東京∼FREE UNITE∼
「ふぅ…。ちょっと疲れたな…」
大学の講義室で、山名香奈は荷物をまとめていた。
いつも講義を真面目に受けているためか、彼女の鞄は教材等でパンパンに膨らんでいる。
「荷物もっと減らした方がいいかな?」
考えてみれば、今日の講義で使わなかった教材やノートも入っていた。
それらを抜けば、まだ通学で楽できることだろう。
そんな鞄の中を整理していると、ふとフワフワした物が手に触れた。
取り出してみると、それは丸くて白い小鳥のぬいぐるみだった。
「あっ、エナモッチ」
“エナモッチ”とは、今ブームが到来しているキャラクターだ。
エナガという鳥と餅を掛け合わせた見た目をしており、大福風、ずんだ餅風と、種類も様々だ。
グッズもぬいぐるみを中心に、イラスト集やカレンダー、お菓子等、幅広く出ている。
香奈はこういった可愛いキャラクターグッズを集めるのを趣味としている。
今はこのエナモッチというキャラクターにはまっていた。
このぬいぐるみは、昨日UFOキャッチャーで獲った際、鞄に仕舞ったままだった。
「あれぇ?何それぬいぐるみ?」
香奈の後ろから、1人の男子学生が話しかけてきた。
「島田くん……」
「香奈ちゃんぬいぐるみ集める趣味とかあったの〜?子供っぽくね?」
島田と呼ばれた男は、香奈からぬいぐるみを取り上げた。
足を摘んでぷらぷらと振ってみせる。
「ちょっと、…返してよ!」
「取らねぇよ。何必死になってんの?」
島田はぬいぐるみを机に放り投げた。
香奈は慌ててそれを拾い、大事そうに鞄に入れる。
「それより香奈ちゃん、今週末のサークルの親睦会来るよね?」
「え?……まぁ、…行くけど……?」
「オッケ〜。そんじゃあまた後でな〜」
島田はそう言って香奈の元から離れていった。
それから講義室の入口近くに居た派手めな女学生と、楽しそうに話しながら出て行った。
香奈はどうしても島田が好きになれなかった。
顔は良いが、金髪にピアスと、まずその派手な見た目から受け付けなかった。
その上、先程のようなデリカシーの無い言動も苦手だった。
そんな香奈の気持ちとは裏腹に、島田はよく絡んでくる。
その度に嫌な言動をされる。
時にはセクハラとも取れる行為をされたこともあった。
大学の授業やサークル自体は好きだが、島田が居るだけで憂鬱に感じられた。
「はぁ……。島田くん、どうにかならないかな?」
香奈は鞄の中のぬいぐるみに、そう呟いた。
「ただいま〜」
午後9時。
アルバイトを終え、香奈は自宅のアパートの一室に帰ってきた。
一人暮らしではあるものの、実家に居た頃の名残か、つい「ただいま」と口にしてしまう。
出迎えてくれるのは、今まで集めたぬいぐるみ達だ。
シャワーを浴びた後、夜食を用意し、机の上のパソコンを起動させた。
椅子に座り、夜食を摘みながら操作をする。
マウスやキーボードを動かし、開いたのは“FREE UNITE”と記載されたサイトだった。
“FREE UNITE”とは最近ネットで話題になっている団体で、香奈自身も試しに入団していた。
とはいえこのサイトにはチャット機能や電子掲示板が搭載されており、他の団員とやりとりすることができる。
香奈が開いたのはチャット機能の方。
部屋を作り、特定の人物達だけで会話を楽しめる。
香奈はいつも入っている部屋に入室した。
そこでは既に2人が会話を始めていた。
カナカナ『こわばんわ〜』
ミウ『カナカナさんこんばんわ〜』
オイノリ『ばんわで〜す』
このサイトでは、香奈は“カナカナ”という名で活動している。
ちなみにこの部屋の人数は香奈を含めて3人。
ミウ、オイノリはこの部屋のメンバーだ。
ミウ『カナカナさん知ってます?エナモッチアニメ化決定です
よ!』
カナカナ『知ってます知ってます!まさかアニメ化するなんて
思ってませんでした!楽しみですよね!』
オイノリ『動くエナモッチ眼福ですわ〜』
ミウ、オイノリとは、よく趣味が一致する。
掲示板で知り合い、今ではチャットで話す仲になっていた。
今はエナモッチの話題で持ちきりだった。
ミウ『いつか一緒にグッズ買いに行きません?』
カナカナ『いいですね!行きましょう!是非!』
オイノリ『行きましょう、と言いたいところですけど、私は難
しいですねー。東京のお二人羨ましいですー』
カナカナ『オイノリさん、京都ですもんね……』
ミウ『何ならカナカナさんと一緒に京都行きましょうか』
カナカナ『いいですね〜!』
オイノリ『嬉しいこと言ってくださる〜♪』
ミウとオイノリの2人と繋がれる。
香奈にとって、この時間は楽しみになっていた。
その後もひとしきり、3人でチャットで盛り上がった。
オイノリ『あら。日付変わってます〜』
ミウ『時間経つの早いですよね』
カナカナ『この辺でお開きにしときますか?』
ミウ『そうしましょうか』
オイノリ『ですね〜。それじゃ、おやす〜』
ミウ『おやすみなさい』
カナカナ『おやすみなさ〜い』
3人は最後の打ち込みをすると、ほぼ同時にチャットルームから退出した。
香奈は椅子に寄り掛かり、背筋を伸ばす。
「やっぱりいい人だな〜。ミウさんも、オイノリさんも…。2人共高校生らしいけど、私にも平等に接してくれてやりやすいし。いつか会ったみたいなぁ」
いつか3人でオフ会でもしてみたい。
香奈はベッドに寝転びながら、そんなことを夢見た。
時間は進み週末。
予定通り香奈は、親睦会に参加していた。
ただ予想外だったのが、場所が居酒屋だったということ。
全員酔いが回ってきているのか、いつも以上にテンションが高く、話も弾んでいる。
たまにズレた会話をしては、笑いが起きていた。
香奈は物静かではあるものの、こういう明るい雰囲気が好きだった。
ある1人を除けば……。
「ほらほら香奈ちゃん手が止まってんぞ〜?飲んで飲んで〜」
「えっ…あぁ…ちょっと……!」
島田が香奈のコップに、勝手に酒を注いできた。
サークルの中だと、香奈は酒に弱い方だ。
なのであまり強くない酒を少しずつ飲んでいた。
そんな香奈の心境を、島田は平気で無視してくる。
「勝手に注がないでよ」
「だって香奈ちゃん飲んでないじゃん?何のために親睦会参加してんの?」
「それは……そうだけど……」
「なに?もしかして酒弱い?大丈夫大丈夫〜。俺ちゃんと弱い酒淹れたから。ほらほら飲んで飲んで」
「うっ……うん……」
島田に煽られ、香奈はコップに口を付けた。
本当に弱いのか解らない。
少しずつ、ちびちびと口に入れていく。
しかし、そこでまた島田が手を出した。
「な〜にやってんだよ!思いっきり行けって!」
「うぶっ!!?」
島田が強引にコップの底を押し上げる。
そのせいで香奈の口内に大量の酒が入り込み、喉を通っていった。
その途中で、一部が器官に入りかける。
「ゴホッゴホッ!」
「ギャハハ!おいおい大丈夫!?やっぱ酒弱かったんじゃねーの!?」
あなたのせいでしょ。
心の中で文句を言いつつ、腹を抱えて笑う島田を香奈はそっと睨んだ。
その束の間だった。
急に目眩がし、視界がボヤける。
少し休んでみるが、良くならない。
頭がボーッとし、少しの吐き気も感じた。
この状態を一言で言い表すなら、気持ち悪い。
「あれ〜?どうしたの香奈ちゃん?」
「うっ……んう………」
「あ〜、もしかして酔っちゃった?おかしいなぁ〜。ごめんね〜?やっぱこの酒強かったかもwって〜、聞こえてる?」
香奈は酔い潰れてしまい、島田の相手をしていられなかった。
せっかくの親睦会だが、もう帰って休みたいと考えたいた。
「ん?山名さん気分悪い?大丈夫?!」
サークルの先輩が、心配して声を掛ける。
「うぅ……す、すみません………。気持ち悪くて………。その……帰って…いいですか……?」
「いやいや全然!ていうか大丈夫?送っていこうか?」
「大丈夫です……ひ、一人で……帰れます…から……」
「あ〜、それなら俺送って行きますよ!」
2人の間に島田が割って入ってきた。
先輩は少し驚いた顔をする。
「島田くんいいの?」
「はい!香奈ちゃん同級生ですから〜!送っていくんで、先輩達は引き続き楽しんじゃってくださいよ〜!俺も後から戻ってくるんで!多分!」
「相変わらず適当ね。まぁ、島田くんなら安心か〜。それじゃあ気をつけてね」
「はいは〜い。じゃあ香奈ちゃん、帰ろっか」
「う……うん……」
島田の肩を借り、香奈は立ち上がる。
本当は彼に送ってもらうことに不安を感じていたが、その時は上手く頭が働かなかった。
居酒屋を出てしばらく歩いた頃には、もう意識が飛んでしまっていた。
「んっ……うぅ……」
午前2時に、香奈は目を覚ました。
ベッドに仰向けになり、毛布を被っている状況。
いつの間にか家に帰ってきたらしい
そう思ったが違った。
部屋の内装が、自分の部屋と全く違うのだ。
ボヤける目をよく凝らすと、自宅より散らかっている。
「お〜?香奈ちゃん目ぇ覚めたねぇ〜」
「ッ…!!?」
香奈は反射的に起き上がった。
目線の先には島田が居たのだ。
何故か全裸でタバコを吹かし、ニヤニヤと笑っている。
「なっ…えっ……!?…なっ……なんで…島田くんが居るの!!?」
「なんでって決まってるじゃ〜ん。ここ俺ん家だし。香奈ちゃんの家わかんなかったんだよね〜」
「そ…その……どうして……裸……?」
「はぁ〜?俺の家なんだからどんな格好でもいいじゃん。てか裸なのは香奈ちゃんもでしょ〜?」
「えっ……?」
香奈は自身の身体を見た。
親睦会の時に着ていた服はどこかにいっており、下着すら着けていない。
肌には所々痣ができていた。
「きゃぁああああ!!!」
香奈は悲鳴を上げ、毛布で身体を隠した。
(なんで…!?なんで裸なの!?なんで!?ッ…!!?脱がされた!!?島田くんに!?)
自分が裸で眠らされており、島田まで脱いでいるこの状況。
最悪の事態を想像してしまう。
「どうしたの〜香奈ちゃん?顔色悪いよ〜?」
島田が灰皿にタバコを置くと、香奈に近づいてきた。
「いや……やめて……来ないで……」
「そんなこと言わないでよ〜。さっきまで熱々だった仲じゃ〜ん」
島田はベッドに置いてあったスマホを起動させる。
こちらに向けてきた画面に写っていたのは、裸で寝ている香奈を抱いている島田の自撮り写真だった。
「なに……これ……?なんなの……これ……」
「何って、記念写真じゃ〜んw俺と香奈ちゃんがセックスしたき・ね・ん☆」
「ッ……!!?」
「いや〜、香奈ちゃんの処女頂いちゃいました〜!ちなみに香奈ちゃんの写真いろいろ撮ったよ〜☆ほらほら見て見て〜」
島田とセックスした。
島田に初めてを奪われた。
その事実にショックを受け、頭の中が真っ白になった。
島田が見せてくる写真にも反応できない程に。
「あっ……あぁ……」
「ん〜?どーした香奈ちゃん?写真見てる〜?お〜い」
島田は香奈の目の前で手を振ってみせる。
香奈は目を見開き、口をパクパクさせているだけだった。
「う〜ん、まぁいいや。俺休憩終わったし、香奈ちゃんもう一発やっとく?」
香奈は何の抵抗もできず、押し倒された。
その後の香奈は、朝までされるがままだった。
どうやって帰ってきたのかよく覚えていない。
気づけば香奈は、自宅に戻ってきていた。
今日も大学で講義があるのだが、香奈はずっとベッドで塞ぎ込んでいた。
頭の中から、島田の顔と声が消えない。
犯されたことをなんとか忘れようとするが、忘れようとする程こびり付いて離れないのだ。
シャワーもしっかり浴びたが、身体中に残った島田の手の感触も消えない。
触られた箇所を掻きむしる。
その部分はすっかり赤くなっていた。
“♪♪♪♪♪”
「ヒッ!!」
突然着信音が鳴り、香奈は短く悲鳴を上げた。
震える手でスマホを取る。
通話ボタンを押すと、恐る恐る耳に当てた。
「……もっ…もしもし?」
『よぉ香奈ちゃん、元気〜?』
「ッ……!!?」
香奈は反射的にスマホを落としてしまう。
『なに驚いてんの〜?LINE交換してんだから電話くらいするでしょ〜?』
島田は構わず話を続けた。
『香奈ちゃん今日の夜暇でしょ?俺も暇なんだよな〜。だからさぁ、ヤラね?』
「……」
『ん?…お〜い香奈ちゃん?聞こえてる〜?』
ガチガチと口元が震える。
香奈はすぐに応えることができなかった。
とはいえ、もう島田と関わるのは避けたい。
再びスマホを手に取り、返事をした。
「い…嫌……」
『え〜なに?』
「もう、あなたと…そういうこと、したくないの……。だから、もう関わらないで……」
香奈は震える声で言った。
しかし島田は、簡単に許してくれなかった。
『はぁ〜?今まで優しめにしてあげてたけどさ〜、香奈ちゃん拒否権あると思ってんの〜?』
「えっ……?」
『こっちは香奈ちゃんの裸の写真いっぱい持ってんだけど〜?これ大学にばら撒いちゃおうかな〜?』
「やめて!!!」
部屋に香奈の悲痛の声が響き渡る。
「やめて……。お願いだから消して……。写真消してよ……」
『う〜んまぁ、香奈ちゃんがこれからも良い子にするんだったら〜、考えてあげてもいいよ〜?』
「ッ……!!!」
『誰かにあの写真見られるくらいなら、俺と良い事した方がいいでしょ〜?ってことで香奈ちゃん、今日いいよね?』
「……はい」
『あっ、そうそう。俺最近金欠なんだよね〜。だからさぁ、金貸してくんない?3万くらい。いいよね?』
「はい……」
『オッケ〜。じゃあ今日9時に新宿東口でな〜。香奈ちゃんが良いって言ったんだからね。後で文句とか無しね』
「はい…………」
『そうそう。露出多めの服で来いよ〜。大学で着てくような服じゃダセェし萎えるからな〜。そんじゃそういうことで、ヨロ♪』
島田は一方的に電話を切った。
香奈は力無くスマホを布団に置く。
彼女の中には、もう絶望しかなかった。
それから2ヶ月、香奈の地獄のような日々が続いた。
好き勝手に島田に呼び出され、性処理をさせられ、金を無心される。
無理矢理犯されることで毎回苦痛を感じ、帰ってきてから何度も吐いた。
金を取られるのも平気ではない。
今の時点ではもう20万円程獲られている。
バイト代で賄えなくなった時には、援助交際をやらされた。
そこまでして、せっかく稼いだ金は全て島田によって奪われる。
そのことに、やり場のない怒りを感じた。
しかし島田が写真を持っている限り、逆らうことができない。
島田から奴隷のような扱いをされ続け、精神的にも限界が来ていた。
そのせいか、最近講義にもあまり出られなくなっていた。
この日も毛布を羽織って、ベッドで震えていた。
最近あまり眠れていない。
以前より汚くなった部屋を、掃除する気も起きない。
食欲も湧かない。
体重も前より減った気がする。
「………」
ふと香奈の視線の先に、机の上のパソコンに向けられた。
最初に島田に犯された日から、全く触っていないことに気づく。
ここ最近、ミウ達とやりとりをしていない。
香奈はゆっくりとベッドから起き上がり、パソコンを起動させた。
マウスを動かし、辿り着いたのは“FREE UNITE”の公式ホームページ。
さらにそこから、いつものチャットルームへ入る。
香奈が居なくても、ミウとオイノリは変わらずやりとりをしていた。
過去のやりとりを遡っている中で、とあるやりとりが目に入った。
オイノリ『最近カナカナさん来ませんなぁ』
ミウ『リアルが忙しいんですかね?』
オイノリ『大学生ですもんね(汗)アルバイトとか試験とか、
いろいろあるのかも』
ミウ『それでも少しは顔は出してくれそうなものですけどね。
もしかして体調が悪くなったとか?正直心配ではありま
すね』
オイノリ『うちらにできることあります?』
ミウ『相談ならいつでも乗れますね。カナカナさん、辛いこと
あったら、お話聞きますよ!』
(ミウさん……オイノリさん…。私のこと、心配してくれてたんだ……)
香奈は自分が顔を出さないことに、てっきり怒っているものかと思っていた。
実際は逆で、しっかり心配してくれている。
歳下の女の子2人に心配され、香奈は寧ろ心が痛んだ。
何か言わなくては……。
とはいえ、何と言えばいいのだろう。
まずは謝罪から入って、今までの経緯を話した方がいいのだろうか。
しかし、高校生の2人に今の現状を話すのは、荷が重いのではないか。
やはり、いつも通りに接した方がいいのだろうか。
そのようなことを考えてしまい、いつまでたってもメッセージを打ち込むことができなかった。
そんな中、スマホの通知音が鳴った。
嫌な予感がし、確認する。
予想通り、島田からのLINEのメッセージだった。
『香奈ちゃん金貸して〜♪5万くらい♪』
幸い5万円は払える範囲。
それなら援助交際で稼ぐ必要も無いため、香奈は安堵した。
とはいえ、5万円稼ぐのにいったいどれ程苦労すると思っているのだろう。
香奈の心には、本当にもう余裕が無かった。
気づけば香奈は、無意識にメッセージを送信していた。
カナカナ『たすけて』
そのメッセージを送ったところで、香奈は我に返った。
慌ててメッセージを取り消す。
2人に見られていないか、不安になった。
現在時刻は13時。
2人は学校に行っている筈。
このメッセージも見られていない。
心配されたら謝ろう。
しかし、香奈の予定通りにはならなかった。
ミウ『カナカナさん大丈夫ですか?』
すぐにミウからメッセージが送られてきた。
まさか見られてた?
香奈はパニックになりながらも、返事をした。
カナカナ『お久しぶりです。心配かけてごめんなさい。大丈夫な
ので気にしないでください』
ミウ『でも今たすけてって送ってましたよね?』
見られていた。
いったい何と返せばいいのだろう。
パニックを引き起こし、体が固まってしまう。
しかしその間も、ミウからのメッセージは続いた。
ミウ『私は、カナカナさんの不幸は見過せません。カナカナさん
は私にとって、同士であり仲間です。だからこそ力になり
たいです』
同士であり仲間。
香奈の目は、自然とその言葉に引き寄せられた。
そしてミウは、さらにメッセージを送った。
ミウ『“FREE UNITE”は傷ついた仲間を見捨てません。私達はあ
なたを助けたいんです』
それからあっという間に3日が過ぎた。
チャットルームを一度離れた香奈とミウは、そこから先のやりとりをLINEで行うようにした。
いくつかメッセージを交わしあった末、ミウの提案により、2人は実際に会うことになった。
集合時間は13時。
待ち合わせ場所は池袋西口公園の噴水近く。
ミウとはいつか会おうとチャットで言い合っていたが、初対面がまさかこんな形になるとは思ってもみなかった。
楽しみな反面、顔もよく知らない相手と会うことに少し緊張していた。
池袋駅を降り、そのまま徒歩で公園へと向かう。
LINEでのやりとりで、ミウは濃いピンクの猫耳パーカーで来ることが解っている。
格好からして、かなり目立つことだろう。
待ち合わせの時間まで残り10分というところで、香奈は公園の噴水近くに辿り着いた。
噴水周囲をキョロキョロと見回してみる。
「………!……あの子?」
香奈の目が、一人の少女の姿を捉えた。
噴水近くのベンチでスマホを見ているその少女は、濃いピンク色のパーカーを着ており、猫耳が付いたフードを被っていた。
下は細い脚を強調するような、白いラインが入った黒のレギンスに、動きやすそうなスニーカー。
色白の肌をしており、顔も整っているため、人形のようにも見えた。
しかし、右眼に付けられた眼帯が異質な雰囲気を醸し出していた。
あの少女がミウなのだろうか。
香奈は念の為、LINEでメッセージを送った。
『西口公園に着きました!』
既読はすぐに付いた。
それとほぼ同時に、少女がスマホから一瞬顔を上げた。
少し辺りを見回した後、すぐにスマホに目線を戻した。
そして、数秒してからミウからの返事が来た。
『私も着いてます。ベンチでスマホいじってるピンクの猫耳パーカーが私です♪』
内容からして、あの少女で間違いないようだ。
心臓をバクバクと鳴らしながら、香奈は彼女に近づいていく。
そして彼女の目の前に来たところで、声をかけた。
「あの、ミウさんですか?」
少女は顔を上げた。
香奈のことを少し見つめた後、優しく微笑んでこう返した
「カナカナさん……ですね?」
2人は近くのカフェに移動した。
お互い向かい合わせに座り、コーヒーを注文する。
嬉しさと緊張で、香奈はずっとそわそわしていた。
「カナカナさん、緊張してます?」
ミウが静かに静かに話しかける。
「そ、そうですね。緊張してます…あはは……」
「まぁ、そうですよね〜」
「その、……ミウさんは緊張しないんですか?」
「あ〜……。私はこうやってネットで知り合った人と会うこと多いんで、もう慣れました」
「すっ……すごい……」
自分よりも歳下で小柄な少女に、香奈はつい感心してしまう。
そもそもネットで知り合った人物と実際に会いまくるのは危険ではないかと、少し心配になった。
ミウは咳払いをし、再び香奈と向き合った。
「それじゃ改めて…。ミウと申します。“FREE UNITE”の団員として活動してます。リアルでは可愛いもの好きな高校生として通ってます」
自信満々に自己紹介するミウ。
香奈もそれに続くことにした。
「えっと……カナカナです。大学生です……」
「カナカナさん、会えて嬉しいです。美人さんですね」
「い、いやいや…。ミウさんには負けますよ……」
「そんなことないですよ………。……でもカナカナさん、顔色悪いですね……。島田のせいですよね?」
「……はい」
ミウに指摘された通り、香奈の顔はやつれ、くまも酷かった。
一応メイクをしてきたが、隠しきれていなかったようだ。
島田については、ミウに予め話していた。
やられたことも、今まで渡した金額のことも全て。
「……恥ずかしいポーズをさせられたり……自慰行為させられたり……嫌なところ触られたり……お金を出せなかったら、援助交際をさせられたり……しました…。本当に嫌なのに……身体は、悦んでるみたいで……気持ち悪くて…、何回も、……吐いて……。だけど……写真が、あるから……うくっ……」
今まで溜めてきたものが、一気に込み上げてくるような感覚があった。
香奈の声には、次第に嗚咽が混ざってきていた。
ミウはただ頷きながら、静かに香奈の言葉を聞いていた。
それから、徐々に顔をしかめていった。
「最悪ですね。本当にありえない。カナカナさんのこと何だと思ってるのか……」
ミウの声には怒気が籠もっていた。
声だけで呪い殺してしまいそうな勢いに、香奈はつい怯んでしまう。
しかし、それ程までに自分のことを想ってくれていたのかと思うと、少し嬉しくなった。
「…ミウさん、ありがとうございます……」
「えっ……?」
「私のこと、心配してくれてたんですよね?なのに私、長い間何も答えられずに……。ごめんなさい……」
「いや、仕方ないですよ……。確かに相談してほしかったですけど……精神的にも限界だったんでしょ?……とにかく、カナカナさんは悪くないです」
そう言ってミウは香奈の手を優しく握る。
小さいが温もりのあるその手には、安心感があった。
ミウは力強い声で続ける。
「私達で、カナカナさんを救ってみせます。“FREE UNITE”にはいろんな人が居ますから、島田を何とかするのは簡単です」
「……私、試しに入団しただけで……詳しくは知らなかったんですけど……“FREE UNITE”って、凄いんですね」
「気難しい人も居るけど、みんないい人です。できることが違う者同士で集まって、問題を解決する時が楽しいんです。……っと、ここで質問なんですけど……」
ミウは香奈の目を見て訊いた。
「カナカナさんは、島田をどうしたいですか?」
「えっ?」
そんな質問がくることを、香奈は想定していなかった。
「どうって………」
「島田を二度と近づけないようにもできますし、社会的に殺すことだってできます。……死ぬ程の苦痛を味わわせることだってできます」
「社会的に殺す……死ぬ程の苦痛って………そんなことが……?」
「いろんな属性の人が集まってますからね。できないことはほぼ無いですよ。ただ、同じ団員とはいえ私達はほぼ部外者ですし、勝手に制裁を加えるのはどうかと思ってまして……。だから、どうしてほしいか聞いてるんです」
「……私は…」
何か答えようとしたところで、LINEの通知音が鳴った。
慌ててスマホを取り出す。
『香奈ちゃん金貸して〜笑』
『ついでに今日やろうぜ〜笑』
予想通り島田からのメッセージだった。
香奈の顔が真っ青になる。
スマホを持つ手も震えていた。
そんな香奈のスマホを、ミウが覗き込んでいた。
「……これは、良いタイミングですね」
「えっ……?」
「私達はもう、すぐ動けるようにしてるんです。今からだって動けます。その方が、カナカナさんが苦しむ時間が減るので」
ミウは改めて、香奈の目を見て言った。
「島田にされたこと、思い出してください。人生が狂ってもおかしくない程のことをされたんですよね?私達は、可能な限りカナカナさんの想いに応えます。だから、どれだけ大きい罰にしても良いんですよ。島田はそれくらいのことしたんですから。はっきり言って、赦していい相手じゃありません」
「ミウさん……」
「……教えてください。島田を、どうしたいですか?」
ミウの言葉に後押しされ、香奈は今までのことを思い返した。
趣味を馬鹿にされたり、グッズを雑に扱われるところから始まった。
それから無理矢理犯され、脅され、今日まで金と身体を捧げる日々が続いている。
何故自分がこんな目に遭わなければいけないのか。
自分がいったい何をしたのか。
どうして島田はヘラヘラしていられるのか。
自分がどんな気持ちか解っているのか。
順番にそんなことを考えていると、腸が煮えくり返った。
「……ぶっ壊してほしい」
香奈は震える声で、ミウにそう言った。
一旦香奈と解散したミウは、池袋西口公園の噴水前に戻っていた。
おもむろにスマホを取り出し、電話を掛ける。
相手はすぐに通話に出た。
『よぉミウ。何か用か?』
「島田への制裁について」
『島田?あぁ、お前の友達に手ぇ出したクズ野郎か』
「そう。カナカナさんが、ぶっ壊してほしいって。今夜9時。場所は新宿の柏木公園。行ける?」
『もちろんだ!そいつの悪事、全世界に配信してやるよ!』
「好きにやっちゃって。とことん壊しちゃおう」
『いいぜぇ!!その代わりカメラは頼んだぜぇ!!』
「はいはい……」
『そんじゃ、また後でなミウ』
「楽しみにしてるよ。遊次」
ミウはそう言って通話を切った。
丁度空いていたベンチに座り、今度は“FREE UNITE”の公式サイトを開く。
それから掲示板に書き込みを始めた。
午後9時。
島田は香奈との待ち合わせ場所である、柏木公園へと向かっていた。
彼からすれば、正直この待ち合わせ場所は不満だった。
最近利用しているラブホテルにすればいいものを、どうして公園なのか。
やっぱり地味な女なの考えることは解らない。
とはいえ、スタイルは良いし、金策として使えるため、ここまで利用してきていた。
写真を見せるだけで何でも言うことを聞くため、便利だ。
このまま手元に置いていていいだろう。
さて、今日はどうしてやろうか。
心の中でニヤニヤと笑いながら、公園内に入る。
夜中にしては、妙に人が居る気がした。
しばらく歩き回っていると、茂みの近くに香奈が立っているのを見つけた。
島田は香奈に近づいた。
「よぉ香奈ちゃん待った?こんな公園じゃなくてホテル行かね?てかなんでこの公園なの?」
「島田くん…」
一方的に話しかける島田から、香奈は少し後ずさる。
逃さないようにするためか、島田は香奈の肩に手を置いた。
香奈はその手を反射的に叩いた。
「痛っ!何すんの?」
「……島田くん、今日はちょっと、大事な話があるんだ」
「は?何?」
面倒くさがる島田に、香奈は話を切り出した。
「もう、この関係を終わらせたいの」
「はぁ?」
島田からして、いつも「はい」と言って逆らわない香奈からのこの告白は予想外だった。
香奈は話を続けた。
「最近、精神的にも限界で……。何かする気も起きないし……吐き気が酷いし……。もう、島田くんとか知らないおじさんに抱かれるのは嫌なの……」
「嫌って……はぁ?香奈ちゃん解ってんの?俺は香奈ちゃんの写真持ってんだよ?言うこと聞かないんだったらこの写真ばら撒くよ?」
「それも…、やめてほしい……」
「はぁ?やめるわけねぇじゃん。調子こいてんじゃねぇぞこの根暗」
島田は香奈の髪の毛を掴んでそう言った。
声には明らかな苛立ちが籠もっていた。
面倒くせぇ。
テメェは黙って金と身体差し出しときゃいいんだよ。
島田は心の内でそう怒鳴った。
「離して、痛い……」
「は?何被害者面してんだよ?俺が暴力振るってるみてぇじゃんやめろよ」
「……お願いだらかもうやめて。本当に嫌なの…」
「嫌だ嫌だってうるせぇんだよ!!」
苛立ちがピークに達した島田は、香奈に向かって拳を振り上げた。
しかしその手は振り下ろされることなく、後ろから掴まれた。
「あぁ!?誰だ!!?」
「なんだ?お前、俺を知らないのかぁ?」
島田を止めたのは、ツンツンヘアーの少年だった。
学ランは着ているがワイシャツは着ていないようで、空いたところから腹筋が見て取れる。
そんな奇抜な格好をした少年の後ろにはビデオカメラを持ったミウが居り、そのカメラに向かって彼は挨拶をした。
「さっきもやったが改めてやろう!どーも!今宵も始めます。バーンアンデットへようこそ!そしてコイツが先程説明したクズ野郎だ!!」
少年は島田を指差してそう言った。
突然のことに、島田は混乱する。
「はぁ!?おい、何訳解んねぇこと言ってんだテメェ!!」
「訳解んねぇ?自分がやったことについて訳解んねぇだと?だったらお前がしてきたこと説明してやろうか」
島田に怯むことなく、少年は説明を始めた。
「まずそこの彼女、カナカナちゃんにやったことだ。お前は普段からカナカナちゃんにちょっかいを出していた。そして親睦会の時にはお持ち帰りして処女を奪った。それだけに飽き足らず、お前は彼女を写真で脅して金と身体を要求したよなぁ?」
「ッ!!?」
「お前がむしり取った金額は、解ってる時点で24万5000円。貸せと言う割にはそれらを一切返すことなく、援助交際までさせて稼がせてたよなぁ?おかげでカナカナちゃんは精神を病み、大学生活に支障が出るくらいにまでなった!それに関してどう思う?聞かせてもらおうか?」
「はっ?……お前なんでそこまで……?」
目の前の少年が、ここまで自身かやってきたことを把握していることに怖気づく。
島田は反射的に香奈を睨んだ。
「テメェ、ばらしやがったな!!」
「きゃぁ…!!」
島田は香奈に襲いかかろうとした。
しかし、今度はどこからともなく現れた体格の良い男に、羽交い締めにされて止められた。
「はっ!?くそっ、離せよ!!今度は誰だ!!」
手を振り解こうとするが、びくともしない。
ここにきて、島田は初めて異変に気づいた。
公園中の人々が、自分を囲むようにして見ているのだ。
友人同士で何やらヒソヒソ話している者や、スマホを向けている者、ただ見つめている者……。
大半が若者で構成されていた。
「なっ……何なんだよ!見てんじゃねぇぞ!!」
「いやいや寧ろ見て知ってもらわなきゃなぁ!!お前みてぇな危険な犯罪者はなぁ!!」
少年が顔を覗かせてそう言った。
犯罪者というワードが出たところで、周囲の人々がざわついた。
「犯罪者だとテメェ!!」
「はぁ?強姦に脅迫してんだから犯罪者だろうが。あとお前今言った彼女の他に5人女がいるよなぁ?俺が知ってる範囲で五股かよ。クソ猿が」
「クソッ……!?テメェ!!」
「そんでもってカナカナちゃんのように道具みてぇに使って捨てたられた子が2人居た。そのうちの一人はトラウマで実家に引きこもってんだぞ?何も思ってなさそうだが敢えて聞く!その子に対してどう思ってんだお前?」
「ハッ!!知るかよ!!そんな奴らのことなんざもう忘れたわ!!つーかテメェらマジでいい加減にしろよ!!自分が何やってんのか解ってんのか!?」
「お前こそ自分が何やったか解ってんのか?お前はもう終わってんだよ。俺の配信に出てる時点でなぁ」
「はっ…?……おい、配信って……?」
島田の顔が青ざめた。
まさか、さっきから向けられてるカメラって……。
配信ってまさか……。
そんな島田の心境を読み取った少年はニヤリと笑い、一気に捲し立てた。
「そうだ!お前の痴態や愚行は絶賛リアルタイムで全世界に配信中だ!お前の彼女も少なくとも一人は見てるだろうなぁ!そうじゃなくともすぐにバレるだろうなぁ!」
「ふっ、ふざけんなよテメェ!!ンなこと勝手にやってんじゃねぇぞ!!訴えてやるからな!!」
「別にいいけどお前も終わるぞ?お前がやってきたこと法廷で胸張って言えることなのか?あ?」
「うっ……!!」
「お前はもう人生詰んでんだよ!最初に女に手ぇ出した時点でなぁ!今までみてぇに女遊びができると思うな!まともな職に就けると思うな!これからお前は今まで傷つけてきた子達のこと背負いながら苦しんで生きていくんだよ!!」
島田は何も言い返すことができなくなり、その場にへたり込んだ。
流石に事の重大さを理解したのだろう。
気が動転しているようで、拘束が無くとも大丈夫らしかった。
こんな瞬間まで、ミウはカメラを回していた。
今頃島田のこの姿も、ネットに流されている頃だろう。
「ちょっ…ちょっとどいて!」
完全に島田に注目していた香奈は、微かに怒鳴り声が聞こえたのに気づいた。
人混みを掻き分け、金髪で派手なファッションの若い女性が島田に向かってきていた。
香奈はその女性に見覚えがあった。
講義室で島田と仲良さそうにしていた女学生だった。
彼女は島田の顔を思いっきり蹴飛ばした。
その瞬間、周囲が静まる。
それにも構わず、彼女は島田の胸ぐらを掴んで起こした。
「信じらんない…。今の話何?どういうこと?ねぇ!」
「みっ…美璃……?なんで……お前が……?」
「はぁ?そんなんどうでもいいでしょ!!?バーンアンデットがここで配信するってなって友達と来てみたら……!!ねぇ何?五股って!美璃だけ愛してるって言ったじゃん!説明しなさいよ!ねぇ!!!」
「ちょっ、おいおいお姉さん一旦落ち着けって!」
美璃と呼ばれた女学生は、今にも島田を殴り殺しそうな勢いだった。
それを察してか、少年や周囲の人々が止めに入る。
再び頭を蹴られる島田。
友人と思われる女性に止められる美璃。
どさくさに紛れて島田に罵声を浴びせる眼鏡の若者。
ミウが持つカメラにピースするツインテールの少女。
こういった状況を動画にする者達。
修羅場を通り越し混沌と化したこの光景を、香奈は口をあんぐりとさせて見ていた。
30分後、公園から人が次々と離れ始めた。
配信が終わったのだ。
配信を始めた少年は、ファンと思われる者達と記念撮影をしている。
すっかり憔悴しきって座り込んだ島田は、未だに美璃達から罵声を浴びせられ、時折小突かれている。
そんな島田のことを、香奈は冷めた目で見つめていた。
本当に弱々しい。
あんな男に今まで脅されていたのかと思うと、一周回って自分が情けなくなった。
「カナカナさん、お疲れ様です」
「ッ……!ミウさん……」
ミウが隣にピョコッと現れ、顔を覗かせた。
その表情は、会った時と同じく優しい。
「写真、もう大丈夫だと思います。スマホ奪って消してきたんで」
「そうですか…。何から何まで……本当にありがとうございます」
「いいですよ。仲間として、当然のことをしただけです」
「よぉミウお疲れ〜!今回も上手くいったな!最後カオスだったけど!」
配信を始めた少年が、手を振りながら2人の前に歩いてきた。
ミウもまた、短く手を振る。
それにしても派手な格好だと、香奈は思う。
「カナカナさん、紹介します。彼は遊次。バーンアンデットっていう名前で動画投稿してます」
「ど、どうも……」
「バーンアンデットで検索だぜ!チャンネル登録もよろしくな!」
遊次は右手でグッドポーズを取った。
「……それにしても、すごいですね……本当に……。その……、もしかして、ここに来てた人みんな……」
「そう。ほとんど“FREE UNITE”です」
「やっぱりそうなんですね……。その、こういうこと、よくやるんですか?」
香奈は恐る恐る聞いてみた。
それに対し、ミウは変わらず優しい口調で言った。
「今日みたいに規模が大きいのは稀ですけどね……。けど、仲間のためだったら可能な限り、何だってやりますよ。それが“FREE UNITE”ですから」
「素敵ですね、そういうの……」
「はい……。けど、素敵ってわけでもないですよ……」
「えっ?」
ミウは口調が、少し寂しくなる。
「私達は絶対に正しいことができるってわけじゃないです……。これでも慎重に動くようにはしてるんですけど、たまに過度の正義感を持った人が暴走して、そのせいで世間に悪印象を与えることがあります。“FREE UNITE”ってだけで嫌な顔をする人だっています」
「ミウさん……」
「……だから。もし嫌になることがあったり、身の危険を感じるようなことが起きたら、すぐに脱退してください。カナカナさんは、お友達ですから……」
ミウは香奈の安全を第一に考えていた。
ただでさえ今まで傷ついてきたのに、これ以上傷ついてほしくなかった。
香奈は表情や話し方から、ミウの気持ちを汲み取った。
「ミウさん、ありがとうございます。……でも私、もうちょっと“FREE UNITE”に居ようと思います。ミウさんと私を繋げてくれたのも、“FREE UNITE”ですから。でも、ミウさんの言う通り、危なくなったら抜けたいと思います」
「そうですか……」
「私、これから強くなろうと思います。手始めに島田くんから慰謝料貰うところからですかね」
「おぅ!その粋だぜ!」
「カナカナさん、応援してます!」
2人にそう言われ、香奈は清々しい気分になった。
長い苦しみから、ようやく解放されたのだ。
「いや〜、今日も良いことしたなぁ〜」
香奈と別れ、ミウは遊次と一緒に帰路を辿っていた。
時刻はもう、23時を回っていた。
「今日の動画もバズりそうだなぁ。なぁミウ!」
「炎上しそうだけどね」
「あぁいうのは燃えた方がいいんだよ!その方が注目されるだろうからなぁ!」
「それもそうか」
ミウは溜息を吐いた。
肩が重く感じる。
どうやら少し疲れているようだ。
「どうした?疲れたか?」
「まぁね。ずっとカメラ持ってたし。そろそろカメラマン募集してみたら?」
「考えとくけどな。結局お前が一番信頼できんだよ」
「それは嬉しいね。みんなのためにこれからも頑張って。バーンアンデット」
「お前も頑張れよ。“FREE UNITE”団長さんよぉ」
ミウは無言で、それでも力強く頷いた。
団が今後どうなるか。
それは、ほぼミウの手に掛かっていると言っても過言ではないだろう。