ダンジョン21話 明かされる経緯
「なっ。あ、主人? どうしたのじゃ……?」
クロロの言葉に何一つ反応せず、カミトはただシルフィーをじっと見つめている。
誰もが息を張り詰めらせる。その場を支配する圧倒的な存在感の前には指一つ、いや呼吸すらも忘れるほどのプレッシャーを肌身から受け、立ちすくんでいる。
「な、なにをしているんです!」
一つの呼び声が時間を動かし始めた
「シルフィー、さっさとその男をもう一度『殺しなさい』!」
「………」
「おっ、おい。なんか様子がおかしく無い、か?
奴隷は命令に絶対なんだろ!」
「何してるのよ。早くしなさいラマートちゃん!
相手が何が仕掛けてくるかもしれないわよ」
「シルフィー!さっさと『その男を殺せ』ッ!」
「……嫌、です。貴方の命令には、もう絶対に従いません!!」
「な、なぜだっ!なぜ命令が効かない!」
透き通った、冷徹な目で奴隷商人ラマートを睨みつけるシルフィー。
男達三人組は人質が言うことを聞かなくなり、計画が崩れてパニックを起こしている
「き、貴様!な、何をしたんだ!シルフィーはこの俺の商品なんーー」
「………」
奴隷商人が瞬きをした次の瞬間には、カミトの姿が映らなくなる
「ぐっ」
「うぐっ」
背後から二人の声ならない悲鳴と共に、「ゴリ」と硬い何かが切れる音がして、ゆっくりと振り返った。
「うわぁっ!?」
そこには既に助からないであろう二人の姿が横になっていた。
身体中深く何重にも切り刻まれ、あの硬いのが切れた音というのは恐らく二人の骨が切れた音だと理解出来る
「化け、物……」
一瞬にして第六感が危険だと警告を鳴らしているのに従って、逃げようと足を踏み込む。が、一瞬にして意識が何者かに刈り取られた
「………、バタンッ」
「あッ……バンッ」
「ふ、二人とも大丈夫じゃい?! 主ら! 主らッ!」
ラマートが意識を失うと同時にカミトとシルフィーも魂切れたかのように地面に倒れた。
「……ふむ。意識をただ失っているだけかのぅ。
安心したわい。しかし、なんじゃ。あの生物は……。主人と入れ替わったまるで別人のような……」
恐る恐るとカミトの顔を確認してみるが、先程のように左目に輝きは無い。また謎のプレッシャーもさほど感じない。
「これから面白くなりそうじゃわい」
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「んんっ……」
「ぬ?やっと目を覚ましたかのぅ。先程はビックリしたぞ主人がーー」
「カミトッッッ!」
「シ、シルフィー?!どうして動けるんだ、?
というか、俺も確か殴られ続けて……」
「どういうことじゃ?主人が事を解決してくれたのじゃないか?」
「何を言ってるんだ、クロロ?俺は殴られて意識を失って、そして今取り戻したんだろ?」
カミトはいかにも不思議そうな顔をしてクロロに質問してくる。先程左目を光らせながらアゼルとガゼルを倒し、自らも意識を失ったことまでの記憶が無いようなので、クロロが一度起こったことを説明する
「……そんなことが? 俺はそんな事した覚えすらないからな……」
「主人よ、今さっき意識を戻したばかりじゃから思い出せないのかもしれぬ。少しこの話は時間を置いて考え直してみるのはどうじゃ?」
「私も、あの時何が実際起こったのかさっぱり分かりませんでした。だから、カミトが分からないのも納得しますよ」
「分かった。まぁとりあえず今は危機を乗り越えられたことに感謝するべきだな」
「うむ。して、あとはこやつをどうすべにかのぅ?」
「うっうわぁ!」
黒い触手に体を拘束されているラマートに向けて殺意を放つ。
隣にいるシルフィーすらも顔面が蒼白するほど殺意が周囲に漏れる
「クロロ、これじゃあラマートが口を聞けないから一旦止めて欲しい」
「すまぬ主人よ。愚かにもこの男はシルフィー殿に悪事を働いたゆえ……」
「わ、私が勝手に捕まったのが悪いんです。
あの時、カミトに周りを見張ってもらえていれば……」
「ダメだぞシルフィー、自分を責めるな。今無事で生きて仲間として帰ってきてくれた。それだけで十分だよ」
申し訳なさそうに首を下に向けているシルフィーの頭をポンポンと叩き、そして再びラマートに視線をぶつける。
何かを見定めるように口を開かず、一拍置いてから言葉を発する
「さて、洗いざらい喋って貰うぞ?」
「ヒッ。は、はいっ!」
「うん。俺も痛めつける趣味は無いから安心して話して欲しいな?」
心臓に無数のナイフが刺されたような顔をするラマート。少しの間を開けてから震える唇を重く動かし言葉を繋ぎ始めた
「で、ではーー」
奴隷商人ラマートによると事は少し前に遡り、シルフィーをカミトに奪われたところでアゼルとガゼルの二人が現れ、「一緒に奴を殺さないか」と、提案してきたのが始まりらしい。
三人は手を組んだが、肝心のカミトを狙う前に一稼ぎしときたかったらしく、ここ最近冒険者が帰ってこないと言われていたダンジョンに目を付けた
当然、カミト達同様転移罠に嵌ってここに来て見ると、かなりの数の冒険者が最初の場所で集まっていたらしい。ダンジョン攻略する仲間を増やすために止まっていたのだ。
三人は彼等達をターゲットに決め、剣やローブなど高級そうな道具を身に付けている者から狙いを定める。少しずつ人気の少ないところに連れ出しては殺し、ガゼルの火属性魔法で跡形も無く証拠を消していったらしい。
三人が普通の冒険者なら犠牲になった彼等にも抵抗出来たかもしれないが、なにせアゼルとガゼルはこの世界に二桁しかいないAランカー。
そんな立ち塞がる力の前にはなす術も無く、次々と倒れていった
そんな時、カミト達一行がダンジョンに来たため狙いを定めるが、その攻略してくスピードが余りに早すきだ。そのため、それを逆に利用し最上階で自分達が攻略出来るところでは、隠れながら追随して最後の最後に殺そうと決めたらしい。
ではなぜ、カミト達同様に最上階層へと一気に来ていたのか。それはアゼル達が所有してたスキル『気配切断』を使っていたからだ。このスキルを利用し、二重がけをする。そうすると、あたかも透明人間さながらの達人ですら近くにいることが分からない程になるらしい。
その威力はあのワープを促す無機質な音声アナウンスをも欺く事が出来た。
そうすることで、カミト達と一緒に魔法陣に乗ってここまでついてきたらしい。
なるほどな、って俺もそのスキル習得してるじゃん。確か『スキル剥奪』の効果だっけか。
事実確認も重ねて今試しにシルフィーでも驚かせてみるか
「 『気配切断』っと」
「あれ?カ、カミト?どこへ行って……ってわぁ!お、驚かさないでください」
「すまないすまない。でも、これでこのラマートの言っている事が嘘では無さそうだとも分かったし許してくれ」
シルフィーが怒っている表情を表しているのか、頬を膨らませてプィと顔を後ろに向ける。
やはりシルフィーは可愛いな、と心の底から感じる。改めて、戻って来てくれて嬉しいと思えた。
怒られているはずなのになぜか背徳感を感じたカミトである
しかし、そんなカミトの思考を読み取ったかのように目を細めて疑惑の視線を向けてくるシルフィー。
「カミト?何か今よからぬことを考えていませんでしたか?」
「い、いえ……。考えていません」
おー、怖い怖い。女子が男子へのそういう目つきとかを感じとる能力と言ったら、一種のスキルと同じくらい凄いのかもしれない
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