Sランク冒険者8話 脱出に向けて
カミト視点
「なぁ。これで本当に大丈夫なのか?」
「うむ。我が見て問題無いのだから良いのじゃ」
夜の暗闇が街全体を覆っている。
昼間は賑わっている通りを歩くカミトとクロロ。しかし、夜になるとこの場は静寂が支配している。
「スカートの下がすうすうして違和感しかないぞこれ……」
「誰も主人のパンツを見て得するものはおらんのじゃよ。気にするでない」
「そんなこと言われてもなぁ」
時刻は深夜を回り、誰もすれ違う人がいない。
話し合いにより、カミトが女物の服装を着て連れ去られようという作戦になった。
ちなみに、クロロはいつ盗賊が襲ってきても良いように主人の影の中に潜っている
「女装させる魔法が使えない以上、服を直接着るしかあるまい」
「いや、俺自身が女になったイメージとか気持ち悪くて考えられないだろッ!」
「……それも一理あるかもしれぬ。まぁ、今の主人もこれはこれで可愛いからよしとするのじゃ」
はぁ、と深く溜め息を吐くと同時に周囲を見渡す。
夜の暗さで顔は誤魔化し、胸には適当な丸い形の物体を入れといた。
「気配は未だ確認出来ないな。それとも、この会話を盗み聞きしてたりしてな?」
「我の領域内には生物反応を探知しておらん。影あるところシャドーウルフあり、とじゃ」
呑気に話をしていると、先が見えない裏路地に差し掛かった。
脇や背中に冷や汗が滴れる。何か嫌な予感。
「元々攫われるのが作戦の根本だ。今更怖気付いたって仕方ないな」
一つの足音がカツカツ、と街に響いていく。
ここからは神経を集中しよう
「少し気味の悪い所じゃのぅ」
「あぁ。俺の身を狙うならばまさに今がチャンスだ。奴らはSランクのアクアですら――」
発していた言葉を止める。風が一瞬吹いた。
周囲には誰も居ない。それはおかしい。
今夜は無風であり、吹くとしならば何者かが走り去った後の追い風……つまり
「んっ!?」
「叫んだり少しでも逃げようとする素振りを見せたら、この場で殺す」
突然背後から手が現れ、カミトの口を覆おう。
次に首元から血が垂れる。
ナイフを当てられたのだ
「よし、利口だな。これから訪れるのは嬢ちゃんにとって地獄。存分に味わうんだなッ」
後頭部を思いっきり殴られ、気絶した振りをする。
ここまでで約二十秒も掛かっていない。
かなりの腕前だと判断する
「んじゃ、アジトまで連れて行くか……ん? 女、だよな……体付きが少しおかしい気が」
身体を持ち上げられると、すぐに盗賊が不審な点を口する。
俺の努力はこれで水の泡じゃないか……。
「胸はあるよな……っまて、股間に何かあるな……。コイツ、まさか変――」
盗賊が気付いたその瞬間には、意識を刈り取った。
「変態で済まなかったな……もう作戦立てた意味が無かったなこれ」
「うむ……しかし、盗賊の一味は捕まえたのじゃ。これから吐かせれば良いだけのぅ」
影の手が盗賊を拘束し、建設予定地の森へと運んで行った。
■□■□
アクア視点
「拷問室……」
室内をよく観察すると剣や鞭、針だらけの椅子などが置いてあった。
それだけでは無い、それらや床には所々赤黒い液体や白の液状がベタっと張り付いている。
「ま、暫くは待機命令出されてるし暇なんだなぁ。ちっとは、俺達を楽しませてくれよ?」
「なっ、や、辞めてくださいっ」
連れてこられた三人全員が無理矢理奥へと進まされる。
視線を張り巡らせ、アクアは脳をフル活動させた。
「ん。まずは僕からやる。意外と楽しめるかも」
「お、いいねぇ。前の奴らは騒ぐばかりでやりごたえが無かったんだ」
一瞬視線をシルフィーと合わせ、痛々しい椅子へ自ら向かう。
この場にいる敵は七人。
あと三秒、二秒、一秒ッ!
「ぐはっ!?」
「っ! 何をボスにっ……」
座ろうかと見せかけて、アクアの回転蹴りでボス男を撃退。
同時に合図していたシルフィーが残りの六人を、一切の音を立てずに倒した。
「ん。部屋にある剣で手の鎖は切れる」
「はい! そこのえっーと、何さんか分からないですけど大丈夫ですか?」
「は、はぃ……」
二人と共に来た女性は弱々しく身体が震えている。
鉄の刃で拘束を外し、腕が自由に動かすことが出来るようになった
「ん。今が好期、脱出する」
「そうですね、武器も手に入りましたし反撃開始です!」
男達を鞭で縛り上げ、アクアは慎重に扉を開ける。
外に人影は無し。
後ろに控えている二人に手招きする。
「付いてきて」
檻に居た時、男達は右から歩いて来た。
普通に考えて住拠と出入口は一緒にある可能性が高い。
部屋から飛び出すと、右側に向かって三人は走り始める
「ん。視界に入る分には敵の存在無し」
「了解ですっ!」
どこまで続いているか分からない一本道をひたすら前進していく。
十分は経っただろその時、正面に二つの人影が現れる。
刹那、アクアは短剣を目の前に投擲。
「っぐは……」
「な、なんだお前達は!?」
「ん。一人やり逃した」
両方とも殺すつもりだったが、片方には避けられた。
残った敵はお返しといわんばかりに刃を投げてくる。
「危ないですっ!」
叫ぶシルフィー。
ナイフの向かう先は顔が腫れている女性。
咄嗟に庇おうと走るが、距離的に間に合わない。
「……な、に」
一瞬、場が時を止めたかのように静まる。
なんと女性は指一本で刃先を受けとめ、次にそれを弾くと目の前の敵が血を流す。
「ん。実力、隠してた?」
「い、いぃぇ……」
「と、とにかく今は先を急ぎましょう!」
シルフィーの一言により目的を思い出したアクア。
すぐさまこの場を後にして、三人は奥へと進んでいった。
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