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06 やり直すのは遅くない



 と、まあ、ひとりで盛り上がってしまったわけですが、ええ。


 とにかく、私がアメリアを支えたいと思うのは本心です。

 付随してよこしまな気持ちがあることも確かですけど。


 屋敷の外。石垣に背をもたれかけて、積もりに積もった複雑な心境を深いため息で排出します。

 これから、どうするかを考える必要がありました。


 残されたのは“僧侶”と“勇者”の加護持ちだけ……とだけ言うとかなり絶望的な状況に思えますが、小隊に最低限必要な人員は残っています。


 加護――というのは、神から与えられる才能の長短を体系化した呼び名です。本人が持つ素質よりも、加護が将来を左右することが殆どです。


 私であれば回復や支援に特化した“僧侶”。アメリアは凡その方面に素養がある“勇者”。


 極論、“勇者”であれば単独での迷宮踏破だって可能です。

 過去にも、S級迷宮をただ一人で攻略し続けた“勇者”の逸話だってあります。


 そして――きっとアメリアにだって可能だ。

 彼女は最強、のはず。それに未だ発展途上。

 潜在能力は十分にあって、未熟な部分が残っているとしても、私の支援さえあれば輝ける。

 私がついていれば彼女は頂点に立てる。

 私だけが彼女の味方なのです。




 古びた木製扉の摩擦音で思考は切り替わります。見ると、準備を終えたアメリアが玄関口から顔を覗かせた瞬間でした。

 若干の気疲れは残るものの、先程よりもしっかりとした足取り。辺りをきょろ、と見渡した後、私と視線が交わり顔をほころばせます。釣られて私も。


「ごめん。お待たせ、シエル」

 と、トタトタとこちらに駆け寄る姿は実年齢よりももう幾分か幼く、母親を見つけた迷子のようにも見えました。

「いえ、大丈夫ですよ」


 つい反射的に、その結われた髪に添わせるように頭を撫でる。それで一瞬だけアメリアの身体が硬直します。が、暴力性を伴わないことに気がついたのでしょう。すぐに目を細めて身を委ねました。

 一挙一動にこれだけ敏感に反応してくれるのだから、楽しくないはずがありませんでした。

 しかし今はそれどころではないので、自身の口元をぐにぐにといじり平静をつくってから語ります。


「……まあ、やり直すのはまだ遅くありませんよ、アメリア。これからまたS級に戻ることだってできます」

「…………うん」

「”白銀の牙”再始動ですよ。覚えていますか? 組合ギルドに二人で小隊申請に行ったときなんかアメリアは緊張で固まってましたね」


 と、思い出話で励まそうとしたのですが、アメリアの眉はだんだん下がっていくばかりです。


「…………あのさ、シエル」

「はい、なんでしょう」


 か細い声に不穏を感じましたが、それを気取られないようににこやかに返します。


「……えっと、考えたんだけど、私たち、もう冒険者は諦め――」


 それは殆ど反射的な動作でした。

 呼吸やまばたきと同様な自然な動きで、私の腕はアメリアの首に添えられます。

 つつ、とくすぐるように這わせ、彼女は口を閉ざします。

 別に、ただ添えているだけ。絞めたり脅したりするわけではないのですが、アメリアは喉を鳴らして固まります。


 悪い冗談だ、と思いました。


「……あまり、つまらないジョークは控えてください。最強の冒険者に、最強の勇者になるんでしょう? それが夢だと語ってくれたじゃないですか」


 それが、私の夢でもあるのです。


「こんな、道半ばで……こんなどうでもいい障害で立ち止まるのですか? 私を巻き込んで?」


 がっかり、はしていません。これは気の迷いです。少し精神が参っているから、しょうもない考えが浮かぶのです。

 私は彼女を信じていました。


「どうしても、と言うから戻ってきたのに……ここで終わらせてしまうのですか」

「――っごめ、ごめん! 今のは……はは、冗談、うん、ごめんね」


 泣き笑いのような、ひどく情けない表情でした。それで、とても良い。


「……なら、いいのです。では、これからはS級返り咲きを目指して、頑張りましょうね」


 それから、「絶対に見捨てませんから」と加えて。絶対に逃がしません。

 アメリアの瞳に浮かんだのは、希望か絶望か、もしくはその両方でした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お互いに顔をほころばせたり、アメリアちゃんが幼子に見えたり、頭を撫でてあげたり、優しい飴がその後の腕を添えて以降のどこか狂気混じりの鞭的な言葉を映えさせていて、持ち上げて落とすみたいな感じ…
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