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Sランク冒険者2話 祝祭1 女子の恐ろしさ

街の広場に民衆が群がっていた。

 この国全体が喧騒に包まれている。

カミト達四人もその中に紛れていた


「皆の者ッ、妾の名は国王リンネ! まずは、この祝祭を開催出来たことに感謝を伝えるのじゃっ」


『おぉっっ!!』


空中にプロジェクターのように映し出される若き少女の姿。

 気品と威圧感が画面越しに伝わったのか、騒がしかった周囲は一瞬で閑散になった


「モンスター達の襲来があり、皆はこの数ヶ月弱苦労が絶えなかったと思う。そこで、今日はその疲れを癒す為の日じゃ」


中には涙を流している者も居た。

 被害はカミトのお陰で最小に収まったが、それでも死者は出ている。


「さて、前置きは早く終わらせんとな……。それでは、国王リンネより祭りの開催を宣言しようっ!」


そう告げた瞬間。

 数発の爆発音と共に空が虹色に輝く。

花火もこの世界に存在していたんだな……


「これでとりあえずは終わりみたいだな。よし、早速回って行こうか」


「はいっ! 祭りなんて参加したことすらありませんでしたから、楽しみですっ」


「ん。僕もゆっくりと見て回るのは初めて」


女子陣二人は胸を躍らせている。

 彼女らの服装は浴衣。

シルフィーは紅葉色、アクアは水玉模様の着物だ


「それにしても、二人とも美人だから浴衣が抜群に似合うよな〜」


「……ぇ? ぇ、えぇ。う、うぅ、か、カミトぉ……」


「どうしたシルフィー? 具合悪くなったかな」


「い、いいいぇ……い、行きましょう!」


「ちょ、ちょっ引っ張らないでくれよ……」


頬の紅潮を誤魔化すかのようにカミトの手を引く。一方のアクアは、顔は逸らしてはいるが耳は素直で真っ赤に染まっている。


「仕方ない……みんな行こうか!」


「ん。レッツゴー」


「ほら、クロロも……あれ? 居ないな。まっいっか」


年寄りは人混みが疲れるって言うしな。

 カミトの影が何か言いたそうに揺れる。


クロロは主人に仕える存在。

 今日は実質デート、陰ながら応援するらしい。

この恩は高級肉で払って貰うのからのぅ。


「ん? なんか低い男性の声が……って、気のせいか」


「行きましょう!ッ」


「早く。お腹空いた」


二人の美女に両手を引かれる形で、連れられるカミト。

 今日ぐらいは好きにさせてあげようかな




■□■□


 


「見て下さいカミト! 射的で大当たり貰いましたッ」


「ん。僕のかき氷、一緒に食べる?」


「待て待て……」


普段は大人しめな二人だが、今日ばかりは楽しそうにはしゃいでる。

 

「分かった分かった。どちらの方にも構うから、待ってくれ」


カミトは既に体力を消耗していそうだが、その顔には笑みを浮かべている。

 たまにはこういうのも良いかもな


そんなことを考えていると、二人が何やら食べ物を買ってきたらしい。

 俺も一つ軽めの物を購入し、設けられているテーブルへと座り込む。


「アクアさん、食べ比べしません? 折角の機会ですし、美味しい物は共有した方がいいですっ」


「ん。それは名案。甘いデザートは魔王の力よりも上」


彼女らの目の前には、女性受けしそうなスイーツが何種類も置かれていた。

 これら糖分の塊を胃の中に入り込むのだ、男性のそれとは別格だと思い知らされる。


「はい、カミトの分です」


「……え?」


「ほら、一人仲間外れは良くないですからね」


「いや、あの……」


『食べる!ッ』


「は、ははぃ……」


二人同時のプレッシャーについ返事をしてしまったカミト。

 なんで俺まで食べることに……。


あーん、と口元にまで近付けられたスプーン。

 渋々口を開き、喉へと通す。


「うっ……甘っ……」


「ん。黙って味わう」


「は、はい……」


この光景はまるで妻の尻に敷かれる夫の図にまさしく似ている。

 クロロは、悪戯な顔をしながら「耐えるんじゃ主人」と心の中で思う。


「ん。アーン」


「うぐ」


「こっちのも食べて下さい! はいっ」


「うう……」


次から次へと口の中に食べ物を詰め込んでいくカミト。

 ハムスターみたいに頬袋が膨らむ。


ま、まづでぐれぇ(待ってくれ)……」


『口を動かす!』


「はぃ……」


地獄とはこのことなのでは無いか、そう錯覚する程にまで食べさせられたカミトであった。


 ちなみに、周囲にいた人々も最初は微笑ましい光景だったと思えた。

 が、終始その場に居た者全員が顔色を青白くさせて一つの騒ぎになってしまったらしい。




昼食を終え、再び街の散策をしていると一つの屋台が目にとどまる


「?どうしたんですか」


「ああ、少し二人とも来てくれ」


目的地まで歩くこと数歩。

 目の前まで近づくと、人の良さそうな女性が話し掛けてきた。

 この店の主人だ


「あらあら、可愛いお嬢さんを二人も連れてるなんて、貴方は中々の男前ね」


「か、可愛い……」


「お褒めの言葉は受け取っておこう。で、これらは一体どんな品なんだ?」


カミトの視線の先には透明な石ころ達。

店主はそれを一つ手に取り説明をしてくれる


「これは『親魔石』と言ってね。所有者の魔力に応じて、様々な色に変わるんだよ」


「ほう?」


言い終わると同時、店員の手の平に乗っかって石が、見る見る黄色に染まっていく。


「ん。素敵」


「この石は記念品とか、プレゼント用に使われる物なんだよ。どうだい、買っていかないかい?」


「ま、ここで会ったのも何かの縁だ。四個ほど欲しい」


お金を支払い、クロロの分だけ袋に入れて貰う。

 各々は適当な親魔石を手に取り、何色になるかと話し合っていた


「お、シルフィーのは緑色か。いいじゃないか、優しい感じが伝わってくる」


「そ、そうですか……えへへ。あっ、アクアさんのも変わってきましたね」


「ん。青色。嬉しい」


二人は変色したが、俺の石は色が変わる様子は無い。

 不用品か? なら別のにして貰おうか……ん?


カミトが店主に話しかけようとしたその時。

 手元の石が輝きだし、新たな色へと染まっていく。


「紫か、なんかイマイチピンとしない色だな……」


「紫だって!? ほ、本当だ……親魔石売って数年、初めてみた色だよ」


屋台から飛び出してきた女性が、近付いてきてジロジロと紫に輝く石を見つめてくる。


「良かったですね、カミト! 私もなんだか嬉しい気分になりました」


「ん。幸運の印」


「まぁ、そういうことにしておくかな。珍しいには変わりないし」


大切にポケットへと入れ、満足気に屋台を後にしたのだった。

 ちなみに後日、クロロがこの親魔石に触れると黒く禍々しい石へと染まり果てたのは、ここだけの話である

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