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07 ギルドへ行くには遅くない


 S級小隊の主な仕事は迷宮攻略のみですが、それ以下の冒険者は何でもやります。文字通り。

 冒険者組合(ギルド)から斡旋される依頼は多岐にわたり、ペット探しや祭りの屋台の設営といった雑用から、畑を荒らす魔物の退治やキャラバン隊の護衛なんかの腕っぷしが必要なものと、街の全ての面倒事は依頼となって組合にやってきました。

 難易度の高い依頼の達成実績や迷宮の踏破状況を鑑みて査定が行われ、冒険者は等級を上げるのです。


 私たちはS級から降格した。

 原則、一段階ずつ降格するので、私とアメリアは現在A級の冒険者ということになります。

 A級の冒険者の割合は全体の二割程度。組合の主力として活動する人員です。ちなみに、B級が三割、C級が五割、S級は片手で数える程度の小隊数となっています。


 もう一度S級になるのであれば、困難な依頼を解決し続ける他にありませんでした。


 二人で小隊、と名乗るのはいささか心細いですが、まあ、私とアメリアだけの空間が誕生するのです。




 道中はお互いに無言でした。

 私はもう気にしていませんが、アメリアは先程の一件がいまだに尾を引いているのでしょう。カルガモの子のように私の背後にぴったりとくっついたまま、静かに歩いています。


 目的地である冒険者組合までの距離はそう遠くはありません。

 “白銀の牙”の元拠点は王都の隅にありますが、円形にのびる王都のそこよりさらに外周へ向かって進むと見えてきます。

 段々と道は狭く入り組んでいき、煉瓦造りに囲まれた馬車もすれ違えない程度の通りに入り、そのような片隅にあります。


 閑散とした一帯ですが、組合があるその一区画だけは喧騒が漂っていました。


 立ち並ぶ煉瓦の建造物の中でもひときわ大きく、窓からは爛々と明かりが漏れ、笑い声とたまに怒声が響き、陽気が滲んでいました。


 組合だけ賑わい、辺りが閑散としているのは、やはり組合は暴力に身を置く人間の集まりであるのでいざこざが絶えないからでしょう。そのような場所に足を踏み入れるのも慣れましたが、精神が不安定な今のアメリアがここをどう思うか、それだけが心配でした。

 とはいえ依頼を受けるのであれば、組合に入らないという手はありませんが。


「……大丈夫ですか、アメリア?」

「う、うん。平気」

「そう、よかった」


 私が守りますからね、と心で唱え、組合の扉を押しました。


 むわ、と酒気が立ち込め顔をしかめます。私がこの香りに慣れることはとうとうありませんでした。

 情報交換の場として併設された酒場には、昼間から数人の男がカウンターにつき飲み交わして、かんらかんらと笑いながら馬鹿話に花を咲かせていました。


 正直、わたしはこの場が嫌いです。きっとアメリアだって嫌いです。


 冒険者の質はピンキリです。アメリアのように崇高な志を持って冒険者になる人も、他に就ける仕事が無かったから仕方なく冒険者になった荒くれ者もいます。

 そして、大半が後者でした。


 組合には十数人がいます。

 見た雰囲気で、殆どがB級、ちらほらとA級が混じる程度。実入りの良い依頼がやって来るのでも待っているのでしょう。


 装いは十人十色で、全身を磨かれた鎧で囲う騎士然とした男、逆に己の肉体こそが鎧であると言わんばかりに筋肉を露出させるならず者めいた男、魔術師、盗賊、剣士。この統一感の無さこそが冒険者でした。


 依頼掲示板をまじまじと見つめていたり、次の迷宮攻略のための集会をしていたり、ただただ酒を飲んでいたり、その動向もさまざまです。


 その間を縫うように歩く。

 女性二人の集まりが物珍しいのか、私たちに視線が集まりました。


「――おい、あれ……」

「――“白銀の牙”の――」

「――何でここに?」


 と、まあ、居心地は最悪でした。

 喧騒はすっと静まり、恐らく私たちに言及する小声が耳に否応なく入り込み、ひどく不愉快でした。


「……シエル」

 と、不安げにアメリアが手を伸ばしたので、それを握り返します。

 どのような場であっても、彼女の味方が私だけであるのは変わりありません。


 依頼を斡旋するカウンターには暇を持て余した受付嬢が座り、つまらなそうに顔をあげます。

 が、私たちを見るやいなや目を見開き姿勢を正しました。


「えっ、は、“白銀の牙”の……S級の――」


 降格の報せはまだ届いていなかったようで、受付嬢は慌てふためいて書類を机からこぼしました。

 こちら側に落ちた一枚を拾いながら答えます。


「ああ……今はもう訳あってA級なのですが……それより、何か良い依頼はありませんか? こう、S級でもないと解決できないような」

「え、えっと――」


 受付嬢がぱらぱらと拾い集めた書類に目を通し始め、そのときでした。


「おい」と乱暴な声が背後からかかり、繋いだままのアメリアの手から緊張が見てとれました。

 その事実に苛立ちを覚えつつ振り返ると、さっき見た半裸のならず者が立っています。私の背丈の五割増しほどの大男です。それから、その身体で隠れていたようで、あと二人の冒険者が大男の背後から現れ出ました。

 ちょうど、半円状に私たちを取り囲む陣形です。


 酒酔いの赤ら顔は微妙に焦点が合っていませんが、はっきりと嘲りが浮かんでいました。


「……何ですか。いまは私たちの順番ですが」

「“白銀の牙”が失敗続き、っていうのは本当だったんだなあ、おい」


 ……冒険者は信頼が命です。名声も悪評も、光の速度で広まります。S級の肩書を失えば、その悪評の裏付けにもなる。

 鼻を鳴らしながら食い気味に大男が返し、アメリアの手に力が籠ります。


「……それが、どうかしましたか」

「いやあ? S級ってのも、大したことねェなって思っただけだ」


 その言葉に、左右に展開した取り巻きの冒険者が喉を鳴らすように笑います。やはりそいつらも酒に酔っていて、気が大きくなっているようでした。


 目的も大方、ただ格上をからかって悦に浸りたいだけなのでしょう。

 組合に緊張が奔ります。受付嬢は新人であるのか荒事に慣れていないみたいで、体を縮こまらせるだけ。

 周囲の冒険者も野次馬に徹するようでした。


「”閃光の勇者”なんて大層な名前までつけてよォ、はは、笑えるな」

 と、取り巻きの二人は今度は笑いを隠すことなく声をあげました。


「し、シエル……もう、行こう……?」


 アメリアは若干に震えています。


 本来であれば、このような格下の相手をすべきではありません。

 適当に流して、確執を生まないように立ち回るべきでした。


 しかし、時と場合によります。


 この高圧にアメリアが怯えていて、私の機嫌は非常に悪くなっている。

 それが問題でした。


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