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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

精神世界少女探求

作者: TOMY@

僕は毎晩悪夢を見る。

ショッピングモールで殺人鬼に追われる夢。

崖から突き飛ばされる夢。

こんな夢を見るようになったのにはわけがある。

僕が人を殺めてしまったからだ。

人は誰しも、殺したいほど人を憎むことがあるだろう。

けれど、実際に行動に移す者は殆どいない。

自身の破滅は確定しているし、殺人の果てに得られるものは何も無い。

だが僕はそれをしてしまった。

握りしめた出刃包丁にこびりついた血と僕の手汗が混ざり合い、ポタポタと手から滴っていた。

気分は日曜の朝みたいだ。

「日曜の夜」ほど、悲観はしていないし、「土曜の朝」ほど、楽観的な状態でもない。

でも、一つこれだけは言える。

あぁ…僕が生きているうちに殺せて良かった。

ここで僕の意識は途絶える。


僕はニヒリストだ。

この世界で起きることの全てに意味はない。

また、人間にも存在意義はない。

よって人間が、自分を自分たらしめるものを探しても、到底見つかるはずは無い。

そして、いつの日にか諦め、どこかで妥協し、自分の配偶者あるいは、子供にその価値を見出して死んでいく。

でも、そういった人間は幸福なように思える。

なぜなら、たった一つでも「絶対なる指針」を獲得できたからだ。

大体の場合は絶対なる指針だと思っても、それが裏切り、自己を疲弊させ、また新たなる依存先を見つける。

そして、いつの日か人間がそれに耐えられなくなるか、その無限ともとれる連鎖(当然有限だが、思い悩んでる本人にとっては無限なのである)に絶望したとき、人は自殺する。

でも僕は少し考え方が違う、それはこうだ。

もし、登下校中に交通事故にあっても「仕方がない」という考え方である。

「仕方がない」というのは僕の中で絶対なる指針である。

なぜなら、結果には絶対的に原因が付随するものであるからだ。

この法則性を理解しているために、仕方ないと割り切れる。

仮想だが殺人鬼に自分、親、知り合い、友達が殺された日には恨み、悲しみ、やるせなさが際限なく押し寄せてくるものと存じているが、心の奥底では仕方ないという感情があるのも事実なのだ。

そこの場面にたまたまいたから刺され殺されたとかの話ならこれは神が意図して殺しにきてるに違いない。

「神の絶対性」の前には抗うことができない。

怨恨で刺されたとかの話ならば、それは人間の精神の問題。

自分に全く非がないと考えていたとしても、自分という存在自体が怨恨で刺されるという結果を呼び寄せてしまった。

「人間の非合理性」の前には抗うことができないのだ。


「キーンコーンカーンコーン」

学園の終わりを知らせるチャイムの音が鳴る。

「ガヤガヤガヤ」

クラスの能無し連中共のバカ騒ぎが聞こえる。

僕はここでクラスの人間を思考した。

例えば、あそこにいる青〇君。

彼はメスと交尾することしか考えていない。

下らんサッカーやらバスケやらスポーツの話でメスと仲良くなり、自分の家に連れ込み、相手が断れば強姦に及ぶ。

なんて屑野郎なんだって思うけど僕には関係ない。

強姦された女とは全くもって接点が無いし、女から「助けて」なんて言われることも絶対にありえない。

こういうものは無視に限る。

まだ長い学園生活を無駄な正義感で、自己(=学園生活にいる空虚な自分)を滅ぼす訳にはいかないのだ。

こういうことを思考しているとすぐに時間が経つ。

さて帰るとするか。

重い足取りで家へ帰るとする。

校門を抜け、いつも通りの帰路に就く。

歩くことは嫌いだ。疲れるから。

疲れることを趣味としてる人間は尊敬を通り越して、生粋のマゾだと思う。

でも、こんな僕にも一つぐらいは趣味というか、楽しみがある。

それは駄菓子屋で買い食いをすることだ。

校門から出てほぼ一本道を通っていくと自宅に着く。

その丁度半分の距離にあるのが駄菓子屋だ。

気が向いた時に、途中の駄菓子屋で買い食いをする時があり、その時は一本40円の酢漬けイカを買っていく。

これを食って、竹串をしゃぶって道中に捨てていく。

こんなのが楽しい。

でも、今回は訳が違った。

「偶然性」ではなく、「必然性」で駄菓子屋に行った。

何故なら、可憐な少女がこっちを見て、ニコニコと微笑みかけてくるからだ。

第一印象は、全体的にほっそりとしており、台風が起きれば、風で吹き飛ばされそうな気がした。

次に、顔がとても好みなことに気づいた。

自分の容姿に自信があるのか目は眼球が飛び出そうなほど見開き、物事の真実を本当の意味で見据えているかのように見えた。

口は小ぶりで実に理知的な言葉を話そうだなと思った。

いつもならば、面倒ごとに巻き込まれたくないが為に、無視して帰るが、今回は違った。


この少女と話をしなくてはいけない。

この少女と仲良くしなければいけない。

この少女とキスしなければいけない。


この少女に興味を持ってしまった訳である。

久しぶりに能動的に一歩一歩、歩みを進めた。

懐古的心情であった。

その懐古的心情に浸りながら、ものの20秒でその少女の前に屹立する。

「お兄さんは自分自身を誰だと思ってる?」

「僕は誰でもあって誰でもないよ、それで君はどうして駄菓子屋にいるの?」

「駄菓子屋にいると色々な人間に出会えるからだよ。主なターゲット層であろう子供は勿論、昔を懐かしんでくるおじさんも。」

「人間観察ってこと?」

「観察っていう高尚なことをしているつもりじゃないよ。だって人間になんて興味ないもん。」

「…?人間に興味ないのに、人間に出合う為に駄菓子屋にいるの?」

「お兄さんに合う為に私駄菓子屋で待っていたんだよ?」

「なんで俺なんだ?俺よりまともな人間が厖大にいるのに」

「だって私お兄さんの妄想から生まれた存在だもん。ほかの生物からは見ることもできない。」

「私を救ってみてよ。そしたらお兄さんが目標としてる私とのキスも叶うかもね。」

「飛び降り自殺だって、自殺するつもりで飛び降りる訳だけど、防衛本能的に頭を守って死ぬらしいよ。」

「お兄さんは思っている以上に自分を追い込みすぎてる。それを誰も救ってくれない。お兄さんの防衛本能として私が生み出されたってわけ。」

「断ってもいいけど、このままいくとふとしたことで首吊って自殺しちゃうよ。それでもいいなら止めはしない。私はお兄さん妄想の中でしか存在できないから、私の存在は消すことができる。必要ないなら消えちゃうけどどうする?」

「わかった。君を救うことにする。それ以外に道はなさそうだから。」


こうして俺は少女を救う旅が始まった。

「ここがお兄さんの精神世界だよ」

一見するといつもの平凡な日常。

ただ、外面に対して中身が伴っていない。

例えば、そこに本棚がある。

僕が愛読しているマルキ・ド・サドの「美徳の不幸」

この本を手に取ろうと手を翳した瞬間「スカッ」というオノマトペが聞こえ、読むことは愚か、触れることさえできない。

後は、人間が一人も存在していないということ。

どうやら、僕の精神が人間の存在を否定してしまったようだ。

じゃあ僕という人間はどうなるのだろうか?

恐らく、この精神世界にいるときは意識だけの存在になっている。

今立っている自分の部屋さえ、自分の意志次第で再生と破壊を容易に行えてしまう。

この無秩序性に酔いしれそうになる。

自分の精神世界と言うだけはあって、好き勝手なことができる。

だが、本物として五感が捉えるのは自分の意識と少女の存在。

この精神世界で少女と二人っきりで生きていけたらなんて楽しいんだろうと思った。

「うーん...私もお兄さんとこの世界で暮らしたいけど、この精神世界で共依存になったら現実のお兄さんは自〇しちゃうよ?」

「この精神世界は夢みたいなもの。現実世界に私が出現できているのは軽度の自殺寸前に追い込まれてるときか、寝ているとき。」

「重度になって自〇に心が完全に乗っ取られてしまったら、私の存在ごと無かったことになる。そして、飛び降り自〇で落下している最中に私という存在が出現する。それが、最後の挨拶になるかもね。」

「この精神世界で共依存になって、現実世界で自〇するとき。少ない可能性だけど、現実世界は完全に消滅して、精神世界のみ存在し続けるってことも考えられる。」

このまま精神世界で少女と共依存になって現実世界で自〇し、精神世界が存続する可能性に賭けるか。

自殺欲を軽度に保ち、現実世界を少女と共に変えていくか。だが、その場合防衛本能として存在している少女は消えてしまう。

どちらが良いのだろうか。

正解なんてものはない。

自分の意志で決めなくてはいけない。


「決めるのは君自身だよ」


その刹那、世界が分岐する音がした。


「私と共依存になって現実世界を放棄するってことだね」

「この選択によって君の人生は大きく変化する」

「これが正解かは後になってみないとわからない」

「この選択に悔いは無い。自〇後も一緒に暮らそう」

「フフッ....ありがとう」

「パチッ」

まるでテレビの電源を落としたかのように意識が切り替わる。


ここからの記憶は儚げで、精神力で堪えないと意識ごと消えてしまいそうだ。

恐らく、現実世界での自〇が成功し、自己の意識だけの世界に囚われてしまったようだ。

死後の世界とかいうやつだろう。

死後の世界と精神世界の違いは意識の「不明瞭さと不確定さ」だ。

気を抜いたら意識が何処かに飛んで行ってしまいそうだ。

辺り一面を見回すと少女はどこにも見当たらない。

色々と考えられる要因があるが、恐らく、僕の精神が軟弱であったことが理由だと思う。

自〇によるショックで精神にもショックが与えられ、少女という形はその過程で消え去った。

そして、自分の意識さえもそろそろ消滅しそうだ。

なぜそれがわかるかというと、思考がとっちらかってきて、整合性を保てなくなってきているからだ。

「楽しい 苦しい 面白い つまらない 自己欺瞞 自己肯定感 疎外感」

これらの感覚が一挙になって襲い掛かってくる。

だが、これで幸せなのかもしれない。

なぜなら、もしこのまま自分の意識が保ち続けられたなら死ぬまで少女を追い求めてた。

それは救いでもあるし呪いでもある。

自然消滅という結果で死を迎えられるならそれは幸福だ。

勝手にこの世(今となっては精神の中だが)に生まれさせられたのなら、死ぬことぐらいは自己決定に基づくべきだ。

このことが予定調和というのなら、意識の消滅も同じだろう。

所詮人間は神による意思に従うしかない。

自分で判断しているかに思えて判断してはいない。

思考に没頭しすぎて、気づいていなかったが体はピクリとも動かすことができなくなっていた。

動かない体に消滅しそうな意識が乗っかっているだけの人間ではない何か。

ニヒリストに生きてきたがいよいよ最後となってくると救いを求めたくなった。

最後に少女のキスぐらいあればなぁ

「ご....ん こ..択は間....いだ...った」

あぁそうか...少女はそこにいたんだね

最後に話せて良かった。


その時ふっと魂が抜けこの世界にピリオドを打った。


「もう! 悲観的に考えすぎ!」

「んっ!?」


そこはいつもの精神世界。思い通りになんでも行える場所。僕の唯一の居場所。自己を肯定できる場所。存在してもいい場所。


「だ!か!ら! 悲観的に考えるのもそこまでにしないとメッ!だよ」

「せっかく私との共依存生活をしようという矢先に、なんで意識が自然消滅するなんていう思い込みするかな..」

「あのままなら確実に自然消滅してたよ?」

「あぁ...やっと生きるべき世界を見つけた」

「今からでもやり直せるよ!よし行こ!」

すこし恥ずかしかったが手を繋いで一歩を踏み出した。

美徳の不幸も笑ってることだろう。

「これからの幸福な人生に乾杯!」


この世界に意味などない。

人間がこの世に存在する意味も理由もない。

人間が生きる意味なんてものを見つけるのはこの世の摂理としても根源的に不可能だ。

一般的な人間は、ただその日その日をのらりくらりとかわしながら生きている。

大真面目に考えたら自〇に近づく。

それを考えられるだけの知能はこれまでの人生で培っている。

それはやってはいけないことだと生物的本能で回避する。

そうしないと人間という種がいつか途絶えてしまう。

自〇を肯定することはないが、「死」は唯一平等に与えられた義務である。

その義務を全うするだけの人生にやっぱり意味なんてない。

でも、何か一つでも自分の支えとなるもの。

生きていてよかったと思えるものが見つかれば

その日からは幸福な日々。

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