Sランク冒険者6話 二人の失踪
この日はギルド依頼受けに来たのだが、何故だか普段の賑わいが今日に限って無い。
依頼書を何枚か掲示板から引き剥がし、カウンターへと向かう。
「あ、久しぶりですカミトさん!」
「こんにちはアリシャさん、今日はいつになく暗い顔してますよ。どうしたんですか?」
基本アリシャさんは元気に仕事をしている。
しかし、今日の彼女は葬式に行ったかのように顔が暗い。
「え、えぇ。最近出没するようになった『黒駒』という盗賊団に友人が連れ去られまして……」
「黒駒?」
聞くと、ここ一週間で何人もの若い女性達や金品を盗んでは跡もなく消え去っていく盗賊らしい。
また手口や個々の戦闘力がAランク冒険者に相当し、中々捕まらなく国も頭を悩ませるほど。
「ギルド側も盗賊団のアジトを見つけた者には、それそうの報酬額を用意しているのですが……」
それで今日は喧騒に包まれていないのか。
だが、現時点では何も役に立てそうに無い。
一応情報を得てギルドを後にした。
■□■□
十数個の依頼を受理したカミト。
なぜそんな大量に受けたかというと、これから向かう先が建設予定地だからだ。
四人の話し合いにより、森林のモンスター達の駆逐を含めた下見をしようということになった。
そのため、折角ならお金も稼ごうということになり、複数の依頼を受け持ったのである、
「それで実際に来た訳だが……普通の森だな」
木々は見上げる高さまで育ち、と小鳥や動物達の鳴き声が時々木霊してくる。
若干雲行きが怪しいが、まぁそれは対した問題では無いだろう
「それはそうですよ、普通じゃないなら困ります!」
「ん。でも、モンスターは沢山いる」
全員が一斉に歩みを止める、
入って五分も立たないうちに、早速駆除対象と出会った。
数は六匹。茶色の巨体で、2メートルはある。爪の先は尖っており引っ掻かれたら重症は確実
「こやつはトロールベアとか言う奴じゃな。ま、所詮は獣よ」
クロロが出す影の触手達がモンスターの腹を突き抜け、瞬殺する。
「お、ちゃんと考えてるな。討伐部位は持って帰らないと依頼達成にならないからな」
「ん。良くやった。この森林は広い、四人で手分けして進むのがいい」
アクアの提案を参考にして、全員バラバラに散らばってモンスター退治を行った。
「あ、私の方が倒した数カミトよりも上です!」
「シルフィー、別に競っている訳じゃないんだから……」
呆れながらも心の中では、素直に感心していたカミト。
レベル的に俺の方が高いのに、短時間でこれだけの数を……。
視線を落とすと、百匹はいるであろう死体が地面に転がっていた
「して、これでとりあえず下見とモンスターの排除は終わりかのぅ?」
「あー、いや。少しだけ敷地の確認と、建設の土台部分だけ作っときたいから……」
「ん。なら、僕とシルフィーは先に帰る。クロロも来る?」
「我はここに残るかのぅ。主人を一人にして戻る訳にもいかぬ」
ということで、シルフィー達には先に帰ってもらった。
俺は二人の帰っていく背中を見終わると後ろに振り向き、目の前の木々を視界に捉える
「幸いにも木材は天然に生えているのをそのまま使えるから楽だな」
「うむ。主人の『建築』スキルは材料を思った形に変化出来るからじゃな」
「あぁ。あとは、具体的に広さを決めるってぐらいだ。完成像は頭の中にイメージがある』
歩きながらカミトは土魔法で通った地面を、一段くり抜くように線を引いていく。
円のようにぐるっと一周し、元の位置へと戻った
「ま、これぐらいかな」
「主人よ、これは一個分の城に値する広さじゃぞ? エルフの里はそんなに大きくは……」
「何を言っているんだクロロ? 俺は元々城を建設するつもりだぞ」
カミトの発言に開いた口が閉じない狼。
なんだその反応。異世界ならばロマンを追求するだろ、普通は。
「ぬぬぬ……城は元より王族が住む場所だとされておる。怒った貴族達が潰しに来るぞぃ?」
「それは周りをエルフの里にある不可視のアーティファクとを使うから安心しろ」
「しても……」
一応の説明はしたが、クロロはイマイチ納得していない様子。
だろうな、と思い相棒に向かって俺はもう一つの建てられる理由を説明する
「……そんなに心配してくれてるんだな。クロロは優しい。ま、でも憂いは無用だぞ?」
「ぬ? どういうことじゃ主人よ」
「俺はSランク冒険者になる。その意味、分かるよな?」
一つの国に値する戦力、それがSランクの基準。
怒らせたら国が滅びる相手に対して、逆らってくる輩はそうそういない。
会話をしている内に雨雲が近付いて来たため、急ピッチで木材による土台だけ作り上げた
「うむ……これは凄いのじゃ。本当に主人のスキルは有用だのぅ」
土台を作る速さにクロロが驚きの表情を見せる。
作業は単純で、生えてる木を加工した木材に変えて土魔法の線に沿って敷き詰めただけ。
木で城を建築すると耐久性が気になるな。
その点に関してはまたどうにかしよう
「よし、今日のところは終わりだクロロ。一旦引き上げよう」
「了解じゃ。完成が待ち遠しいのぅ」
■□■□
宿屋へ帰ってきたカミトとクロロ。
階段を上り、二階にある自室の扉を開ける
「ただいま……?」
「……いないのぅ。買い物に行ったのじゃな」
「そうらしいな」
中には誰も居なかったが、別にこの時は何も変だとは思わなかった。
しかし、日が沈み夕食になっても二人は帰ってこない。
「取り決めた時間にシルフィーとアクアが戻って来ないのはおかしくないか?」
「……そうじゃな。我も少し引っ掛かるわぃ」
そこでカミトは今朝アリシャさんと話した内容を思い出す。
『最近、黒駒という盗賊団が若い女性や金品を盗んでいって……』
「まさか……シルフィーはまだしもアクアまで連れ去られる、か?」
「……いや、ありえるのじゃよ。例えば、主人の所有スキル『気配切断』とかのぅ?」
クロロの一言により背筋が凍った。
ただ、その場合ならば盗賊団はおかしな点がいくつか存在している。
「いずれにせよ、一応明日の朝までは様子を見よう。俺達の勘違いって線もある」
「じゃな。それが一番丸く収まる形なのじゃが……」
その日はどうか巻き込まれてありませんように、と願って布団へ入った。
が、しかし現実は皮肉である。
今朝になっても二人が戻ってくることは無かった
ここからがこの章の本番です
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