ダンジョン26話 最上階層ボス4 回想と気持ち
「チェックメイトだ」
「オマエガナゼイキテルゥゥ!ッ」
カミトが空中で剣を一振りする。
王座に座っていたボスの右手が切断され床に落とされる
「マダオワッテイイイイイッッッッ!」
「気を付けてくださいカミト! 相手は血を武器に変えられます!」
「あぁ。だから俺が利用するだけさ」
切断された右腕の端から紅色の液体が噴き出して、鼻に鉄の匂いが纏わりつくと同時。
床には血がべっとりと付きまわる。
「キサマァァァア」
「俺のスキル。なんだと思う?」
カミトが言い放った瞬間。
周囲にある血液が全て刃物に変わったと思ったら、ボスの全身に突き刺さっていく
「『複製スキル』かのぅ。最初から全て主人の掌の上じゃとは。ようやるわい」
「どうやらクロロには、この戦闘での事がバレバレみたいだな」
やれやれ、と参った顔をしながらカミトは肩をすくめる。
じいさんのくせに頭の回転だけは早いんだよな……。でも、どっちにせよ俺自身も結構危なかったし、運が味方したというべきかな
「どういう意味ですか? というか、なんでカミトが生きてーー」
「ワタシガ……。マケ、ルトハ」
苦しそうにサキュバスが呟いた後、王座に座ったまま息を引き取った
「……ダンジョン攻略、か」
「そうじゃな。少し心苦しいがのぅ。
ところで主人よ、シルフィー殿が先程から頬を赤くして泣きそうにうるうるしておるぞ。ほれ、男ならする事あるじゃろ?」
「グスンッ。カミト……」
シルフィーには俺が死んだと思って心配していたもんな。クロロに背中を後押しされるのは、何か負けた感はあるが、今は目の前の事だな
カミトは自身の頭を軽く、掻きじゃくってから彼女のそばにいき、胸板を貸す
「うぐぅぅ!っ。もう、心配したんですよ!ッ
カミトの馬鹿……」
「ごめんな。でも、俺はシルフィーの目の前から姿を消すなんて事はしないから、安心してくれ」
「これ、からもです。よ?」
「あぁ。ずっとだ」
うわぁぁん、と俺の胸で泣きじゃくるエルフの少女を見て、自分も目頭に涙が溜まってしまう。
そんな二人を側から、温かな視線を送っていたクロロは……。
「微笑ましいのぅ、若いというのは。我は年老いたジジイじゃからな。ホッホッホ」
静かに呟くのであった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は、ボス部屋に入った所まで遡る
「んッ?! おいおい、冗談にもならないな。
これは少し作戦を変えるべき、か」
心の中で一人考えるカミト。
それは部屋に足を踏み出した瞬間の事。
『未来予知』により約三分後には、ボスに殺される未来が見た。
「どうにかしないとな……」
そうして、カミトは一人別行動をすると決め込む。直接倒そうとしても、確実に死ぬ未来があるのならば、何かしらのチャンスを突くしかないと思ったからだ
「でも、どうするかだな……。なら、あれを使ってみるか」
そうして思いついた策は、まず『未来予知』でボスが倒されるかどうかを調べた。
その結果、シルフィー達が倒す事に成功はしたが、ボスの相打ちによりシルフィーも死亡。
一か八か、そのチャンスに賭けるのが一番無難だと思ったカミトは次に、クロロのスキル『分身』を利用する事に決める
「あのスキルならば、俺の姿を死んだと認識させて、未来通りの結果にさせる事が出来るだろうな」
こうしてスキルで一人の分身を作ったカミトは、前のアゼル、ガゼル戦で手に入れた『気配切断』スキルを使用して、偽のカミトと入れ替わる事に成功。
「後はボスのスキルが見えないからな……。
未来予知を応用しても『ステータス鑑定』できないって事は、やはり何かしらスキルを無効にするスキルがあるんだろうな」
そんな仮説を立てたカミトは、まず他に危険なスキルをボスが所有しているか確認する。
案の定『血を武器にする』スキルを持っていたため、どうにかその対策もしなければならないと考える
「なるほど、ボスは恐らく数メートルに渡って円形状のバリアがあるっぽいな。魔法がその見えない壁に当たったから、クロロとかの魔法が謎に消えたわけだ」
戦闘をしながら解析を行い、そして作戦を立てる事に成功した。後はそれを実際に実行するだけ
「よし!っ。ここしかないッ!」
しっかりとタイミングを未来予知で見てから、飛び出してシルフィーを殺そうとした手を斬る。
そうして、その飛び出した勢いでボスの不可視の障壁内に入って、『ステータス鑑定』を発動。
後は、相手のステータスを確認して『血液武器生成』スキルっていうのを複製。
それを最後の最後、追い詰められたボスが使う前に発動し、カミトが制御権を獲得して勝ったというわけだ。
特定の範囲にスキル無効壁を作るというスキルでも良かったが、その範囲というのが決められるのかよく分からなかったため、もう一つのスキルを複製する事にした
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここからは、先程の戦闘後のシーンに戻る。
「ぁ、うぅ。私、カミトに自らとはいえ抱きついて……。何してるんだぁぁ。私……」
「し、幸せだったよ。って、そうじゃないよな、ハハ……」
何かを誤魔化すように、涼し顔で言葉を濁したカミトだが、心の中では物凄い事になっていた
「シルフィー……。女の子の匂いってこんなに良い匂いなんだな。やばいなぁ、このままの体勢だと、俺の理性が、理性が……」
などど、カミトはカミトで大変だったのである
「うむうむ。そこのお二人さんのぅ。イチャつくのはそこまでにして、帰るための装置やら魔法やらを探さぬか? どうやら王座の床には、下に続く階段があるっぽいのじゃ」
「あ、ぁぁあすまんクロロ」
「ははい!ッ」
改めて指摘され、先程の抱き合っていた事が二人の脳内再生されたと思ったら、急にお風呂上がりみたいな顔色になる。
若い男女が異性と触れ合う。それに心が躍らない方がおかしいものだ
「悪いことしたかのぅ……?」
「い、い、いいんだ、クロロ。行こう」
「大丈夫です!ッ。 帰り道を探さなければです!」
まさか、カミトもシルフィー、二人がもう少し抱き合っていたかったなんて、口が裂けても両方とも言えるはずが無かった
気になったかたはブックマーク登録お願いします!




