エピローグ二話 転移と重大なミス
「つい気持ちが出ちゃいましたね。俺は今すぐにでもリトラスに入らせて頂いて大丈夫です! というか、入らせて下さい!」
カミトが突然頭を下げる。
女神アトラはその行動に、驚きの表情が現れた
「いきなりどうしたんですか?! 私の方がお願いしている身なので、どうか顔を上げて下さい」
「す、すみません。胸のワクワクが止まらなくなってしまってて……」
ごほん、とわざとらしい咳払いを一回して話を戻す
「両者合意の上ということで、俺はこれからそのリトラスに入れば良いんですよね?」
「は、はい。なんというか、もう少し悩むかと思われたのですが……。即決だったので、私も心の整理が間に合ってないのが本音です……」
女神アトラはどう反応すれば良いか困っている感じだった。
一方の俺はというと、もうハイテンションになっていて、耳に話の内容が入ってこない
「そういえば、世界に入るってことは大体転移か転生のですよね。どちらの方法なんですか?」
「はい、今回は転移の方法を取らせて頂きます。なお、カミトさんが世界に入った後のことは私は例外を除き一切関与はしません」
「つまり、自由に生きて良いってことですね!?」
「はい。もちろんです」
しかし、と女神アトラは歯切り悪く「でも大量虐殺はやめて下さいね」と呟いていた。
なるほど、じゃあ本当にその世界にただ行けばいいんだな。
しかも転移なら記憶も引き継げるし、有利状態でのスタート出来る
「そうですか! ではその世界っていうのはやっぱり、魔法とかってあります……か?」
目を光らせながら、女神アトラが口を開くのを待つ。
これこそが、一番気になっていることだ。
魔法がなければ地球とさほど変わらなく、期待外れなのだが……
「その通りです。基本的には人々は、ダンジョン探検や冒険者ギルドの依頼をこなし、日々の生活を過ごしています」
ほう、ラノベの世界まんまじゃないか。
今にも転移したくなってきた
「ほんとですか!? なら早く行きましょうよ
自分の心は準備満タンですつ」
「こんなに喜んで貰えたのは初めてですよ。私的にも、すんなり話がまとまって嬉しい限りです!」
「それは良かったですっ。では、今すぐにでも!」
アイラブ転移! アイラブ転移!
そんな心の中の声が聞こえたのか、女神アトラは一歩下がる
「お、おぉ……。なんとも凄い圧力にビックリしてしまいました。っと、では改め今すぐにでもと言いたいのですが……」
そこまで言ったと思うと、バツが悪そうな顔をしながら口をもう一度開き直す
「カミトさんには神の都合により、振り回してしまっているので……。何かさせて下さい。ご要望とかはありますか?」
異世界に行くこと自体でもう十分だが、せっかくだしここは要望を聞いてもらおうかな。
高揚した気持ちを抑え、口早に考えを伝える
「ではでは、魔法を使いたいので魔法が使えるようにしてくれませんか!」
人生で一度は魔法を使ってみたかった。
噂で三十歳まで童貞なら魔法使いになれるとか言われているが、俺はそもそもそこまで生きられてないからな……。
「うーん……。たったそれだけでいいのですか?
もっとこう、お金持ちになりたいとか、女の子にモテモテになりたいとか……」
彼女は頭を捻りながら呟く。
確かにハーレムはしてみたいが、魔法を使えればそれで満足って部分の方が強い。
ロマン主義なのだ、俺は
「神様に何個も欲を出すのは、あまりよろしくないですからね。これで十分ですよ」
「そ、そうですか……。カミトさんのおかげで話がすんなりまとまりましたし、もっとしてあげたいのですが……」
んー、と顎を当てながらしばらく考えた後、
「そうだ!」と言い放ってカミトの方に振り向く
「では、私からのせめてもの餞別と言うことで、
死なない程度の魔法の力。そして、もう一つのサプライズも授けましょう!」
「いいんですか!?」
「えぇ。片方は転移してからのお楽しみ、ということでよろしいでしょか?」
「はいっ。十分過ぎますよ、女神アトラ様! ありがとうござます」
俺は一生分の感謝を心を込めて言う。
てか今ふと思ったのだが、神様からこう直接お礼をされって普通、逆な気がしてならないな
「ふふ。ではそろそろ転移させましょう!
あなたのニ度目の人生に幸運を。
私は天界から見守ってますからね!!」
いくつもの模様が合わさった、俗に言われる魔法陣が足元に現れる
俺は湧き上がる喜びに身をまかせながら意識がゆっくりと白く塗り潰されていくのを感じた
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○女神視点
「ふふっ。どうか、よい人生を!」
世界を導いて下さいね
『新たな???よ』
「んー!やっとこれでしばらくは休めーー」
私はこの時、疲れが一気に押し寄せたせいで意識が朦朧として気付いていなかった。
虚空に現れている目に見えないほどの小さなヒビ。
そう、何者かがこの空間での会話を覗き見ていた事に。
そして、ある重大な、世界を左右される事にも細工を仕込まれてしまったことを。
全ては後になって後悔することになる
ここまで長くて申し訳ございません。
次回からは異世界です