ダンジョン25話 最上階層ボス3 終焉
「ぁ、ああ。カミ……ト。私の、カミトを奪わないでェェッ!」
「シルフィー殿、危険じゃッ! やめんか!」
カミトが倒され、自暴自棄になったシルフィーが本気の殺意を、王座に座り直たボスに向けて放つ。
「キメタ。ツギハオマエダ、ソコノニンゲン。
トナリニイルイヌ。サイゴニカワイガッテアゲルワ」
「言わせておけーー」
「……許さ、ないッ。カミト、……。
返せ、私達のカミトをッ!」
大きな涙粒を床に垂らしながらなおも殺意の視線を送るのを辞めないシルフィー。
これに僅かな恐怖からか身震いをしてしまう王座に居座る女。
隣で微動だにしないクロロだが、内心では……。
「こんなシルフィーの姿、いや秘めたる強さ、怖さを見た事ないのぅ」と胸の内呟いている
「メザワリダ、キエロ」
「シルフィー殿ッ!」
シルフィーの足元周辺を囲うように尖った岩が次々と現れ、身動き出来なくなったところにカミトを串刺しにした槍が、血を撒き散らしながら高速で向かって来る
「私は、仇を討つッ! そのためには、貴女なんかに。負けないですッ!」
決心した顔で言い放ったシルフィーは、頭を一瞬傾ける。こんな時に何をしているんだ、とクロロは思ったが……。
「ぬ!し、シルフィーど、の?」
「ナニ?」
もうダメだと思って助けに行こうとしたクロロだが、何故か立ち止まり、現実かと驚愕な目を映した。
何を狼は驚いているかと言うと、シルフィーの手には「シューッ」と焦げるような匂いとともに、放たれたはずの槍を持っている。
そう、シルフィーは猛速球で放たれた鉄の長細い棒を頭のすぐ真横で避けると同時に、素手でそれを掴んだのだ。
これがもしカミトならば、スキルでステータスを強化すれば同じような芸当が出来るかもしれない。が、レベルもステータスもそうカミトに及ばないシルフィーが、このような現実離れした技をやってのけるのは異常なのだ
「これはお返しです」
「ソンナコウゲキデツウジルトデモ……。
グギャダァッッッッ!」
シルフィーが逆に王座へと投げつけた槍が、魔法で作られた三重の岩壁ごとボスを貫いた。
しかし、寸前のところで身体を捻って急所の心臓を守って右腹へとずらした事により、生きながらえた
「我には、もうなんだが分からないのじゃ。
主人は倒れるし、シルフィー殿は強くなるわ……」
そこまで言い掛かった所でクロロの言葉が止まる。
ううむ、?おかしい、おかしいのじゃ。
な、なんで、見つからないのかのぅ、?
何か不自然な点を見つけたクロロが不思議そうに周りを見渡す……が、やはり反応変わらず。
「まさか……そうなはずはなからぬはずじゃが……?」
一人呟くクロロだが次の瞬間。
苦しそうな叫び声が部屋中響き渡ってきて、その方向を向く
「ググッッ。ワタシヲキズツケタムクイ、ウケテモラウゾッ!」
「貴女を討つのは私です!ッ」
鋭く視線を交わす二人。どちらもが殺気を放ち、ありえないほどに緊迫したこの空間で、どちらが先に動くのか
「穿て炎焔!ッ」
シルフィーが炎に染まった弓矢を引くと、燃え上がった炎の矢が生き物のように「ウギャァァッ」と鳴きながら目標へと向かう。
「ムダナコトヲ」
それに対してボスは、何にも防御体制を整えずに相打ち覚悟なのか、シルフィーに向かって岩石を数発飛ばして来る
「我を忘れてはいないかのぅ!」
「クロロ!ッ」
足元は未だに岩が残っていて動けないぬのならば、我の出番じゃ。
動けない状況で何発も避けるのは、無理だと判断したクロロがシルフィーの影から現れ、再びシルフィーごと一緒に消えた
「ドコニニゲテモ、オナジダ」
「それはそうかのぅ?」
「私達を甘く見ないで下さい!ッ」
何処からかそんな声が聞こえるが、ボスはその場所が分からずキョロキョロとしていた。
「お主の負けじゃ、大人しく眠れ」
「仇は討ちます!」
「ナニ?」
いつの間にかボスの目の前の空中に躍り出ていた二人がそれぞれ攻撃を仕掛けようとしている。
一体どこの影から出てきたのか、それはシルフィーが放った魔法矢の影である。
つまり、この矢はただの移動手段に過ぎない、攻撃と見せかけたフェイクであったのだ
「シカシ、ソコカラデハワタシヲ、キヅツケハセヌゾ」
「スキルじゃな?じゃが、種が分かればいくらでも対処できる。主のもう一つのスキルは」
「自分を中心とした範囲数メートルの魔法またはそれに準じるスキルを無効とするものです!ッ」
「ナゼワカッタノダァァッ!」
そう、最初に二人が魔法をボスに向かってぶつけた時、不自然にまるで魔法が消えたように防がれた。
そして、先程のシルフィーの攻撃への対応で間違いないと確信する。一回目の槍を飛ばした時は、ボスが岩壁を作ったが、今回の炎の矢は防ごうともしない。これは、魔法でダメージを与えられなスキルをボスが持っていたからこその行動である。
「私達の想い。届け!ッ」
叫んだ瞬間シルフィーが、まるで太陽よりも輝かしい、黄金色の矢をボスの目の前で放ち、心臓を貫く。
ゼロ距離での攻撃は、ボスのスキル範囲内にあるため魔法無効が働かない
「グギャァアァァアッッ!ッ。
ヨクモ、ヨクモヤッタナコノコムスメガァッ!」
「マズイ、シルフィー殿避けるのじゃッ!」
「えっ?」
確かにシルフィーの一撃は急所を射抜いたが、最後の力を振り絞ってボスが道連れにと、カミトの命を奪ったその右手をシルフィーに突き刺そうと伸ばして来る
「シルフィー殿ォォ!ッ」
「ハハハハハハッッッッッッッッ!
コムスメダケデモ、シネェェェッッ!」
「や、だぁッ。カミト!ッ」
目に涙を溜めながら、今は亡き大好きな人の名前を叫ぶシルフィー。
あぁ、私はもう死ぬんだ。でも、カミトの居る場所へと行けるのならば、いいかもですね。
心で諦めの呟きを吐きながら、次の瞬間来るであろう痛みを覚悟するため、目を瞑るシルフィー。
「ごめん、なさい」
血に染まる全身。しかし、なぜか自然と来るはずの痛みはない。なにかと目を開けるとそこには……
「何がごめんなさいだよ、シルフィー。
可愛い顔が涙で台無しだな」
見慣れた顔の人物が剣を振っていた
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