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FREE UNITE  作者: マー・TY
3/16

東京∼いってきます∼

「痛い……痛いよぉ……!」

「うるせぇこのガキ!!」

 頭を抑えて丸くなる幼い少女を、父親が何度も踏みつける。

 踏まれる度に、悲痛の叫びを上げた。

 少女は助けを求めるように、近くに居た母親を見た。

 しかし母親は目もくれず、スマホをいじっているだけだった。

「誰に産んでもらったと思ってんだ!!?テメェは黙って親の言うこと聞いてりゃいいんだよ!!」

 父親からの暴力は怒鳴られながら続く。

 身体中が痛い。

 骨がギシギシといって、内臓も痛い。

「うっ…、うえっ……え”え”え”え”え”え”え”え”え!!!…ゲホッゲホッ!!!」

 耐えられなくなった少女は、ついに嘔吐してしまった。

 その様子を見て、父親はさらに激怒する。

「汚ぇな!!!何吐いてんだテメェ!!!」

 父親は少女の胸ぐらを掴んだ。

 拳で何発も顔を殴る。

 そしてそのうちの一発が、右目に入った。




「ッ!!!」

 悪夢に魘されていたミウは目を覚ました。

 全身汗だくで、息苦しい。

 息を整えながら、近くに置いてあったスマホを見た。

 時刻は午前4時を示していた。

「はぁ………はぁ………。う”っ……!!」

 悪夢のせいか、失明した右目がズキズキと痛んだ。

「はぁ……。最悪…」

 右目を抑えながら呟く。

 未だにこの夢を見るのかと思い、嫌になった。




 シャワーを浴び、少しスマホをいじったりした後で、ミウはキッチンに向かった。

 食パンに塩を振り、バター、チーズ、切ったキャベツ、ベーコンを乗せ、さらにもう一枚の食パンで挟む。

 それを2つ分作り、電子レンジに入れた。

 それから1分程した時、一人の女性がキッチンに入ってきた。

「ふわぁ〜……。あらミウちゃん、起きてたの?」

「叔母さん、おはよう」

「おはよう〜。どうしたの?いつもより早起きね。偉いわ〜」

 叔母はミウの頭を優しく撫でた。

 ミウは恥ずかしそうにその手を払う。

「やめてよ。いくつだと思ってるの?」

「あらら。ごめんなさい。だってあなた、この時間はいつも寝てるから〜……」

「偶然だよ。偶然早く目が覚めたから、朝ごはん作ってただけ。たまにはいいでしょ?」

「ごはん作ってくれてたの?助かるわ〜」

 叔母が朗らかに笑ったところで、“チ〜ン”と音が鳴った。

 電子レンジを開けると、バターのいい香りが広がる。

 食パンはきつね色に染まっていた。

 ミウ特製のホットサンドの完成だ。

「あら〜、美味しそう〜」

「温かいうちに食べよう。飲み物、ミルクティーでいい?」

「もちろん♪」

 2人はリビングに移動すると、テーブル席に、向かい合わせになって座った。

 叔母がテレビを点けると、丁度朝の情報番組が始まるところだった。

 朝食を食べながら、テレビを観る。

 それが2人の朝のルーティンだ。

 もっとも、いつもなら叔母が朝食を作り、ミウを起こしているのだが。

「うん♪サクサク〜。塩も効いてるし、しょっぱくて美味しいわ〜」

「それはよかった」

「これなら安心してミウちゃんをお嫁に出せそうね〜」

「結婚とか考えてないから。まだ」

『さぁ、今週のホットな話題は〜、“FREE UNITE”です!』

 他愛のない会話をしていると、いつの間にかテレビで“FREE UNITE”について取り上げられていた。

 アナウンサーによって“FREE UNITE”が何であるか、そして今まで起こしてきた事件が次々に晒されていく。

 ついにはバーンアンデットや、昨晩制裁を与えた島田のことも語られていた。

 その情報の速さに、ミウは若干引いていた。

「ふりーゆないと……ねぇ。最近よくその名前聞くわ。ここまで有名だったなんてねぇ〜。あっ、バーンアンデットって遊次君のことよね?あの子テレビに出るなんて凄いじゃない」

「取り上げられてるだけで、出てはいないよ。出てたら多分、ミルクティー吹き出す」

「フフフ。……ミウちゃん、最近楽しい?」

「へ?」

 叔母からの不意な質問に、ミウは思わず間抜けな声を出す。

 意図は解らないが、とりあえず微笑みながら返答を待つ叔母の目を真っ直ぐ見る。

「……楽しいよ」

「本当?」

「本当」

「……本当みたいね。うん。……フフフ。よかったよかった」

「なに?叔母さん……。気味悪いよ……?」

「ごめんなさい。ただ、ミウちゃんがここまで元気に育ってくれて、嬉しいだけよ」

「はぁ……」

 朗らかに笑う叔母を見て、ミウは少し困惑しつつ、ミルクティーを飲む。

 ミウからすれば、叔母はほのぼのしていて、しかしどこかミステリアスで、達観しているイメージだ。

 とはいえ、それと同時に温かさもある。

 叔母が自分を引き取ってくれた最初の夜、震える体を優しく、いつまでも抱きしめてくれたことを、未だに覚えている。

「叔母さん」

「な〜に?ミウちゃん」

「……いつも、ありがとう」

「フフフ。いいのよミウちゃん♪」

 叔母は席から立ち、ミウの頭を優しく撫でた。




 朝食の後片付けをし、それぞれ着替えた2人は、一緒に外に出ていた。

 今からミウは学校、叔母は仕事へ向かう。

「ミウちゃん、忘れ物ない?」

「ないよ。叔母さんは?」

「ないわ。ところでミウちゃん、今日も帰り、遅くなるのかしら?」

「うん。ちょっと遊次ん家寄ってく」

「フフフ。本当に遊次くんのこと、好きなのね」

「うるさいなぁ……」

「あらあら照れちゃって。可愛いんだから」

「そんなことより、早く行かないと遅刻するよ」

「あらあら、そうだったわね。それじゃあミウちゃん、いってらっしゃい」

「うん、いってきます」

 ミウは手を振ると、学校の方へと駆けていった。

 叔母はその背中を見送ると、職場に向かうため、駐車場へと歩いていった。

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