらいの時間で見つけておきたかった。
トージはリュックからチョコレートを取り出し、齧りながらスマホでマップを開いた。
虫目村があるとされる場所は、この町から歩いてすぐ。
とはいえ、森に囲まれているらしいので厄介だ。
マップを一瞥した後、今度は“FREE UNITE”の公式サイトを開く。
そこで『虫目村に向かう』というタイトルで掲示板を立ち上げた。
トージ『今から向かいます。もう歩いて行けるくらいの距離に
来ています』
オカルト好きのトージは、心霊スポットに行く際によく掲示板で実況していた。
撮った写真を貼り、オカルト仲間と共有して楽しむのだ。
そう一言書き込んだ後、再びマップを開く。
印を付けた方向に歩き出そうとした。
「おや、この町に若者が来るとは珍しいのぅ」
不意に声をかけられ、トージは後ろを振り返った。
そこには、奇妙な人物が立っていた。
顔の口から上を、大きな一つ目が描かれた布で隠している。
トージより背は低いものの、その見た目からどこか不気味さが漂っている。
声色からして若い女性だと解るが、口調は古めかしい。
「観光かの?」
「えぇ、まぁ……。そんなところですかね……」
トージは口元を引きつらせながら答えた。
「ほぅ……。じゃが、この辺りに観光するような場所はないんじゃがなぁ」
女性は首を傾げて呟く。
バスに乗っている間に調べたが、確かにここ周辺にこれといった名所や特産物等は無い。
トージはこの町に来た目的を話すことにした。
地元住民を訪ねた方が早いだろう。
「この辺にあるという、心霊スポットを探しに来たんです」
「心霊スポットとな?」
「はい。虫目村という場所なんですが、ご存知ですか?」
「………」
女性は少しの間黙ったが、すぐに首を縦に振った。
「知っとるぞ」
「本当ですか!?」
「左様。わっちで良ければ案内するぞ。あの辺りは迷いやすいのでな」
「あっ、そういうことならお願いしたいですが……いいんですか?この後予定とか」
「丁度暇しておったところじゃ。ささ、ついて参れ」
女性は少し先を歩き、手招きをした。
トージはすぐにその後を追う。
町から出るとあっという間に木々に囲まれた坂道に入った。
車道ではあるが、全く車は通らない。
そんな静かな坂を、2人は登っていた。
「ところでそなた、名を何という?」
「あ〜、えっと……。トージという名前で通ってます。学生です。あなたは?」
「わっちは翠華じゃ」
お互いに自己紹介が終わる。
スマホのマップを見たところ、目的地までまだ少し掛かりそうだった。
暇つぶしに、トージは翠華にいろいろ質問してみることにした。
「翠華さん、どうして顔、隠してるんですか?」
「日焼け対策じゃ」
「前は見えてるんですか?」
「もちろん見えとるぞ。そなたの顔もちゃんと見えとる。なかなか男前ではないか?」
翠華はのんびりとした口調で答える。
トージは苦笑しつつ、お礼を言った。
日焼け対策をするような季節でもないし、その方法もよく解らない。
とはいえ、こうしてわざわざ案内してくれる辺り、悪い人ではないのだろう。
ひとまずトージは、翠華を信じることにした。
マップを閉じ、掲示板を開く。
ちゃんバラ『きたー!』
ハイパー『待望の虫目村!』
鎖骨『トージ仕事早っw』
age『めちゃめちゃ興味ある』
既に何人かが反応し、思い思いのことを書き込んでいた。
トージは今の状況を書き記すことにする。
トージ『現在地元の方に案内してもらってます。進捗あったら
また書きますね』
「なんじゃ?歩きスマホとは感心せんのう」
翠華が振り向き、呆れながらそう言った。
トージは思わずスマホをポケットに仕舞った。
「あぁ、すみません。心霊スポットに行くたびにこうしてネット上で共有しているんですよ」
「肝試しを共有とな。最近の若者は怖いものなしって感じじゃな。……ほれ、こっちじゃ」
翠華が指差したのは、狭い遊歩道だった。